最後の仕上げ

「……うん?」


 Fランク探索者たちによる模擬戦を数日後に控えた放課後のこと、隆盛との待ち合わせ場所に向かうとそこには先客がいた。

 まあ隆盛が居るのは当たり前として、俺の知らない顔があったのだ。


「なあ秋田、お前最近Bランクの人とダンジョンに潜ってるんだってな?」

「どんな卑怯な手を使ったんだよ」

「そんなことは……」


 今の会話だけでどんな内容かすぐに分かる。

 確かにFランクダンジョンに入った際に色んな人に見られてはいたが、まあ高いランクの人間と潜っていたらそんな風に見られても仕方ないのか。

 俺の場合はもう刹那とのことに関しては特に何も言われないけど、それは彼女自身がある程度牽制してくれているおかげもある。


「……ったく、俺がこんな風に言われる日が来るとは思わなかった」


 どう割って入ろうか迷っていたが、思っていたのと違う方向に話は進んだ。


「ま、俺たちFランクの中でも弱いお前にそんなことは出来ねえか。なあ秋田、お前きっと何かに利用されてんだよ」

「絶対そうだ。だってBランクの奴らが俺らに構うわけがねえからな」


 だからそういう意図が俺にあるかよ……って、俺が何を思ったところで彼らがそう思うことを否定も出来ない。

 けど……一応隆盛は俺の弟子みたいなものだ。

 だからこそ、変な誤解を招く前に割って入るか……そう思った時だった。


「そんなことないよ。瀬奈君はそんな人じゃない」


 そう隆盛が強く言ったのだ。

 隆盛が普段どんな風に思われているのかは知らないが、あの二人の口振りを見るにもしかしたら同ランク帯の中でも馬鹿にされている可能性がある。

 呆気に取られたような様子の二人に隆盛は続けた。


「僕はBランク探索者と初めてあんな風に接したけど、瀬奈君は悪い人じゃないって断言できるよ。まあこれは僕の思い込みで、何かに利用されているんだとしたらそれは見破れない僕の落ち度だ……でも、瀬奈君はそんな人じゃないって分かるんだ」

「……隆盛」


 やれやれ、信頼が厚いなと苦笑したが……こんな風に知り合ったばかりの相手に言われるのは悪い気分じゃなかった。

 気が弱いくせにこういう時はハッキリと言える勇気を隆盛は持っている。

 そういうところを普段から見せていたら、校内での見方もかなり変わると俺は思っているんだが、中々上手くはそこまで行かないか。


「……何言ってんだよ雑魚のくせに」

「生意気なんだよ」

「っ……」


 同ランク帯で相手を見下すほど見苦しい物はない。

 俺は二人に詰め寄られそうになっている弟子の元に向かい、そっと肩に手を置いて割って入った。


「そこまでだ」

「あ、瀬奈君!」

「っ……」

「……おい」


 何となく大柄と同じものを彼らからは感じるが、やはり高いランクの相手を前にすると怖がってしまうらしい。

 彼らは示し合わせたように足早に去って行き、残されたのは俺と隆盛だけだ。


「あはは……かっこ悪いとこ見せたね」

「そんなことないって。あんな風に言われて俺の方が舞い上がっちまったくらいだ」

「あ~……そうなると僕の方が恥ずかしいよ」

「いやぁ良いことを聞かせてもらったぜ」


 これもまた友情かよとニヤニヤしてしまう。

 さて、今日もダンジョンへ直行……と言いたいところだが、今日からは対人を想定した実戦形式に移るつもりだ。


「組合の模擬戦スペースを予約してるからそっちに行こうぜ」

「……ついになんだね」

「おうよ」


 今日から模擬戦の日まで隆盛の相手は俺がする。

 もちろん加減はして隆盛の練度が上がるようには心掛けるが……まあでも、想定より強い攻撃を繰り返すことで隆盛の目を慣れさせるのも良いかなとは考えているがさてどうするかな。

 二人揃って組合に向かい、早乙女さんに話を通した……のだが。


「あ、あのあの……えっと……」


 俺の目の前には顔を真っ赤にしてパニックになっている隆盛が居た。

 彼がどうしてこんな風になっているのか、その理由は俺の隣だ。


「私も見させてもらうわ。瀬奈君のお弟子さん、どんなものか興味があるの」

「……………」


 そう、刹那である。

 実は組合に入った際にちょうど依頼を目に通していた刹那が居て、それで彼女が近づいてきてこうなったのだ。

 隆盛からすればSランクの刹那は雲の上の存在であり、人生の中で一度も話したりする機会はないと言っていたほどだ。


「つうわけで、刹那が見学することになった」

「い、いきなりだよ!」

「その……ダメかしら」

「ダメじゃないです! でも……あの……」


 取り敢えず隆盛には落ち着いてもらって……まあでも、刹那の目もあるなら隆盛に関する改善点なんかも指摘してくれるだろう。

 少しばかりキツイ意見はあるかもしれないが、それは隆盛の力になるはずだ。

 しばらくすれば隆盛も落ち着いたので模擬戦の準備は整った。

 そんな中、傍に来た刹那がボソッと呟く。


「……ほら、最近一緒じゃなかったじゃない? だから……これくらい良いじゃないダメって言わないわよね?」

「まあダメとは言わないけどさ」

「……ほっ」


 というわけで、刹那を交えて隆盛の仕上げが始まった。

 結論としては人間を相手にするのと魔物を相手にするのとでは勝手が違うということもあって最初の内は迷うことも多かったようだが、時間が経てば動きも様になり刹那も感心するほどだった。


(……これなら良い線行けるんじゃないか? もちろん相手がどんな武器を使うかに寄るけど。取り敢えず行けそうかな)


 弓と剣を相手にすることに関しては動きを掴むことは出来ていた。

 ここまで来ると後はもう隆盛の気持ち次第……Fランク生徒たちが行う模擬戦に関して俺たちは見ることは出来ないが、結果は楽しみにしておこう。

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