家族の言葉

「ふんふふ~ん♪」


 週末になり、雪と母さんの二人と約束していた時間になった。

 刹那も気になるようだが、まずは俺だけで話をする予定だ――もちろん、刹那も途中から合流する。


(……何でも出来るんだなぁ)


 俺の視線の先で刹那は編み物をしていた。

 夏が終わって次にやって来るのは秋、そして次に訪れる冬を乗り越えるために彼女は俺のマフラーを編んでくれていた。

 もちろん良い機会だとして自分のも作るようだが、こうして編み物をするのは初めてらしいけどかなり上手だ。


「本当に初めてなのか?」

「えぇ。これも愛の力じゃない? 瀬奈君のことを思えば出来ないことはないもの」


 もちろんちゃんと作り方をスマホで見ながらだが……本当に器用に手を動かしており、何度か経験があるんじゃないかと思わせるほどで、改めてこういった場面でも刹那のスペックの高さを思い知った気分である。


「それじゃあ刹那、ちょっと話してくるわ」

「えぇ。落ち着いたら戻ってきてね」

「了解」


 リビングから出て俺は自室に向かった。

 椅子に座ってスピーカー状態にしながら電話を掛けると、すぐに向こうは出てくれた。


『もしもし、兄さん?』

「早かったな。もしかして待ってたか?」

『もちろんだよ――大事なお話みたいだったし』

「……………」


 特にどんな話をするのか伝えていなかったが、雪は何かを察していたようだ。

 どうやらそれは母さんも同じらしく、きっと何か大切な話をするんだろうと話していたらしい。今は風呂に行っているのでもう少し掛かりそうだが、本当に察しの良い家族である意味安心する。


『刹那さんとの生活はどう?』

「最高だな。用意してもらった部屋も悪くないし、雪や母さんが来ても満足出来ると思うぞ?」

『そんなになの!? うわぁ楽しみだなぁ♪ あ、でもお母さんはたぶん刹那さんのご実家に泊まるんじゃないかな? 刹那さんのお母さんと早くお酒が飲みたいって話をかなりしてるみたいだから』

「へぇ」


 まだ実際に会ったことがないとはいえ、恐るべき速さで仲良くなっていることは知っていたので、こっちに来た時は本当にそうなりそうだなと苦笑した。

 雪としばらく適当に雑談をした後、母さんが傍に来たようだ。

 そろそろ良いかと思い、俺は早速切り出した。


「……えっと、その……なんだ」


 ただ、いざ話そうとすると少しどうしようかと迷ってしまう。

 まだそうなっているわけではないのだが、もしかしたら二人に窮屈な生活を強いてしまうと思う少し……な。

 とはいえ、刹那もそうだが覚馬さんと鏡花さんも色々を言ってくれたことがあり、時代の移ろいによってそこまで遺伝的なモノを絶対とはしない動きも多いとか……それについては初耳だったが、深い部分まで知っている刹那の両親だからこそ調べてくれたことでもあった。


『兄さん、大丈夫だよ』

『そうよ。落ち着いて、ゆっくり教えてちょうだい』

「……あぁ。ありがとう」


 二人の優しい声にお礼を言った後、俺は話し始めた。

 俺が探索者として活動する中で目覚めた力、それが今の自分のランクに見合わないものであることを。

 本来であれば強い力を持てば持つほど家族からの遺伝が重要となり、それを心配に思って本来の実力を隠していたことも全て伝えた。


『そうだったんだ……』

『……全くもう、アンタって子は』


 たぶん、目の前に居たら二人とも俺のことをもみくちゃにしたんだろうことが理解出来た。たとえ声しか聞けなくても、二人の優しさは思い遣りはちゃんと俺の元に伝わっている……それが何より俺は嬉しかった。

 その後のことは簡単だ。

 覚馬さんと鏡花さんが俺に話してくれた内容と合わせ、もしかしたら二人に関することも伝えた――その上で返ってきた言葉、それはある意味で予想出来たものであったのは言うまでもなかった。


『気にしないでよ兄さん。むしろやっちゃってって感じ!』

『そうね。今まで瀬奈に助けられたから……なんて言うわけでもなく、あなたが正当な評価を得られることは母親として誇らしいことよ。きっとパパも同じことを天国で思っているはずだわ』

「……………」


 予想出来た……確かにそうだ。

 けどこうして実際に俺の持っていた力のことを知ってもらい、家族の口からやってみなさいと言われるのは強く背中を押してもらった気分だ。


「雪、母さん――ありがとう」


 これで覚悟は決まった――いやむしろ、前もって考えていた時よりも想いはとてつもなく強い気がする。

 刹那にも言ったが別に俺は探索者ランキング等には興味はない。

 だがランクというものはある程度は物を言うこの世界において、本来の力でしっかりとした結果を必ず残してみせよう。


「あぁでも、やっぱり刹那の両親には伝えておくから。アイテムとか送ってるから全然大丈夫だとは思うんだけど、万が一ってのがあり得るからさ」

『分かった!』

『何から何までありがとうね瀬奈』


 良いんだよと俺は笑った。

 その後、刹那の元に戻って四人で話をすることに。

 以前のように俺が弾かれる形で女子トークが展開されたわけだが、俺としてはそんな彼女たちの光景を見ているだけで幸せだった。


(……さてと、明日にでも学校の帰りに組合に寄って申請しとくか)


 ランクを再認定してもらうために……俺は自然と拳を作るのだった。

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