お風呂
「ちょっとあなた、何してるの?」
「……逆に聞こう。どうして君はそんなにリラックス出来ているんだ?」
瀬奈と刹那が遭遇したダンジョンホール事件に関して、関係各所に話を通した皇家は瀬奈にとっても多大なる恩人である。
さて、そんな皇家を守る刹那の母と父だが……二人の表情は対照的だ。
刹那が瀬奈の故郷に向かってからというものの、良い報告を待つかのようにソワソワする鏡花と、娘が可愛くて仕方なく誰にも渡したくないと駄々を捏ねる覚馬という構図だった。
「だって良いことじゃないの。あの子は今まで異性を好きになることなんてなくて、いつまだ経ってもダンジョン馬鹿だったんだから。そんなあの子に好きな人が出来たのよ? 期待しない以外に何があるのかしら」
「それはそうだが……だがまだ刹那は17歳だぞ?」
「……あのねぇ。最近はもう中学生の段階で恋愛は当たり前とか言われてる時代に何を言ってるの?」
「分かってる……分かってはいるんだ……っ!!」
これは決して瀬奈のことを認めないと言っているわけではなく、本当にただの親馬鹿で子離れ出来ないだけだ。
鏡花も刹那のことを大事に思っているのはもちろんだが、刹那が優れた実力を持っていることは分かっているのでそもそも心配はしていないし、まだまだ実力を隠している様子の瀬奈が傍に居る時点でも心配は全くなかった。
「そのうち、しつこすぎて刹那に嫌われるわよ? それで瀬奈君は凄く優しいから刹那から離れようと……しないだろうけどもしかしたらしちゃうかもしれない。そうなった時に全ての矛先が向くのはあなたよ? あなただって娘に殺されたくはないでしょうが」
「それはもちろん……もちろんだ」
結局、どこまで行っても刹那が大事なので覚馬も認めるしかない。
それが分かっているからこそ鏡花もこれ以上は何も言わず、今何をしているだろうかと二人のことを想像するのだ。
「なんとなく……良い感じになってると思うのよねぇ」
「っ!?」
「だってそうでしょ。ホールが現れて連絡をくれた時、刹那ったら瀬奈君に対する言葉に凄く優しさが籠ってたから。今まで以上にね」
「……ぐぅ!」
「あれは何かあったと思うべきだわ。もしかしたら報告はこっちに帰ってきてからするのかしらね。瀬奈君は電話で伝えようとしたけれど、刹那がどうせ会うから二度手間とか言ってやめさせたりもありそうだわ」
「……………」
悲報、覚馬の口から魂が抜けた。
その様子を見て鏡花は大きくため息を吐き、出て行った魂を呼び戻すために思いっきり覚馬の尻を蹴った。
正気に戻った覚馬を見つめながら、鏡花は呟いた。
「そもそも恋愛面のあの子は私に似ているわ。私とあなたが付き合うようになったきっかけも家に泊まりに行ったのが決め手だったでしょう?」
「あれはほぼ無理やり君が着たようなものだがな……」
「嫌じゃなかったでしょ? お互いの家に行き出した時点で、それこそお泊まりなんてしたらもう決まってるのよ気持ちは。だからあの子ももう止まらないはず」
「……そうだな。そうに違いなさそうだ」
「ということで、良い報告を楽しみにしましょう」
とはいえ流石は刹那の母だ。
全てその予想は当たっていたのだから。
▼▽
「ということで、二人ともおめでとう!」
雪の大きな声でパーティが始まった。
パーティとはいってもそこまで大袈裟なものではなく、単純に俺と刹那が付き合い始めたことに対するお祝いだ。
「ありがとう雪ちゃん。ありがとうございます紅葉さん」
それから当たり前のように女性陣で盛り上がったので、俺はその輪から外れるとまではいかないまでも用意された料理に手を伸ばす。
あまりにも多い肉類だが、祝い事となればこうなるのも必然だ。
「それで好きだって告白をされまして……私、とても嬉しくて。すぐにはいって頷いたんです」
「わああああああああっ!!」
「瀬奈も男なのねぇ!」
バシバシと背中を叩かれるが今日だけは甘んじて受けよう。
何故なら惚気まくる刹那を見て俺も大変機嫌が良いからな! 今の俺ならどんなことがあっても寛容な心で許せそうなほどだ……あ、あの雪を襲った奴だけはどうなっても許せんかったわ。
「紅葉さん。これを母に伝えるのは少し待ってほしいんです。サプライズの意味も込めて帰ってから伝えるつもりですから」
「分かってるわ。口は堅いから安心して!」
「……はっ」
「ちょっと瀬奈、何を笑ってるのよ」
なんでもないですよと、俺は唐揚げに箸を伸ばした。
母さんの口が堅いかどうかはともかくとして、流石に刹那がこう言ったのだから先走ったりはしないはずだ。
「ねえねえ、兄さんと刹那さんで再現してみてよ!」
「嫌だ」
「なんで?」
「ああいうのは俺たちの中だけであるから良いんだよ」
雪の気持ちは分からんでもないが、あまり堂々と再現するほどでもない。
どんな風な会話があったかは刹那が説明したので、後はもう雪の想像にお任せすることにしよう。
「俺たちの中だけで良い……はう」
「あ、刹那さんが照れた」
「……凄く可愛いわね」
同感だ。
その可愛さには俺も唸りそうになったからな。
そして、更に周りを爆発的に盛り上げる提案を刹那が恥ずかし気に呟いた。
「瀬奈君……今日、一緒にお風呂入らない?」
「っ!?」
つい口の中にあったものを吐き出しそうになったほどに、俺はその言葉に驚いた。
そしてそれから時間が経った時、俺は刹那と共に浴室で向かい合っていた。
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