示す戦い
さて、刹那と付き合ったことを彼女の両親に伝えた翌日のことだ。
特に何かをしようと言い出すことはなく、ダンジョンにも行かずに俺と刹那はただただ寄り添っていた。
覚馬さんは仕事に行っているので居ないとはいえ、鏡花さんはずっと家に居たので当然のように俺たちの姿は見られていた。
「若いわねぇ」
いや、正直俺もここまでとは思っていなかったのだ。
付き合うことにとって分かった刹那の相手を引っ張るという側面だけでなく、とにかく相手に甘えようとする可愛らしい姿があった。
少なくとも、目の前に鏡花さんが居ても気にならなくなるくらいには俺ももう慣れてしまった。
「瀬奈くぅん♪」
「……可愛すぎて辛い」
「ぷふっ!」
鏡花さん、今の俺はどれだけ笑われても気にならないぞ。
表情がニマニマとしたものから一切変化しない刹那を見ていると、やっぱり彼女と恋人同士になったんだなと改めて実感する。
「鏡花さん……俺、幸せっす」
「見ていれば分かるわよ。ただ……瀬奈君と娘の幸せそうな顔を見れるのは私も嬉しんだけど、流石に少し胸焼けしそうかも?」
「そこは我慢していただいて……」
「そうねぇ。我慢しましょうか」
ちなみに、今の状態の刹那は俺が呼びかけない限りは反応を返さないようだ。
「瀬奈君」
「はい」
「色々と考えてみたのだけど、刹那と一緒に住んでみたらどう?」
「……え?」
その言葉に俺は目を丸くした。
それはつまり……刹那と同棲ということか? ここに……?
「ここに住んでくれるのが私と夫にとっても嬉しいけれど、それだと流石に色々と気を遣わせてしまうだろうからね。私たちで部屋を用意しようと思うのよ」
「……良いんですか?」
二人で過ごせば良いと言われたのも驚きだけど、こうして実際に部屋を用意しようと言われたのは更に驚きだった。
「あなたも刹那もそれぞれ寮で過ごしているでしょ? だからちょうど良いと思ったのよね。部屋の掃除なんかは定期的に私の信頼する人を寄こすし……どうかしら?」
「……………」
これはあまりにも魅力的な提案と言えるだろう。
まるで既に未来を見通した提案のようにも聞こえるが、きっとその意味が込められている鏡花さんの言葉だ。
刹那と一緒に暮らす……それならこれからも長い学校生活の中で、放課後に彼女と別れるようなことはなく一緒に帰ることが出来るわけだ。
(いや……そもそも俺たちでも普通にその選択肢は取れるわけか)
俺と刹那の稼ぎに関しては問題ないので、かなり良い部屋に住んだとしても問題はないほどだ……それに、きっと刹那も俺の提案には頷いてくれるだろうことはよく分かる。
でもそうだな……これに関しては踏み込めなかった一歩だし、鏡花さんに背中を押してもらう意味でも頷かせてもらおうかな。
「その……お願いします。ここは一つ、背中を押してもらって彼女と一緒に過ごすことを決断させてもらいます」
「決まりね。今の刹那は馬鹿以下だから後で伝えるとして、引っ越しは一週間以内で考えましょう。それに関しても全部こちらに任せてちょうだい」
馬鹿以下は少し酷いのでは……でもこれに関しても刹那は一切反応しなかった。
それからは一応お金のことなどについても話をしたのだが、俺と刹那の未来に対する投資だからと言って鏡花さんは一切気にするなと言ってきた。
元々こんな風に楽しくなる日々を想像していなかったため、俺がこの日々を齎したことによる恩返しとも言っていた。
「そんな風に思われるほどじゃないんですけどね……でも、ありがとうございます」
「良いのよ。さてと……あ、そうだわ。実はね――」
何かを思い出したように鏡花さんに言われた言葉に俺はここ一番で驚いた。
それは俺に抱き着いて離れなかった刹那を正気に戻すほどのもので、どうしてそんなことをするのかと刹那が噛みついていた。
「まあ良いじゃないの。あの人も色々と試したいんだろうし、それにこの結果があなたたちの仲に何かを作用するわけでもないんだから」
「それはそうだけど……でも瀬奈君だし、大丈夫かもしれないわね」
「ふふっ、あなたのその信頼は分かり切っていたけれど……実は私もずっと気になっていたのよ。彼が秘める力にはね」
果たして鏡花さんは何を俺に言ったのか、それはすぐに分かることになった。
昼を前にして俺と刹那、鏡花さんが向かった場所は皇家が所有する模擬戦用の広場である。
決して他に人が来ないようにしたとのことで、この場に居る人間は限られる。
俺の視線の先で大剣を担いでいる覚馬さんはジッと俺を見つめていた。
『あなたの本当の力を見たいんですって。断っても良いと言っていたけれど、どうかしら?』
娘の相手として相応しいかどうかという意味ではなく、単純に俺という人間の力量を測りたいとのことらしい。
一体どこのスポコン漫画だよとは思いつつも、これは良い機会だった。
刹那の父親であり元Sランク探索者の覚馬さん相手に覚悟と力を示すことで、自信を持って刹那を任せてくださいと伝えられる。
(……負けるわけにはいかねえ……いや、負ける気はしない――俺は相手が誰であろうと、刀を手にして負けるつもりはない!)
ジッと見つめてくる覚馬さんだけでなく、刹那と鏡花さんからも視線を向けられながら俺はその力を解放した。
【無双の一刀】発動
瞬時に淡い光を放つ刀が手の平に現れた。
そして周りの空気を全て切り裂くような衝撃波が走り、それは覚馬さんの表情を変えるほどだ。
「なるほど……それが君の本当に力かい?」
「はい。これは俺にとっての相棒です――こいつを手にした俺は誰にも負けない」
これは大言壮語ではない、俺は本当にそうだと信じている。
「良いだろう――では始めるとしよう」
こうして唐突ではあったが、覚馬さんとの戦いが幕を開けた。
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