朝
「……朝だ」
うん……朝が来てしまった。
目を覚めてすぐ、ここはどこで誰の部屋か、寝る前に何をしたのかを全部俺は思い出した。
チラッと隣を見ると刹那がこちらを向いて眠っており、裸ではなくちゃんとあの際どいネグリジェを身に付けている。
「……………」
昨日のことはしばらく絶対に忘れることは出来なさそうだ。
それだけ濃厚な時間だったし、何より刹那のことを今まで以上に深く感じれたのは確かだった……恥ずかしかった。
顔だけでなく体全体が熱を持つほどに俺と刹那はお互いにぎこちなかったけど、それでも途中からはどこかお互いにノリノリだった面も否めない。
(きっと色々分かってきたからなんだろうなぁ……)
それでも疲れはすぐにやってきて俺たちは満足感を抱いたまま、すぐに眠りに就いてしまったわけだが……はてさて、どうやって目を覚ました刹那に一声掛けようか。
「……はれ……瀬奈君?」
「っ……」
ちょっともう少しだけ伝える言葉を考えさせてほしい。
俺は目を閉じて刹那にバレないように寝たフリを敢行……だが、そんな俺に何を思ったのか刹那が近づいてきた感覚があった。
「寝てる……わよね? うぅ……良かったわ。昨日のこともあるし、どんな風に言葉を掛ければいいか分からなかったから」
刹那も同じことを考えていたみたいだ。
俺たち似ているなと少し微笑ましくなったが、いきなり刹那に静かになって鼻のすぐ先に彼女を感じた。
刹那はゆっくりと顔を近づけ、そのまま唇にキスをしてきた。
「……キスって良いわね……凄くドキドキして、こんなにも幸せになれて」
「……………」
マズイ、本当にいつ目を開けよう……。
「こんな風に触れるだけのキスも良いし、昨日の激しいキスも好き……あぁ思い出すと体が熱くなるわ。瀬奈君からキスをされたのは驚いたけど……えへへ、凄く幸せだった♪」
「……………」
これは新手の拷問か何かなのか!?
しばらくジッとしていると、刹那の体が小刻みに動いているよな気配と共に、妙に色っぽい声まで聞こえてきてしまう。
それでもすぐに刹那はハッとした様子でこんなことを言った。
「だ、ダメよ刹那……これ以上はダメ。するなら今夜、今日は私から瀬奈君を誘うのよそうしましょう!」
「……………」
刹那さん可愛いとかそういう以前にちょっとエッチすぎない?
というか確かに昨日は俺からだったが、そういう空気を出していたのは明らかに刹那だったような気がしないでもない。
……でもあれだな。
彼女とのエッチとかそういうことを抜きにしても、こんな風に満たされた気持ちで朝を迎えられるたのはとても幸せなことだ。
「刹那?」
「っ!? な、なに!? え!?」
彼女の名前を呼ぶと、今までに聞いたことがない声で狼狽えた。
目を開けると口をパクパクとさせる刹那が俺をジッと見つめており、今になって恥ずかしくなったのか胸元などを隠すように毛布を体の前に持ってきた。
「その……実は起きてたんだよな。俺も刹那と同じでどういう風に声を掛ければ良いのか分からなくてさ」
「そ、そうなんだ……へえ」
刹那が慌てすぎているせいで逆に俺は落ち着いてきた。
あたふたする彼女に手を伸ばし、そのまま抱き寄せて彼女の頭を優しく撫でながら言葉を続けた。
「おはよう刹那。それと朝から可愛い君を見れて幸せだ……って、こういうことを言うともっと恥ずかしくなるか?」
「……ばかぁ」
思った通りのようだが、刹那はどこか嬉しそうに額を胸元に押し付けた。
俺はしばらくそのまま刹那の好きなようにさせた後、俺たちは改めて体を離して朝の挨拶を交わすのだった。
「おはよう瀬奈君」
「おはよう刹那」
とはいえ……挨拶をした後もジッと見つめ合う静寂が訪れる。
すると段々と刹那の頬が赤くなっていき、何かを想像したのか口元が緩んで笑みを隠し切れない様子だった。
そんな背中が痒くなるような空間の中で、刹那はシャワーに浴びに行くということで部屋を出て行き、俺は私服に着替えてリビングに向かった。
「あら、おはよう瀬奈君」
「おはようございます」
リビングには鏡花さんだけが居た。
どうやら覚馬さんは仕事にでも行ったのか不在だったけど、昨日の酒に酔った覚馬さんを思い出してしまって色々と考えることがある。
(あれは……認めてもらったってことなのかな)
お義父さんと、そう呼んだ時の覚馬さんがとても優しい目をしていた。
酒のおかげとはいえ俺も少し恥ずかしかったし、こうして顔を合せなかったのは色んな意味で助かったかもしれない。
そのことにホッとしていた俺だが、ここで鏡花さんがダイナマイトを放り込む。
「昨晩はお楽しみでしたね?」
「っ!?!?」
「あら、こういう時の決まり文句だったんだけど……これはあらあらまあまあかくかくしかじか案件かしら?」
なんだよそれ……ってそんなことはどうでも良くて!
つまり俺は鏡花さんにカマを掛けられ、あっさりと動揺を見せたことで刹那とのことを簡単に知られてしまったわけか……うわぁ死にたい、彼女のお母さんに知られることがこんなにも恥ずかしいとは……分かっていたけど恥ずかしすぎる!
「鏡花さん。お願いですからあまり刹那には言わないでもらって……」
「別に良いと思うけどねぇ。むしろ、どこか惚気そうな気がするけれど……」
そんな状況を否定出来ないのは果たして嬉しいのやら悲しいのやら……。
そして、シャワーを浴び終えた刹那が帰ってきた後はと言うと――
「そ、そんなことは……えへへ~♪」
「ほらね?」
「……ですね」
まあなんだ……刹那が可愛いってことで良いか。
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