力を示す
「それにしても驚いたわね」
「あ、式守のことか?」
刹那は頷いた。
既に放課後になり、新学期最初の日ではあるが俺と刹那は当たり前のようにダンジョンに潜っていた。
そんな中、魔物を倒しながらの休憩中――話の内容は式守についてだ。
実は終礼が終わってクラスメイトの各々が教室を出ていく中、別クラスの式守が入口で待っていたのである。
もし許されるのならと言っていた彼だが、どうもすぐに行動するタイプらしい。
俺と刹那は驚いたものの、予め彼について話を聞いていた刹那はその場で式守の謝罪を受け取った。
『ただ、私のことを言うのはどうでも良いわ。でも両親のことで出鱈目を言ったことは許せないわ』
『分かっている。土下座でも何でもするつもりだ。もちろん、それで許してもらえないのであれば他にも――』
なんてやり取りがあったわけだ。
刹那の表情は厳しかったものの、流石にそこまで言っていた式守に対してそれ以上を望むことはなく、一応二人の間のいざこざはこれにて解決した。
「でも彼にも弟が居て、それで頭の冷えた彼を怒ったのもまた弟なんてね」
「だな。なんつうか、どんな奴も家族には……それこそ、自分より年下には弱いんだなって思ったよ」
「随分と話が弾んだみたいね?」
「まあな。弟と妹って共通点みたいなのがあってさ……あぁでも、別に話が弾んだとかそういうほどじゃない。もしかしてこいつ、気が合うかもってだけだ」
「それって十分すぎない?」
「……かもなぁ」
そうは言っても、流石に俺もあいつの言った言葉全てを簡単に許せるわけではなかった。
刹那のこともそうだが、覚馬さんや鏡花さんのことに対して言ったことも忘れてはいないし、そうかそうかなら良いよとはならない。
「あいつの言ったことは許せない。けど刹那が何も言わないのならそれで良いし、刹那が許すのなら俺はその意志を尊重して何も言わないつもりだ」
刹那が許したのならそれで良い。
許せない気持ちがあったとしても、刹那を置いて俺が何かをするのは違うと思ったからに他ならない。
「だからまあ、式守に関してはもう大丈夫だろ」
俺はそう言ってクイッと指を動かした。
すると俺の背後に迫っていた魔物の群れは魔弓の雨に撃たれ、苦しそうな呻き声を上げて消滅した。
(……とはいえ、今日みたいな絡まれ方をするのを考えたら……俺も少し、色々と考えた方が良さそうだな)
いや、これに関しては既に色々と考えを巡らせていたことだ。
刀を抜くことに躊躇しなくなったとはいえ、結局周りに隠していることは何も変わらないわけだ。
もしも俺が実力のない人間だから刹那の傍に居ることを気に入らない人間が居るのであれば、彼らを黙らせるほどに力を周りに示せば良い……だが、そうすると雪と母さんに窮屈な思いをさせることになる。
「……かなりのジレンマだよな」
とはいえ……週末に二人に聞いてみようかな。
覚馬さんと鏡花さんも手助けをしてくれるって言ってたし……俺もまだ子供、なら大人に頼るのもありかな。
「刹那」
「どうしたの?」
「……週末にさ。雪と母さんに話してみる――俺の本来の力のことと、もしかしたらランクが上がることによって起こるかもしれないこととかを」
「……良いの?」
「ま、どうなるかはともかく話すだけならタダだ」
そう、話すだけはタダだ。
まあでも、ある意味で産まれは関係ないっていう前例でも出来れば意外と丸く収まる可能性もあるからな。
真一たち友人はかなり驚くだろうけど……ま、それもその時だ。
「元々、力を隠していたのは家族のためだ。もし良い方向に転がってくれれば、基本的に弓で戦いながらでも臨機応変に刀を使えるようになるし」
「ふふっ、そうね。もしそうなると瀬奈君の探索者ランキングも上がるのかしら」
「いやそれはないじゃないか?」
組合から出される探索者ランキングは確かに探索者のことを分かりやすく表す指標として使われるのだが、ランキングは登録するかどうかを選ぶことが出来る。
最初は探索者であることを楽しみ、それからは雪のことで一生懸命だったこともあって登録なんかする暇もなかったし、特に興味もなかったから結局はそのままで登録していない。
「そうだったのね。する気はないの?」
「ないかな。別に誰かと張り合う気もないからさ。だからその分、刹那が頂点を取るのを見守るし協力する」
学生の中だけとはいえ、一位を取るのは凄まじいことだと思っている。
確か一位の男子はかなり強いと有名だし、探索者としての実績も半端ではないことを知っているが、刹那なら越すことが出来ると俺は信じているから。
「……なら、頂点を取る時を見届けてもらわないとね? というか、最近の私は一位になることに対して特に何も考えてはいないのだけど」
それは前にも言ってたな……まあでも、仮に狙う気がなかったとしてもこの調子で行けば意外と行けそうなもんだけどなぁ。
それから俺たちは休憩を終えた後に再び魔物を狩り終え、二人で仲良く新居へと帰宅するのだった。
どういう形に落ち着くかは分からないが、雪と母さんへの話は必ずしよう。
刹那も傍に居ることだし……新たな決意の門出としては、やはりここは俺一人で決断をするわけにはいかない。
(ま、二つ返事で頷かれそうではあるんだけど……)
なんてことを思いつつ、すぐに週末になった。
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