新たなランクへ
「なんか気合入ってね?」
「だよな。いつも以上に顔付きが凛々しいっつうか」
終礼が終わり、これから探索者組合に向かおうとした時だった。
荷物を背負った真一と頼仁がそう言ってきたので、俺はいきなりどうしたんだと首を傾げたが……確かにこれからのことを考えれば自ずと答えは出た。
「ちょっと組合でやることがあってさ。それで顔に出てたのかもしれん」
何を隠そう今日はこれから組合に向かって新しいランクの認定をしてもらう日だ。
本来であれば探索者としての功績も大なり小なり含まれるものの、刹那と一緒にAランク階層などに入っていたことは伝えているし、そこで手に入れた素材なんかも評価される一因となっている。
つまり、後は単純に力を示せば新しいランクの認定もしてもらえるのである。
「もしかしたら……かなり驚かせるかもしれないな」
「マジかよ。楽しみにしてるぜ?」
「ま、瀬奈のことだから特に驚かないかもしれないけどさ」
それは……ある意味で信頼の証でもあるのか。
その後、二人と別れ俺は刹那と合流し組合に向かう。やはりというべきか、彼女と一緒に居るだけで多くの視線を集めるのはいつも通りだ。
でも今日の結果次第でこの視線が減る……減るよな? 減ると思いたいが、少なくとも妙な絡みをされることはなくなるはずだ。
「緊張してる?」
「いや? 思った以上にしてないな」
隣を歩く刹那に俺はそう答えた。
今答えたように緊張は全くなく、どちらかといえばすぐに終わらせて刹那との時間を楽しみたいとさえ考えているほどだ。
「そう。なら何も心配は要らなそうね」
「安心して見守っててくれ。刹那が居てくれたら何があっても大丈夫だ」
少しキザかとは思ったが、俺は周りの目を気にせず刹那の頬にキスをした。
突然のことではあったものの刹那は顔を赤くしただけかと思いきや、お返しと言わんばかりに俺の頬にもキスをしてくるのだった。
これでやる気は注入してもらったのと同じ……よし、行くか!
「あ、こんにちは時岡君。待ってましたよ!」
「どうもです早乙女さん」
今日の担当もご存じ早乙女さんにお願いした。
ただ、今まで偶然にも早乙女さんが俺を気に掛けてくれたこともあって一緒になる時が多かったのだが、実際にランクに関することで頼み事をしたのは初めてだ。
「こんにちは早乙女さん」
「皇さんもこんにちは! 本当にお二人は仲良しですね♪」
「えぇ。彼の彼女ですから」
「そう……うん?」
あ、そういえば早乙女さんに伝えたのは初めてだったな。
ポカンとしていた早乙女さんは後で詳しいことを教えてくださいと、まるで恋バナに飢えているかのような顔で俺たちに詰め寄った。
そんな彼女の様子に俺と刹那が苦笑していると、近づいてくる人が居た。
「待たせたな」
それは渋い声だった。
俺たちの元に歩いてきたのは大人の男性であり、その顔は俺も少し雑誌などで見たことがあった――
「神藤さん。お疲れ様です」
「待たせたな早乙女。なるほど、君が覚馬さんの言っていた時岡君か」
「覚馬さん?」
「お久しぶりです神藤さん」
「お嬢さんも久しぶりだ」
えっと……これは一体どういう繋がりなんだろうか。
刹那は彼と顔見知りのようだがどうしてここに居るのかまでは分からないようで首を横に振ったが、詳しいことは彼の口から語られた。
「今回のランク認定に関して、覚馬さんから直々に相手をするようにお願いされたんだ。Sランクの俺が相手をすることで齎される結果、それがもっとも分かりやすいものとしてな」
「……なるほど?」
「最初は俺も驚いたものだ。覚馬さんは戦えば分かると言っていた――今回君の相手をするわけだが、正直少し興奮している。あの覚馬さんがそこまで言う相手、君の力は如何ほどかと」
「……確かに父には話していましたけど……一言くらい教えてくれても良いのに」
確かになと俺は笑った。
それから模擬戦用のルームに移動する途中で彼……神藤さんとの繋がりについて簡単に教えてもらった。
どうやら彼は覚馬さんが探索者である頃からの知り合いらしく、覚馬さんのことを師匠のように慕っているとのこと。
「それで私も知り合いなのよ」
「へぇ」
そういうことだったのか……まあ当たり前だが、これは決して手加減をするつもりでも甘い判定を下すわけでもないらしい。
神藤さんは本気で俺とやり合った上で公正な結果を出すつもりだ。
(……面白い―やるぞ相棒)
俺の中で、任せろと相棒が頷いた気がした。
「それでは……あれ、時岡さんは弓ではないんですか?」
今の俺は手ぶらなため、早乙女さんの疑問はもっともだ。
俺の対面に立っている神藤さんは鎌を取り出しており、それは正に人の命を狩る形をしていた――死神の鎌、中二病全開の最高にかっこいい武器だった。
「瀬奈君」
「うん?」
「勝ってね?」
現役の社会人Sランクに勝てと刹那は言った。
それは現Bランクの人間に対する言葉としては圧倒的におかしなものではあるのだが、俺は自信を持って頷いた。
「おう」
小さく深呼吸をする中、考えることはいくらでもあった。
俺は今まで本来の力を公にはしなかった――つまり、ロストショットなどに関しては出せないにしても、本来の剣術のレベルと無双の一刀に関しては完全に記録されることになる。
(感慨深いな……大切な存在が出来ると、やっぱり考えも変わるのか)
そんな自分に苦笑しながら、俺は刀を手元に呼び出した。
【無双の一刀】発動
刀を手にした瞬間、二つの驚きが俺の耳に届いた。
一つは早乙女さん、そしてもう一つは神藤さん……だがこの人、ニヤリと笑ったのを見るにもしかしたら戦闘狂かもしれない。
「大したものだな……その力、面白い!」
うん……やっぱり戦闘狂だ。
でも負けるわけにはいかないなと、俺は気合を入れる。
勝ち負けが結果に直結するわけではないが、それでも勝ったことで得られる評価というのは大きいはずだ。
無双の太刀を手に、俺は神藤さんへと駆け出した。
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