努力家

「瀬奈君、今日ダンジョン一緒にどう?」


 放課後になって刹那にダンジョンに誘われた。

 俺はそんな彼女に申し訳なく思いながら、手を合わせて断った。


「すまん、今日はちょっと用事があるんだよ」

「……そう言えば最近、放課後になるとすぐにどこか行くわよね?」

「まあ約束というか、待ち合わせをしてるからな」

「待ち合わせ……」


 そういえば刹那には教えてなかったな……というか、別に誰かに教えるほどのことでもないので真一たちにすら伝えていない。

 待ち合わせというのは隆盛とのことで、あれから俺は毎日放課後になると隆盛の元に向かっている。


「何をしてるの?」

「……あ~、まあ聞かれたし別に良いか」


 俺は数日前から戦いを教えている隆盛のことを伝えた。

 最初は難しい顔をしていた刹那だったが、途中からはいきなり機嫌が良くなってずっと笑顔だったのが可愛かった。


「なるほどねぇ。でもそうか……瀬奈君の個人レッスンってわけね」

「上手く出来るかは分からねえけど、ちょっと気になったからな」

「そう……ふふっ、優しいのね」

「こんなもん優しい内に入らないよ。結局、教える中で会話をたくさんしてるけどあいつの抱えている苦しみを理解までは出来ないからさ」


 俺は持ってる側で隆盛は持ってない側だ。

 こういう時に漫画やアニメで見た強者は弱者の気持ちが分からない、その言葉の意味が少しばかり理解出来た……まあ、だからといって馬鹿にするつもりはないし変なことを教えるつもりもない。

 それから刹那と別れ、すぐに隆盛の元に向かった。


「隆盛」

「あ、瀬奈君!」


 俺を待っていたようで彼はすぐに駆け寄ってきた。

 探索者として戦いのスキルを磨くために学校での勉強はしているが、それでも隆盛にはスキルはあっても圧倒的にセンスがない。

 それでも剣の振り方などに関しては形は十分になったし、後は単純に戦い方を身に付けてもらってスキルも開花すれば良いかなってところだ。


「実を言うと途中で投げ出したりするかと思ったんだよ。意外と根性があったな?」

「あはは……まああれだよ。教えてもらって何も出来ないってなるのが嫌だったんだよね」

「そうか」

「でも本当に瀬奈君は教え方が上手だよ? 魔物を相手する時のサポートがあるから安心して攻撃に専念できるし」


 とにかく隆盛には攻撃だけに専念してもらっているので、彼に言ったように防御面に関しては全て俺が担っている。

 まあ攻撃をしていればいるほど魔物を動きを見れているので、それに合わせて体を動かしているから自ずと身を守る時も体の動きは付いてくる。


「もう少し経験を積んだらいよいよ人間相手だ」

「……やっぱりやるんだね」

「もちろんだ。思いっきり踏み込んできな」

「わ、分かった!」


 ということでダンジョンに行くとしますか。

 隆盛と潜るのは相変わらずFランク階層だが、例の模擬戦が近いということもあって潜っている人の数は多い。

 Fランク探索者が比率的には一番多いわけだけど、こんなに居たのかと驚くくらいにはたくさんだ。


(Fランク階層の素材は安く、高い装備や強化は行えない。正直、俺が金を出して調達してやってもいいんだが……それは違う気がするんだよな。そもそも、あんなに努力している隆盛がそれを受け取るとは思えない)


 まあ、隆盛の場合は例外と言えるだろう。

 基本的にFランクは馬鹿にされるだけで、少しでもランクが上の人間には相手もされないし、そうなると装備を買ってもらったりすることもないはずだ。

 もちろんそこは人に寄るんだが……俺だって、あの偶然が無かったらこうして隆盛と出会うこともなかったしな。


「やあああああああっ!!」


 魔物に遭遇してすぐ隆盛は剣を手に突っ込んだ。

 俺は決して目を離さず、彼に攻撃を加えようとする魔物を狙い撃ち、とにかく隆盛には攻撃面だけにリソースを割いてもらう。


(……戦いの才能というより、剣の才能がそもそもないんだよな)


 もしかしたら剣以外の何かが隆盛には適しているような気もする。

 一応それを隆盛に言ってみたが、実は隆盛もそれを分かっており、それでも剣という武器がかっこいいからという理由でずっと装備を変えてないとのことだ。

 それを聞いた時、こう言っては何だが本当に親近感を覚えた。

 俺も運よく芽生えたスキルが刀に関するモノだったが、俺も刀は武器の中で一番かっこいいと思っているので噛み合った。


(頑張れよ隆盛)


 もしかしたら、将来は別の武器を握っているかもしれない。

 それでも彼の気持ちを尊重し、俺は出来る限り剣の扱い方をレクチャーするのだ。


「……良し、一旦休憩しよう」

「うん……ふぅ!」


 汗をダラダラ流す隆盛を引き留めた。

 魔物の気配がしない場所まで歩き、水分を摂らせながら休憩だ。


「……やっぱり、こうして疲れるからこそなのか手応えを感じるよ」

「それなら良かった」

「いい結果が残せそうな気がする……うん、頑張るよ僕!」


 ……うん、マジで努力家だよこいつは。

 最初から出来ないと思わせるのではなく、単純だけどお前なら出来ると励ましながらの方が人は伸びるようだ。

 後はまあ……少しレギオンナイトの言葉を借りるか。


「隆盛」

「なに?」

「お前には剣よりも上手く使える武器があるかもしれない、それは分かってるな?」

「うん」

「他の人はきっとそれを分析しながら腕を磨いているはずだ。そんな中で、かっこいいからって理由だけで武器を変えないのは異端だろう」

「だね」


 苦笑した隆盛に俺はこう言葉を続けた。


「他の人は勝つために大切なモノを置いてきたけど、お前は勝つために大切なモノを置いてこなかった……そこには自信を持って良いと思う」

「……おぉ、なんかかっこいいね凄く」

「だろ?」


 レギオンナイトの語録はやっぱり良いなと俺も改めて思った。

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