ランキング一位
式守というSランクの探索者と知り合いになったからなのか分からないが、廊下を歩くと俺と刹那の前からある男子が歩いてきていた。
(あれは……)
今まで何度も見た顔だが、それでもこんな風に近づいたのは初めてかもしれない。
「
「あら」
その男子の名は寺島
俺は話したことはないものの、物腰柔らかく人格者というのは噂で聞いているし、ふとした時に見かける彼の表情も笑顔以外を見ることはない。
(笑顔以外を見ないってそれはそれで不気味だけど……)
なんてことは思っても口に出したりはしない。
「おや、皇さんか」
「寺島君こんにちは」
「こんにちは」
やはり刹那も彼とは顔見知りのようだな。
特に何かを話すでもなく、彼は刹那に挨拶をした後に俺にも視線を向けてちょこんと頭を下げた。
寺島の目には一切の悪意は感じられず、同時に何を考えているのかも全く分からない目をしていたのが印象的だったが。
「やっぱ顔見知りなんだ?」
「まあね。ダンジョンでも見かけることはあったし、賞状をもらう時の打ち合わせで顔を合わせることは多かったから」
「へぇ」
それから簡単に寺島のことを教えてもらった。
やはり特に気にしていなかった俺と違い、刹那は彼と話をする瞬間が多かったのもあって色々と知っていた。
例によって例の如く彼の両親は揃って高ランク探索者だ。
ただ刹那のように実家が大きいとかではないらしく、普通の一般家庭という点においては俺と同じのようだ。
「それでもやっぱり両親は探索者なんだな」
「そうね。基本的に遺伝の面が強いから……そうなると本当に瀬奈君は凄いわ」
「あはは、なんでだろうな」
うちの両親は母さんもそうだけど父さんも普通の人だった。
これは今まで何度も言ってきたことだけど、頭に残る幼い記憶から見てみても絶対に両親は普通だったと確信を持てる。
「幼い頃に特殊な薬を飲まされて覚醒なんて過去もないし、夢の中で神様に会って力を与えられたわけでもないからな」
「そういう創作物流行ってるわよね。嫌いじゃないのよねぇ」
「俺もだ」
そんな風に刹那と話しながら、俺はもう一度背後を見た。
当然ながら既に寺島の姿は無かったが、探索者としての寺島のことで俺が知っていて気になることが一つある――それは彼の武器も刀ということだ。
「どうしたの?」
「あぁ。寺島も刀を使うんだったなって」
そう言うと刹那は確かにと頷き、ピタッと俺に肩をくっ付けて言葉を続けた。
「彼も確かに相当な使い手だわ。でも自信を持って言える――刀を握らせたら、瀬奈君に勝てる人は居ない。決して恋人だからっていう贔屓ではなく、私はそう確信をしているわ♪」
「……そっか。そこまで言われたら自信を持たないわけにはいかないな」
別に寺島と戦ったりするわけでもなく、張り合っているわけでもない。
それでもこんな風に大好きな彼女が言ってくれるのは彼氏として凄く嬉しいし、自分の中で大きな自信になるのは間違いなかった。
それから昼からの授業を過ごし、放課後になった段階で俺と刹那は揃ってダンジョンへと向かう。
「皇さん!」
「俺たちとパーティ組みませんか!?」
ダンジョンの入口に着いた瞬間、刹那を呼び止める声があった。
一応傍に俺が居るのだが、彼らは一切こちらに視線を向けることなく刹那へとそう呼びかけた。
刹那は彼らからの問いかけに対し、考える素振りを一切見せることなく――。
「お断りするわ。瀬奈君、行きましょう」
「おう」
歩き出すと背中に鋭いと思われる視線がいくつも突き刺さる。
耳を澄ませると罵詈雑言が聞こえていきそうだが……やはりこういうことがあると週末に予定している家族会議はやって然るべきだ。
思い立ったら吉ということで既に話をするからと雪と母さんには伝えており、雪は俺の文面で真剣なことだと分かったのか、一言『絶対に時間は空けておくからね』と返事があった。
仮に母さんが連絡に気付かなくても雪が伝えてくれるはずだ。
「確かに今の段階だと瀬奈君のランクはBだわ。でも彼らに認めてもらう必要なんて何もないのに面倒ね」
「ま、こればっかりは仕方ないんだろうな。ある意味突っかかってもらって撃退すると色々と楽なんだろうが……」
「確かにね。こう思ってはダメなんだろうけど、もしも瀬奈君と彼らの戦いを見ることがあったら思いっきりざまあみろって心の中で言っちゃうわ。私の彼氏にあなたたちが勝てるわけないでしょってね♪」
決して表に出すことはなく、心の中で呟くのが刹那の優しい部分だ。
俺も基本的にどんなにムカついたとしても相手を煽るようなことをするつもりはないけど、心の中でだけなら俺は好き勝手言うだろうな。
「それじゃあ行こうぜ」
「えぇ」
それから俺たちはダンジョンに潜り、Sランク階層まで向かった。
いつも思うことだがSランク階層も奥まで行けば行くほど人は少なくなる。その理由は危険だというのもあるが、それ以上にまだ明かされていない深淵だからだ。
「……………」
俺と刹那は確かにSランク階層での狩りを行うことが出来る。
だがそれでも、まだ向かっていない奥底というのは存在するので……いずれ万全の準備を整えることが出来たら、自分の限界にチャレンジをするという意味でももっと奥に進んでも良いかもしれない。
もちろん、安全をしっかりと考慮した上でだ。
(……いや、正直そこまでか。ただ彼女が居てくれればそれで良い)
剣を取り出した刹那を見て、俺は静かにそう思った。
こうして日々が過ぎて行き、予定していた家族会議の瞬間がやってくる。
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