刹那の決め事
「どう? 気持ち良い……?」
「あぁ……気持ち良いよ」
「良かった……うん」
「おう」
お前たち何をしているんだと思った人は誤解しないでくれ。
俺たちは特に何もいやらしいことをしているわけではなく、俺の背中を刹那が洗ってくれているだけだ。
こうして彼女と一緒に風呂に入ることになったわけだが、当然ながらお互いにガチガチだった。
そこで刹那が背中を洗おうかと提案をしてくれたので、俺はそれに素直に頷いてこうなった。
(彼女に背中を洗ってもらうのは夢のシチュエーションだけど……くそっ、意識をするんじゃないぞ俺!)
まあ仮に意識したところでお互いに恋人同士なのだから、極端なことを言えば間違いが起きたところで責められることでもないけど……流石にまだ付き合って全然日数が経っていないのだから流石にダメだ。
その後、俺の鋼の精神が持ちこたえてくれたため間違いが起きず、変わるように俺も彼女の背中を優しく洗うことになった。
「……ふぅ」
「あぁ……良いお湯ね」
体を洗い終えた後、俺たちは二人で湯船に浸かっていた。
湯船に浸かる際にタオルを巻くことはNG……という決まりはないが、俺と刹那は何も隠す物を身に付けてはいない。
(……にしても絶景だったな)
背中を洗うために後ろに回った際、洗いやすいようにと彼女が長い髪を体の前に持っていくようにしたのだが、そうして曝け出されたその背中の白い肌が本当に刺激的だった。
それに……流石鍛えられた体だけあって、並みの女性には決してない筋肉もあって刹那の肉体は完成されていた。
「ねえ瀬奈君」
「うん?」
「さっきまで凄くドキドキしてたけど。今はそうでもないわ」
「……そう言われたら俺もそうだな」
いや……俺はドキドキしている。
でも刹那が言ったようにさっきほどではなく、ほぼ平常心で俺はお湯に濡れた刹那を見返すことが出来ていた。
「こうやって好きな人とお風呂に入るのもまた夢の一つよね♪」
「……だな。しかも背中を洗ってもらうのも夢だったわ」
「そう? なら良かったわ」
……本当に、一言一言が嬉しいものをくれるよこの子は。
俺は自然と彼女の肩に手を当て、そのままゆっくりとこちらに抱き寄せた。
刹那の体の動きに反応するようにピチャッとお湯が音を立て、次いであまりにも柔らかな感触が腕に抱き着いた。
「せ、刹那?」
「抱き寄せたのよ? これくらいはされて当然じゃない?」
俺はただ、彼女を抱き寄せただけだ。
つまり俺の計算だと肩が触れ合う程度だと思っていたのだが、彼女は少しばかり俺の方に体を向けたので少し抱き合う形になったのだ。
「……幸せね。ダンジョン以外でこんなにも満たされるなんて」
「それだと戦闘狂みたいな言い方だぞ?」
「確かに……まあでも、探索者としてずっと生きていたからね。それでこの幸せを味わったらこういう感想も出るわよ」
「なるほどな」
それから俺たちは逆上せない範囲で気を付けながら、多くのことを話した。
それこそプライベートのことばかりで、主にお互いの知らなかったこと……つまりもっと小さい幼少期の頃だったりの話だ。
「それで……あ、そろそろ上がる?」
「そうだな。流石に長話になったし、いい加減に戻らないと雪と母さんに変な勘繰りをされそうだ」
「何か……してるんじゃないかって思われるのかしらね?」
「っ……」
だからそういうことを言うんじゃないよ!
クスクスと笑う刹那から視線を逸らし、俺は傍に置いていたタオルを腰に巻いて立ち上がった。
「じゃあ俺から上がるから」
「うん」
……ということで、何とか俺は風呂から出ることが出来た。
寝間着に着替える際、刹那が着ていた服と下着が置いたあったのだが、そのサイズの大きさにデカいと呟きそうになり何とか抑え込む。
(確かにあんなに柔らかくて大きいんだし、下着もそりゃ大きいわな)
肩凝りとか大変そうだなと他人事に思いつつ、俺はリビングに戻った。
そして当たり前のように雪と母さんに遅かったねと指摘をされたが、昔話を楽しんだんだと説明したが信じてくれなかったのはまあ分かり切っていた。
「ただいま……ってなに?」
そして戻ってきた刹那にも同じような視線が向いたが、流石に俺ほどではなかったので刹那は首を傾げるだけだった。
俺たちが長く入っていたのもあってか、待ちくたびれた雪と母さんが一緒に風呂を済ませることになり、俺たちはまた二人っきりだ。
「瀬奈君♪」
「……おう」
二人っきりになった途端、その可愛さを前面に押し出すように刹那が腕を抱いて身を寄せてくる。
そのまま肩にグリグリと頭を擦り付けるような刹那の様子はまるで小さな子供を思わせるが、これが付き合うことになった相手に見せる姿なのかと思うと、妙な気分になるのも仕方なかった。
しかし、そんな時に刹那がボソッと呟いた。
「これ……あっちに戻ったらどうする?」
「え?」
どうするってどういうことだろうと俺は彼女に視線を向けた。
「ほら、向こうに戻ると男女で寮の行き来は出来ないでしょ? だからこんな風に一緒にお風呂に入ることも、夜を一緒に過ごすことも出来ないわ」
「……あ~」
確かにそうだなと頷く。
別に珍しくもない決まりとして、男子は女子寮に入ることは出来ず、女子は男子寮に入ることは出来ない。
よっぽどの理由があればその限りではないけれど、基本的には無理なので学生生活を向こうで送る際にはこうやって夜に二人になるのは難しいか。
「……いえ、夏休みの間ならいけるわね」
「うん?」
「瀬奈君。向こうに戻ったらうちに来ましょう。それで全て解決だわ」
ということで、何やら色々と決まりそうだった。
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