真相

 それは翌日のこと、刹那と一緒にBランク階層の奥で狩りを終えた後だった。

 元々その日は刹那がどこか落ち着かない様子というか、チラチラとこちらを見てきておかしいなとは思っていた。

 それで放課後になり彼女にダンジョンに誘われ、AランクかSランクの階層に行くかと思いきや少しのんびり狩りがしたいとのことでBランクに来て……それで彼女はこんなこと言い出したわけだ。


「ちょっと……私と結婚してみない?」

「何を言っているの?」


 俺はつい彼女の額に手を置いてしまった。

 これから外に出ようかといった頃に突然に刹那が結婚しようなどと言い出し……いや確かに少しドキッとはしたが、それ以上に後からやって来たのは困惑だ。


「その……結婚してみない?」

「……………」


 よし分かった、取り敢えず今の彼女が少しおかしいことは理解した。

 俺はすぐに彼女の手を引いてダンジョンの外に向かい、そこから流れるように須崎さんの喫茶店にやってきた。


「あら手を引いちゃってラブラブなんだからぁ♪」

「あはは……その、奥を借りますね。それから紅茶とケーキをお願いします」

「了解よ~ん♪」


 揶揄う気満々の須崎さんだったものの、すぐにケーキと紅茶を用意してくれて頑張ってと肩を叩かれた。

 ありがとうございますと伝えた後、俺は改めて刹那に向き直った。


「それで、結婚ってどういうことだ? たぶんだけどその言葉通りじゃないだろ」

「……そうね。私も早とちりしてしまったわ」


 やっぱりなと、俺はため息を吐いた。

 とはいえ……刹那ほどの美少女から結婚しましょうと言われたのはさっきも思ったけど普通にドキッとしたし、彼女のように気の合う女の子と結婚出来るのだとしたらそれはそれで幸せだろうなとも思う。


(……って、変に意識するなドキドキするだろうが)


 俺は頭を振って頭の中をリセットし、彼女の言葉に耳を傾けた。


「実は……皇グループの傘下の一つにモデルや服のデザインをする会社があるのよ」

「うん」

「そこの社長と母が古い知り合いでね? 私も小さい頃からお世話になってて、それで年に二回あるかないかの頻度でモデルの仕事を引き受けることもあるの」

「へぇ……」


 それは知らなかったな……って、この流れで全てが理解出来た。


「今年はウエディングドレスに力を入れたいとかで……そういうことなのよ」

「そういうことって言われても良く分からんけど、ウエディングドレスを試着するモデルになってくれって言われたのか?」

「その通りよ。私みたいな子供が似合うとも思えないけど、是非私に協力してほしいって言われてしまって……さっきも言ったけど、私も良くお世話になっているから断れなくてね」

「おっけー全部察したわ」


 まあでも、刹那ほどの子ならモデルの仕事なんて引く手数多だろう。

 ただ彼女の場合は本格的にモデルの仕事などに興味はなく、ただお世話になっている人がお願いしたらそれを手伝うというそれくらいの感覚みたいだ。


「もちろん断っても良かった……でもその、私も女の子だし? 将来は着ることになると思うからちょっと興味はあってね」

「おぉ……いやいや良いんじゃないか? 将来の夢はお嫁さんって言う小さい子も居ないわけじゃないし」

「それ、私が小さい子供って言いたいわけ?」


 そうじゃないと俺は強く頭を振った。

 確かに刹那も女の子だし、ウエディングドレスに興味の一つや二つあってもおかしくはない……基本的に何かきっかけがなければ大人になって結婚する時くらいしか着ないだろうし、貴重な経験と言えばその通りだ。


「こほん、取り敢えずそれは置いておくとして。ドレスを着て写真を撮るんだけど相手役の人ももちろん必要なの。モデルの仕事だと割り切ればいいけど、知らない男性と並ぶより知り合いで良い人が居たら誘ってみてって言われたから……」

「それで俺に白羽の矢が立ったと」

「……母も大層楽しそうに言っていたわ。瀬奈君を誘えば良いじゃないって」

「……なるほど」


 鏡花さん……何故だろうか、あの人は傍に居ないのに口元に手を当てて笑っている姿がこれでもかと想像出来るし、その隣に歯を食いしばって見つめてくる覚馬さんの姿まで見えたぞ。


「でもそれならそう言えば良いじゃん。結婚しようって言われてビビったぞ」

「……ごめんなさい。母に言われたことをそのまま実践した私が馬鹿だったわ」

「やっぱりあの人なんだね……」


 やっぱりそんなことだろうと思ったよマジで!

 話を聞き終えお互いに一旦間を置くようにケーキを食べ、甘い物を摂取したことで幾分か気持ちが落ち着いたところで俺は口を開く。


「……その、なんだ。受けるかどうかは一旦置いておくとして、男のモデルを俺に頼むってことで間違いないんだな?」

「えぇ」

「俺、自分で言うのも悲しいけどイケメンとかじゃねえぞ?」

「そんなことは……少なくとも、私はあなたのことを良く知ってるからそれだけでいつも優しくて良い人だと思ってるんだけど」

「……それは嬉しい限りだぜ」

「顔、赤いわよ?」

「赤くもなる」


 男は単純な生き物だからな。

 女の子からそういう風に言われると照れるもんなんだよ。


「……ダメかしら?」


 不安そうに刹那に言われ、俺は少しばかり考え……そしてこう答えた。


「上手く出来なくて文句とか言わないでくれよ泣いちまうから」

「あ、それって……」

「せっかく頼ってくれたんだし、友人が困っているなら助けるよ」


 早まったかなと思いつつも、刹那の提案に俺は頷くのだった。

 ちなみに俺が頷いてすぐに刹那のスマホに鏡花さんから連絡が来たのだが……あの人どっかで監視してるんじゃないよな?

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