お姫様

 オール電化ってのは便利で良い!

 それが刹那と一緒に住むことになったマンションの感想の一つであり、実家や寮に比べて人類の進歩とはこんなにも進んだんだなと素直に思う。

 まあ刹那の実家もこうではあったのだが、基本的に鏡花さんがその辺りは全てやっていたので触れる機会はなかった。


「でもオール電化って地震とか台風で停電が起きるとヤバいんだっけ。そういう時のことも考えて一応は避難グッズとかも揃えておくか」


 ここに居るのは俺と刹那だけ、自分たちのことはほとんど自分でしないといけないからな。その内一人で行くか……刹那を誘ってデートがてら見て周るのも良いかもしれない。

 そう考えているとリビングの扉が開き、パジャマ姿の刹那が戻ってきた。


「お風呂空いたわよ」

「了解」

「……明日は一緒に入るんだからね?」

「……おうよ」


 ドキッとする一言をもらって俺は風呂に向かう。

 基本的に刹那と一緒に入らない時は気分によってどっちが先か決まるのだが、こうして彼女の後に風呂に入るのは少しばかり緊張する。


「今更なんだけどなぁそれは」


 刹那とはキスもそうだし体も既に重ねている。

 なので一緒に風呂に入ることはおろか、彼女の後に湯船に浸かることも特に意識するはずはないのに……まあ、これもまだ彼女と付き合って日が浅いという証なのかもしれない。

 服を脱いで生まれたままの姿になった俺は浴室に入り、しっかりと体を洗った後に湯船に肩まで浸かった。


「……ふぃ~♪」


 体の芯まで温まる良いお湯だ。

 しかも肩まで届くこのお湯には刹那の色々なモノが……こほん、流石にこれ以上はダメだろうと俺は変な想像を戒めた。

 とはいえ、思春期の男の子なら誰でも想像するじゃないかな……だから別におかしくはないと思うことにする!


「……………」


 ただまあ、ジッとしていれば気持ちも落ち着いてリラックス出来る。

 時間にして10分くらいか――体が完全に温まったのを感じた後、刹那の残り湯に名残惜しさを感じつつ風呂を出るのだった。


「ただいま」

「おかえりなさい」


 ちょうど夕飯の準備をしている刹那が出迎えてくれたのだが、こうして戻ってきた際に恋人が料理を作りながらおかえりと言ってくれるこの瞬間はやはり、幸福以外の何物でもない。


「手伝うよ」

「ありがとう」


 ダンジョンに向かう都合上、体の疲れが溜まらないわけではない。

 まあ俺と刹那は基本的にそこまで疲れることはないが、全部が自分たちでやらないといけない以上は面倒に考えることだってある。

 それでもこうやってお互いに手を取り合って家のことをするのはただ一つ、俺たちがそうしたいからだ。


「こういう時、母に料理を習ってて良かったと思うわ。瀬奈君に美味しい料理を食べてもらいたい、あなたの笑顔が見たいって思ったらね」

「……くそっ、今ハンバーグを捏ねてなかったら抱きしめたい気分だぞ」

「寝る前にどうせするでしょ? でも、私は出来るけれどね♪」


 手に付いた水をタオルで拭くと、刹那は俺の背後に回った。

 そのまま腹に手を回すようにして抱き着いてきた彼女に、俺はやれやれと思いつつもこういう一つ一つの動作が可愛くて仕方ないんだ。

 流石にフライパンでハンバーグを焼く時は離れてもらったが、気を抜いたらお互いにずっと引っ付いていそうで怖くなる。


(……以前に怖いの見たな。なんだっけ、チョウチンアンコウだっけか)


 雄と雌が引っ付き、最終的には雌の体に合体するってSNSか何かで誰かが言ってたような気がするようなないような……うんちょっと怖いなそれは。


「ずっと引っ付いていたいわね……ねえ瀬奈君。次の休日はダンジョンとか行かずにジッとしていない? 最近色々あったしのんびりしたいわ」

「良いよ。じゃあそうしよっか」


 そんな約束をしつつ、完成した夕飯を二人で楽しんだ。

 俺は刹那ほど料理が出来るわけではないが、それでもそこそこ手伝いは出来るので準備も片付けも終わるのは早い。


「良し……良し……良し!」

「ふふっ♪」


 寝る前にちゃんと色々消したかしっかりと確認をする。

 指差し呼称をするかのように確認する俺を刹那が楽しそうに見つめており、少しばかり恥ずかしいが慣れてきたらこれもなくなるだろうけど。


「それじゃあ寝室で待ってるわね?」

「あいよ」

「早く来てよ?」

「分かってるって」


 本当に一々反応が可愛くてヤバいんだが……刹那が可愛すぎて辛い。

 あまり彼女を待たせないようにと、自室に戻って明日の用意を素早く終わらせてから二人で寝るためのベッドが置かれている寝室へと向かい、ベッドの上で今か今かと待ち望んでいる彼女の元に向かう。


(ま、今日は何もしないんだけどさ)


 待ち望んでいると言ったがそれは単に刹那が早くくっ付きたいだけだ。

 ベッドの上に上がって横になり、刹那が抱き着くように身を寄せてきた。


「やっぱり一日の終わりはこれよねぇ」

「だなぁ。こうして隣に温もりがあるのは本当に落ち着くよ」

「私もよ。瀬奈君の温もりと香りに凄く安心するの」


 果たして、こんな俺たちを友人たちに見られたらどんな反応をされるか……それが意外とないわけではない可能性も出てきている。

 実は近いうちに沙希と夢がここに遊びに来ることになっている。

 主に目的は刹那だと思うのだが、こうして一つ屋根の下で過ごしていると絶対に俺もその輪から抜け出すことは出来ない。


「瀬奈君。ちゅーして?」

「……はいよ。お姫様」

「っ♪♪」


 中々にお姫様レベルが上がり過ぎている最近の刹那さんであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る