探索者ランキング
夕飯を終え、いつものように刹那の部屋でのんびりしていたのだが、俺は部屋を出てリビングの方に向かった。
そこではまだ覚馬さんと鏡花さんがゆっくりしており、現れた俺を見て目を丸くしながらも手招きするように誘ってくれた。
「すみません。夫婦の団欒を邪魔してしまって」
「そんなことを言うものじゃない。君も家族みたいなものだ――遠慮なく来なさい」
「……はい」
ヤバい、最近の覚馬さんの包容力が凄まじい。
鏡花さんの方もよく構ってくれるというか、積極的に関わりを持つように声を掛けてくれて家族の温もりのようなものを感じる。
実際に家族と離れている身でこのような気持ちになるとは思わなかったが、もうすぐここから離れると思うと少し寂しい。
「どうしたの?」
「実は――」
今、刹那は雪と楽しく電話中なのである。
それでもスピーカーなので雪の声も聴こえるのだが……まあ、少し女の子同士の話になると肩身が狭くなるものだ。
「そういうことだったのね」
「ははっ、確かに気持ちは分かるぞ瀬奈君」
どうやら似たような経験が覚馬さんにもあったようだ。
それから二十分ほどここで時間を潰していたが、電話を終えたのか刹那が俺を探しにリビングまでやってきた。
刹那の表情から雪ととことん楽しく話が出来て何よりだし、俺を置いて盛り上がってごめんと謝られたけどその必要はないとちゃんと伝えておいた。
「それじゃあ部屋に戻りましょ?」
「分かった。それじゃあ覚馬さん、鏡花さんもおやすみなさい」
「おやすみ二人とも」
「おやすみなさい」
途中でトイレを済ませた後、刹那と共に部屋に戻った。
こうして彼女の部屋で過ごすのも後少し、そう考えるとやっぱりここから離れるのもあって寂しさはあった。
刹那の肩を抱くと彼女は嬉しそうに身を寄せてくれるので、この温もりがあれば寂しくはないなとも思える。
「どうしたの?」
「ちょい寂しいなと思ってさ」
思っていたことを伝えると刹那はクスッと微笑んだ。
「そんな風に思ってくれるのはとても嬉しいわ。父も母もそれを正面から言われたら感動するんじゃない? ま、いつでもこっちには来れるし……ご飯くらいは食べに来なさいって言われちゃったからね」
「そうだな」
こういう時、俺ってまだ子供なんだなって思えてしまう。
ただこういう話をしている時に思い出すことがあるのだが、真一の家に遊びに行った際にもあちらの両親にも結構心配とかされるんだよな。
それだけ寂しそうにしていると思われているのか。それとも単に田舎から出てきているから心配されているのか……たぶん両方かな。
「ど~ん!」
「っ!?」
そんな風に考えていた時、刹那に押し倒された。
俺の上に馬乗りになった彼女はそのまま体を倒し、至近距離で見つめ合う姿勢になって口を開いた。
「こんなに瀬奈君と距離が近くならなかったら知らないことをたくさん知れるようになったわ。あんなに強いのに、瀬奈君の弱い所をたくさん知るんだもの」
「幻滅する?」
「まさか、そんなことあり得ないわ。逆に親近感を感じるくらいだもの」
刹那はチュッとキスをしてきた。
彼女とキスを交わす中で、俺は自分のことを客観的に考えてみた。
俺は確かに自分のことを弱いと思ってはいないし、探索者として申し分ない以上の力を持っていることは自負している。
けど、そんな俺でも弱さを完全に捨て切ることは出来ないんだ。
(弱さのない人間は果たして人間と呼べるのか疑問だけどな……そう考えるのなら弱さを持っていてこそ俺は俺なんだろう)
弱さが何もない完璧な人間には憧れを抱く。でも、弱さを持っていてこそ他人と分かち合うことが出来る。
全部自分の中で完結出来るような人間はたぶん……幸せにはなれないような気もするからな。
「よし! ねえ瀬奈君」
「うん?」
「久しぶりにアニメを見ようと思うんだけど、一緒にどう?」
「何を見るんだ?」
「レギオンナイト♪」
……ははっ、まさかそんな提案を刹那からされるとは思わなかった。
俺が小さく頷くと、刹那はタブレット端末を操作して俺たちの前に置いた。
「なんか……悪くないわね。こうして恋人とアニメを見るのって」
「だなぁ。真一とかめっちゃ憧れそうだ」
「彼なら良い人が見つかるでしょう。もちろん他の子たちも」
「だな。良い奴らなのは確かだし」
真一も頼仁も、沙希も夢もとても良い友人だ。
だからこそその人となりは分かっているので恋人が出来てもおかしくはないと思うんだが、そこは彼らの意志だからな。
あの四人は誰か好きな人は居るんだろうか、それとも気になる人は居るのかと彼らの居ない所で、俺たちはアニメを見ながら盛り上がるのだった。
▼▽
以前、それこそ刹那と会ったばかりに彼女が言っていた言葉に探索者ランキングというものがあった。
探索者としての実績に応じて上がっていくこのランキングシステムなのだが、刹那のたゆまぬ努力もあって全学生内のランキングで彼女は二位に浮上していた。
「……最近は全然気にしてなかったわね。瀬奈君との日々が幸せ過ぎて」
そう言ってくれたのは素直に嬉しかったが、これもかなり大きな話題を呼ぶ。
夏休みが終わって学校が始まったら全校朝礼の時に刹那に関して、また以前のように賞状やら何やらが配られることになるだろう。
さて、話を戻そう。
ランキングが上がるということは、同時に彼女が上がった場所に居た人間のランキングが下がることを意味する。
個々の実力を示す指標として分かりやすいランキングシステムだからこそ、抜かされたことを面白く思わない奴が居るわけだ。
「よぉ」
「……あなたは」
「?」
Aランクダンジョンの奥で戦っていた俺と刹那に声を掛けてくる男が居た。
その男と俺は話したことはなかったが、何度か見たことがある――刹那と同等くらいには有名だったからだ。
「
式守
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