我慢出来ない年頃
声も雰囲気も出で立ちも、その男は明らかなチンピラだった――式守裕也、ダンジョン内で俺たちに声を掛けてきた男だ。
「何の用かしら?」
「惚けてんじゃねえぞ。てめえ、どんな手を使いやがった?」
あ、これ完全に拗れる話だと俺は予感した。
わざわざこれから続く式守からの言葉を聞かなくても、何が言いたいかは手に取るように分かった。
おそらく、どうしてお前が二位になったんだと文句を言いたいんだろう。
(確かこいつ、パーティの誘いは全部蹴ってんだよな。断るだけならそれで良いのにわざわざ雑魚は雑魚同士で手を取り合えとか一言多いって話だ)
探索者になった連中は気が大きくなる奴が多い。
自分よりもランクが下の探索者や、普通科の生徒を馬鹿にする連中が多いのは今まで何度も見てきたけど、こいつはその典型であり更にタチが悪いのが、こいつ自身相当な力量の持ち主ってことだ。
「どんな手? まさか不正か何かをしたとでも?」
「そう言ってんだよ。てめえは確かにSランクだが所詮は女――どうせ、皇の力を使って組合に働きかけたんだろう?」
ほら、やっぱり思った通りだったよ。
ただ……今この場において式守は俺に一切の興味を持ってないが、刹那のことと彼女の両親に対して、このように言われたのは気に入らなかった。
刹那のランキングが上がったのは正当な評価があったからこそだ。
彼女自身の努力とそこに付いてきた実績、それを全て加味した上で組合が厳正な審査の元にランキングを発表したに過ぎない。
もちろん過去に何度かこのランキングに関して不正が行われたことはあったようだが、その全てが白日の下に晒されておりどんな権力があったとしても誤魔化しは不可能とされている。
「くだらないわね。今のランキングに不正が出来る余地があると思っているの? 仮に不正をしたとして、いずれ分かってしまうリスクを考えたら手を出そうとも思わないわ」
「口では何とでも言えるぜ。てめえの体に聞けば――」
取り敢えず、俺は式守を黙らせることにした。
こんな奴の言葉に刹那が心を病んだりすることは確実にないだろうし、どんなことを言われたりされたとしても彼女は屈したりはしないだろう。
だが、彼女のパートナーとして我慢出来ない部分はあるつもりだ。
「そこまでにしろ」
「っ!?」
無双の一刀を発動させ、俺は式守のすぐ目の前に立った。
淡い光を放つ相棒を奴の首に突き付けているわけだが、俺がこうして距離を詰めるまで式守は一切反応出来ておらず、今も驚きが勝って動けていない。
「組合から発表されるランキングは厳正な審査によるものだ。彼女が二位になったのも全てその努力と実績が実ったからに過ぎない――彼女の頑張りを何も知らず、好き勝手言うようなかっこ悪いことはやめたらどうだ?」
「……てめえ!」
そこでようやく式守は動いた。
瞬時に動いた彼は背中から二本の剣を抜き、俗に言う二刀流の構えで俺に対して突っ込んできた。
そんな彼に対し、俺がしたことは単純だ。
刀を腰の位置に添え、居合抜きをするかの如く刀を振り抜いただけだ。
「……なにっ?」
俺の一振りは式守の剣を二本とも弾き飛ばした。
呆然と吹き飛ばされた剣を見る式守は一体何を考えているだろう――俺のことは絶対に知らないだろうし、何よりランクすらも知らないはずだ。
俺としてもこいつを前にして刀を見せたくはなかったが、刹那が傍に居てこの状況で刀を抜かないわけにはいかない。
「刹那の傍に居たからこそ、彼女の頑張りと凄さを知っている。彼女は決してお前のように誰かを下に見るようなことはしていない――力にもランクにも恵まれているのなら、もっと余裕のある態度を心掛けたらどうだ?」
これ……たぶん式守からしたら俺はどんな奴か分からないと同時に、思いっきり怒りを買う相手になったのは間違いないだろう。
とはいえ、ここはダンジョンだ。
どう考えてもいがみ合う場所ではないし、俺の刹那も奴とこれ以上のことを望むつもりはない。
「刹那」
「えぇ。分かってるわ」
刹那からすれば式守に好き勝手言われたようなものだが、彼女に一切気にした様子はなく式守のことは何とも思っていないのだろう。
ただ彼女の逆鱗に触れるのはおそらく、家族に対して何かを言われた時だ。
これに乗じて式守が家族のことを悪い意味で言及した場合、刹那は迷いなく剣を振るうはずだ。
呆然とする式守の隣を歩く際に、刹那はこう告げた。
「私は誓って不正などしていない――それだけは言っておくわ。それでも気に入らないのであれば、機会を作ってサシで雌雄を決しましょう」
ハッキリと言ったな……。
まあでも、その時は必ず俺も見届けさせもらう――もしも危ないようであれば絶対に手は出すつもりだけどな。
そうなるとまた早乙女さんに立ち会ってもらうか……またですかって苦笑する顔が目に浮かぶ気がするが。
「瀬奈君。ごめんね? 手を出させてしまって」
「え? あぁいや、むしろ俺の方が考えなしだったかもしれない。あれ以上、刹那のことを悪く言われたくなかったから」
「……かっこよかった凄く」
刀を見せてしまったが、まあこれは仕方がないだろう。
とはいえこれで面倒な奴と知り合いになったのは確かで、俺と刹那は次に会う機会があればどうなるんだと小さなため息を吐く。
しかし……まさか次の出会いがあんなことになるとはと、この時の俺と刹那は全く予想出来なかった。
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