更に深く

「っ……」


 俺は今、最高に緊張している。

 何故なら俺が今居る場所は刹那の部屋……それもそのはずで、皇家に泊まることになるのであれば必然的にここに来るのが当然と言える。


(……いやいや、流石にそれはどうなんだ?)


 こういう場合は別に部屋を用意してくれるとか……って、これは別に我儘を言っているのではなく、普通に考えていきなり彼女の部屋にというのはどうかと思ったわけなんだが……まあ俺も彼女を部屋に招いて一緒に寝たようなもんだけどさ。


(……女の子って部屋だ)


 雪の部屋みたいに人形の数はそこそこ、白に統一された家具などでとても綺麗な印象である。

 刹那が家に居ない間も鏡花さんがしっかりと掃除をしているらしく、埃一つなくて空気も綺麗だ。


「……その……あまりジッと見ないでくれると嬉しいわ」

「す、すまん」


 ジッと見過ぎてしまったようだ。

 恥ずかしそうにモジモジする刹那……なんだか、今日の彼女のパジャマというか服装というかやけに肌が見えてない?

 実家に居る時は普通のパジャマだったけど、それってパジャマじゃないよね?


「私、いっつも家とか寮だとこんな感じよ?」

「そうなんだ……へぇ」


 それはあれじゃないのか?

 ネグリジェってやつじゃないのかね刹那さんや。


「ちょっと派手すぎるかしら?」

「……少なくとも目には毒だな」


 そう言えばと、俺はこうして刹那の部屋に来る前の鏡花さんとの話を思い出す。


『恋人になったら一緒に寝る時間というのは増えるでしょうから、刹那の部屋で寝ることも慣れたら良いんじゃない? あの子、もしかしたら瀬奈君と付き合えたってことで攻めまくるかもしれないけど』


 攻めまくるとはこういうことかと俺は頭を抱えた。

 とはいえ目の前に居るのはどんな格好をしていても大好きな彼女ということで、決して嫌でないのは確かだ。

 むしろ男としてとてもドキドキするというか、嫌われるかも分からないけど思いっきり抱きしめて色々したいっていうか……っ!


「瀬奈君」

「うん?」

「抱き着いても良い?」

「是非を問う必要なし。かもん!」


 許可を取る必要なんてないだろうよそれは。

 腕を広げた俺に刹那は思いっきり飛びつき、そのまま俺の首元に顔を埋めるようにして甘えてくる。

 こうされるととてもくすぐったく、俺も我慢が少し大変だがしばらく刹那の好きにさせてあげた。


「今日は一緒に寝るわよ?」

「おっす」

「ちょうどベッドも大きいし♪」


 明らかに一人で寝るには大きなベッドが置かれている。

 まあ刹那のような財閥のお嬢様なので家が大きいということは部屋も大きく、そしてその中に置かれているベッドが大きいのも別におかしくはない。

 明らかなキングサイズのベッド……ぶっちゃけ初めて見たかもしれない。


「もう寝る?」

「……そうだな。言われてみたら結構眠いかも」


 前日に夜更かしをしたわけではないが、やはり旅の疲れというのは出たらしい。

 実家で刹那と初めて一緒に寝た夜のように死ぬほど眠たくはないが、それでも真っ暗な中で横になったらすぐに意識が落ちそうな気はしている。


「……………」

「どうした?」


 そんな中、刹那が何かを俺に言いたげだった。

 何かを求めるような、何かをしてほしいような、そんな期待を滲ませる瞳を俺に彼女は見せてくる。

 落ち着きのない様子を見せる彼女の姿に、俺はもしかしたらを想像してしまったがやっぱりそれは早いだろうと考えてしまうのだ。


(……こういう時、どうすれば良いんだよ!!)


 心の中で一人自問自答する。

 まだ早い……そう思って気付いてないフリをしてそのまま寝るのが一番楽な方法ではあるはずだ。

 というか俺はそもそもそういう経験が俺にはないので、どうすれば良いのかは分からない……まあそれは刹那も同じみたいだけど。


「ね、寝ましょっか!」


 パンと手を叩いて刹那は立ち上がった。

 そのままベッドの向かうその背中を見た時、俺は咄嗟に追いかけるようにそのまま後ろから抱き着いた。


「瀬奈君!?」

「……………」


 たぶん……この格好もそういう意図があったのかもしれない。

 早いだろうとか、まだ良いんじゃないかとか、色々と意見はあると思うけど時には思い切って行動するのが大事なのかもしれない。

 何が正しくて何が正しくないのかは分からん……でも、刹那を大切に想いながら彼女の期待に応えたい、そして何より俺もそれを望んでいる。


「刹那」

「っ!?」


 刹那を振り向かせ、そのまま俺は彼女にキスをした。

 ただ触れ合うだけのキスを数秒した後、俺は思い切って彼女の唇を割るようにして舌を入れた。

 すると刹那は少し驚いた後、お返しだと言わんばかりに彼女の方も舌を絡めた。


「……瀬奈君。私……っ」

「刹那……俺は君が欲しい」

「っ……うん。私も瀬奈君が欲しい。もっともっと欲しい」


 そこからはもう止まれなかった。

 刹那をベッドの上に押し倒し、彼女の体の色々なところに触れるように……それこそ大きく柔らかなその胸も例外ではない。


「……ふふっ、恥ずかしいけど幸せなのね。こうして体に触れてもらえること、私ってどうしようもなくらいにあなたのことを愛しているみたい」

「俺だってそうだ――もう刹那が居ないなんて考えられないくらいだぞ」


 ただ、ここに来て俺の理性が急速に蘇った。

 ここは刹那の部屋だが同時に彼女の家……つまり鏡花さんも覚馬さんも同じ屋根の下に居るわけだ。

 俺はそれを考えて少し手の動きが止まったのだが、刹那はこう口にした。


「大丈夫よ。父と母の寝室はここから結構遠いし、それにこの部屋って壁もそもそも厚いんだから」

「そうなのか?」

「そう。だからどれだけ声が出ても大丈夫だから」

「っ……」


 やっぱりこの子はこういう時に積極的に手を引いてくれるタイプだ。

 俺は一旦刹那から離れ、途中で買っておいたアレを取り出すのだが……そこでまさかの刹那も用意していたことを教えてもらった。


「何だかんだ、私たちって同じことを考えていたのね」

「みたいだな……早いとか言わないんだ?」

「言わないわ。好きな人と深く繋がりたいなんて誰でも思うことだもの」

「そっか」

「ただ……」

「どうした?」

「私……瀬奈君のことを思って一人でする時、結構アレな方だから色々と大変かもしれないわ」


 アレってどういうことだろうか。

 俺は彼女の言葉の意味が分からなかったけど、その数時間後にその言葉を正確に理解することになるのだった。

 とはいえ、今日があまりにも熱い夜になったのは言うまでもない。

 更に強く、更に彼女を好きになった日……それは当然幸せだった。

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