新しい住居
最近の俺の朝の目覚めは色々なことがある。
例えば刹那が腕に抱き着いて眠っているのを見たり、或いは先に目を覚ました彼女が俺を見つめていたりと……まあなんだ、一緒に過ごしているからこそ毎日の目覚めが幸せなモノで満ち溢れている。
「……………」
そして、それは今日も同様だった。
目を覚ました時、いつも以上に俺は枕が柔らかいなと思ったのだ――顔を埋めている柔らかくて温かな存在が心地良く、グリグリと顔を押しつけてしまったくらいにはとてつもなく気持ち良かった。
そしてゆっくりと目を開けると、俺の視界に飛び込んできたのは暗闇と共にあった僅かな肌色だ。
「……ぅん……えへへ♪」
……はい、ということで今日の目覚めは刹那の胸元でしたっと。
しかも俺は彼女を抱き枕にするかのように思いっきり抱きしめており、まだ眠っているであろう刹那は嬉しそうな声を漏らしていた。
こういう時、幼い子供になった気分でスリスリしたい気分だし、刹那も絶対に嫌だと言わないことが分かっているので甘えたくなる。
「とはいえ……流石にな」
それから二分ほど、顔全体で柔らかさを堪能した後に体を離した。
起き上がると刹那も同じように目を覚まし、目元を擦りながらゆっくりとまた俺に抱き着いて船を漕ぎ出した。
「おいおい、起きるんじゃないのか?」
「だってぇ……瀬奈君の傍は安心して眠くなるんだもん」
そっかぁ、ならもっと安心して寝てくれても良いんだぞ。
なんてことを思いつつ完全に刹那が目を覚ますのを待った後、覚馬さんと鏡花さんに挨拶をするためにリビングに向かった。
もうすぐ夏休みが終わるわけだが、今日は少し特別な日になる。
目を覚まして諸々の準備を済ませた数時間後、俺と刹那は全く別の場所に居た。
「……結構広いのね。うん、良いんじゃない?」
「あぁ。なんか……ちょっと圧倒されちまうな」
刹那の実家から離れ、俺たちが訪れたのは覚馬さんと鏡花さんが用意してくれた新しい新居だった。
まだ荷物などは移動していないのだが、それでもこうして一度見ただけで俺も刹那も気に入るくらいには広く、他に色々な設備が充実しているみたいだ。
「家賃とか見たらかなり高かったけど、探索者だからこそってところだな」
「そうね。正直、もう少し安かったりしても良いかなと思ったんだけど……たぶんセキュリティ面とかも色々考慮したんでしょうね」
それだけ良い場所ってことだ。
もちろんここより安い場所はいくらでもあるけど、俺も刹那と一緒に住む場所となれば良いところを選びたい。それに雪や母さんをこっちに招くことがあったら、これくらい広くて部屋も多かったら助かることも多いだろう。
俺たちはそれから簡単に部屋を見た後、エントランスに戻って覚馬さんたちに合流した。
「ここにしようかと思います」
「えぇ。凄く良い場所ね」
ちなみに、場所に関しても悪くない。
高校までそんなに遠くはないし、近くには色んな店もあってかなりお得だ。それこそいつだって刹那の両親が顔を見に来るにしてもちょうどいい距離だ。
「それなら良かった。じゃあ早速話をしておこう」
「ふふっ、なんだか私の方がワクワクしてしまうわ」
俺たち以上にワクワクしている鏡花さんに苦笑してしまう。
けどまさか、俺もこの歳で彼女と二人で住む日が来るとは思わなかった……この歳からこんなに色々と満たされて良いのかよと思わないでもないが、若いからこそ色んなことを猛スピードで駆け抜けるのも良さそうだ。
ここに住むことになるのは夏休みの終わり際ということで、それまでは今まで通りに刹那の家にお邪魔することになった。
「そういえば寮からも荷物を色々と移動させないとだもんな」
「そうね。といっても私はそこまで置いてないから良いんだけど」
「俺もそうだけどさ」
基本的に寮にそこまでの私物を置くようなことはないので、お互いにそこまで時間が掛かることはなさそうだ。
ただ、刹那は完全に俺と住むことになるこの場所に永住する覚悟なのか、実家の方の荷物は大抵のものをこっちに移動させるらしい。
「気が早いと思われるかもしれないけど、これからはずっと瀬奈君と居るつもり……そう考えても大丈夫よね?」
「あはは……そんな風に思われて頷かないわけにはいかないだろ。俺だって刹那と同じ気持ちなんだから」
そんな風にやり取りをする俺たちを覚馬さんと鏡花さんは微笑ましく見つめ、実際の引っ越しの日取りなども合わせてここが俺たちの新しい家になることが正式に決定した。
「探索者をやってなかったらこんなこともなかったのか……」
元々、探索者には憧れを抱いていたのもそうだが、レギオンナイトのようにかっこよくなりたかっただけだ。
その中で雪のために死に物狂いで頑張って強くなり、そうして色々なことがあってこうして刹那と出会い恋人になった。そう考えると、本当に色々なことがあったんだなと感慨深い気持ちにさせられる。
「いつものメンバーを呼ぶのも良さそうね?」
「良いのか?」
「もちろんよ。きっと楽しいと思う」
ま、そうなるとまずは俺が男子二人から色々な目に遭いそうだけど……。
さて、こうして俺たちの新しい住居は決まった。
全てが俺たちにとって良い方向へと動き、俺たちの幸せを彩ってくれるかのようだったが、こういう時に何かを感じ取ってしまうのも事実なので、何も起こってくれるなよと刹那と共に苦笑しながら祈った。
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