意外と?
休み明けの初日は早くも昼休みに突入だ。
刹那と一緒に昼食を済ませるつもりだったのだが、今日は友人たちとの久しぶりの再会ということもあって別々にそれぞれ対応することになった。
「それにしても……なんか注目の的だな?」
「……ま、分かっちゃいたさ」
真一と頼仁の二人と一緒に学食にやってきたのだが、既に刹那と付き合っていることはかなり広まっているようで、廊下を歩いていた時もそうだが学食に入った時にも多くの目を向けられてしまったほどだ。
既に開き直っているようなものだけど、それでもこんな風に多くの視線を集めるというのは中々にしんどいものがある。
(だからと言って刹那との仲を改めようとは思わないんだよな)
刹那との日々に比べればこの程度を耐えるのは造作もないことだ。
あれは誰だと、どうしてあんな奴なんだと、どうしてBランクの雑魚なんかと……そんな風に色々と囁かれているが、俺はただ堂々と胸を張っていればいい。
「……あいつら、瀬奈のことも何も知らないでよく言うぜ」
「だよな。皇さんとの姿を見てないから言えるんだぜ」
好き勝手言っている周りの連中に真一と頼仁は怒ってくれた。
俺は何も気にしてはいないが、友人である彼らはやっぱり気にしてくれるようで怒っている……そんな風に怒らなくて良いと思いつつも、俺のためにそう言ってくれることが嬉しかった。
「ありがとな二人とも。あまり気にし過ぎても上手い飯が不味くなるだけだ。先に食っちまおうぜ」
「……分かった」
「そう……だな」
せっかくこうして学食に来て美味い飯を食ってるんだ。
文句なんか言ってたらそんな美味い飯も不味くなっちまうだろ? 久しぶりの学食ってことで俺たち三人とも1500円くらいする定食なんだからな。
肉も野菜もたっぷり。ついでにチョコパフェも頼んで腹はいっぱいだ。
学食というよりは完全にファミレスに行ったのと同じ気分だがまあ、偶には悪くない。
「ご馳走様でしたっと」
「食った食った」
「こんなに学食の飯って美味かったか?」
それはちょっと失礼だぞ頼仁君や。
「ほら、久しぶりだったからさ」
「まあ分からんでもない」
そのように三人で教室に戻る時、俺たちの前に男子が二人立ち塞がった。
名前は知らないが見たことはある顔で、彼らはAランク探索者だ――ジッと俺を睨んでいるため、それだけで俺に用があるのだと察した。
真一と頼仁が俺を守るように前に立ったが、俺は二人の肩に手を置くようにして前に出た。
「そんな風に睨まれる筋合いはないぞ? こちとら昼飯を終えたばかりなんだ」
「うるせえよ」
「ちょっと面貸せ」
面貸せと言われて頷く奴が居るかって話だ。
無視をするようにその場から歩き出すと、彼らは分かりやすく舌打ちをして俺たちに向かってくる。
明らかな敵意と今にも手を出してきそうな雰囲気だったため、俺は咄嗟に二人を背に庇うようにして前に出た――流石に学校の敷地内で手を出してくるデメリットは大きいので無いとは思うが念のためだ。
「……うん?」
しかし、そんな俺の心配も全くの杞憂だった。
「おい。つまんねえことをしてんじゃねえぞ」
「っ!?」
「なんで……っ」
俺たちの前に一人の男子が立ち塞がったのだ。
彼ら二人は目の前の男子に唖然とした表情を向けており、それは俺たちも例外ではなかった。
何故なら俺たちを庇うように立ったのは式守裕也――刹那のランキングに文句を付けてきた男だったからだ。
「ど、どうして式守さんがそいつを……?」
「っ……式守さんだって知ってるだろ? そいつ、生意気にも皇さんと――」
「うるせえぞ。そんな下らねえことをしてなんになる。そうやって他人に当たるくらいなら少しでも強くなる努力をしやがれ」
式守の言葉に彼らは悔しそうにした後、すぐに背を向けて走り去った。
まるで俺たちを助けるかのように現れた式守だが、彼が今口にした言葉には何様だよと言いたい気分である。
(お前、刹那に色々言ってただろうが……)
それを言うと面倒なことになりそうなので黙っておくことにした。
俺と同じで何が起こったのか分からない様子の真一と頼仁。彼らと顔を見合わせていると式守が振り返った。
「……その、なんだ。今の台詞を口にした俺にどの口が言ってんだと思っただろうがそれは甘んじて受け入れる――この前のことは済まなかった。必要ないと言われれば関わらないが、もし許してくれるなら皇にも謝罪したい」
「……えっと」
頭を下げた式守に更に俺は困惑した。
以前にダンジョンで見た時は明らかな敵意があったはずなのに、それが今は全く感じられず、見るからにクソ生意気そうな奴だったのが嘘なくらいに丸くなっている。
「何か悪い物でも食ったのか?」
「……単に反省しただけだ。ランキングを抜かされたことにイラついただけで彼女に当たり散らしたことにな」
「……そうか」
取り敢えず、少し話がしたかったので真一と頼仁には先に戻ってもらった。
何となく今のこいつなら話が出来ると思ったので、こうして俺は彼との時間を作った。
「反省した……そう、反省はしたが……圧倒的な力の差を見せ付けられた。お前はどうしてそんなにも強いんだ? 俺はそれがずっと気になっていた」
「ふ~ん……ま、公にはしてないんだよなこれが」
「分かってるぜ。あれほどの力を持っていてBランクなんざどう考えてもおかしいからな。あの様子だと皇も知っていたみたいだが……いや、それは良い。とにかく、お前に手も足も出なかった事実があの後に頭を冷やしてくれたんだよ」
「そうだったのか……俄かには信じられないけどさ」
「それは当然だろう。あんな風に絡まれたんだから誰だってそんな反応をする」
嘘を言っているようには見えないな……絡まれる予想はしていただけに、もしこれが本当なら喜ばしいことだけど。
「あの日、帰った後に何があったのか気になるって弟に聞かれたんだよ。それで、俺を目指して探索者を目指している弟のことを思うと……イラついてお前たちに絡んだ自分が心底恥ずかしくなったんだ」
「へぇ? 弟が居るのか」
「あぁ。俺に似ずに優しい子がな」
「そうか……どうだ? 自分より下の家族は可愛いだろ? 俺にも妹が居るから良く分かるんだ」
「っ!!」
もしかしたら……俺は彼と仲良くなれるかもしれない。
なんてことをちょっとだけ思うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます