やっぱり息が合う
「……むぅ」
「どうしたんだ?」
「難しい顔してるぜ?」
教室で一人、腕を組んで考え事をしていると真一と頼仁に声をかけられた。
そんなに難しい顔をしていたかなと思いつつ、こうやって声をかけてくるくらいなのでそうだったんだろうなと苦笑した。
「まあ小さな悩みみたいなもんだ」
「そうなのか」
「何か力になれるか?」
こんな風に聞いてくれる彼らの友情が嬉しい反面、今回のことに関しては特に力を借りるようなことでもないので俺は首を振った。
さて、何に対して俺が唸っているのか……それは今週末の土曜日に決まった写真の撮影会について――刹那が言ってきたアレだ。
(……まさかこの歳でこんな経験をすることになるとはな)
こんな経験とはいっても正装をして花嫁姿になった刹那の隣に並ぶだけなんだが、本当に高校生の内にただのモデルとはいえ予想外も良いところだ。
ちなみにあのやり取りの後に鏡花さんから電話がかかってきたのだが、既に色々と各方面に手を回しているらしく万が一にも予定は狂うことなく、絶対に……それこそ確実に撮影は行われるとのことだ。
(鏡花さん、気合入り過ぎじゃね?)
主導するのは全く別の人のはずなのに、刹那の話では鏡花さんは今回のことに関してかなり気合を入れているらしく、絶対に用事を入れてはダメだと再三刹那に言っているそうだ。
「……あ」
なんてことを考えていると、友人と楽し気に話をしている刹那と目が合った。
彼女は目が合った途端にサッと視線を逸らしたものの、それはマズいと思ったのかゆっくり視線を戻す……なんというか、その仕草が妙に可愛く見えてしまい俺の方が恥ずかしくなる。
(……今日はずっとこの調子かもしれんな)
そんな風に刹那を気にしていると、当然傍の居る二人に揶揄われる。
別に何もないと誤魔化すことは出来ても……確か土曜に撮る写真って雑誌に掲載されるみたいだし、彼らがその雑誌を手に取ることはなかったとしてもおそらく見る人は見るんだろうなぁ……はぁ。
「……ま、引き受けた以上はちゃんとやるさ」
そうしてその日の授業は始まった。
授業を受ける中で土曜日のことに関しては全てとは言わないまでも、段々と気にならなくなり、放課後になった頃にはいつも通りだった。
「瀬奈君!」
「任せろ」
巨大な怪鳥の翼を切り刻んだ刹那と入れ替わるように、魔弓のスキルによって操られた俺の矢がその巨体を貫いた。
怪鳥は苦しそうな呻き声を上げた後に絶命し、俺と刹那はハイタッチをした。
今俺たちが居るのはSランク階層をある程度進んだ先にある空中庭園エリアで、放課後になった段階で彼女に誘われたのだ。
「刀でなくてもこのエリアで戦えるじゃない」
「いや、あくまで刹那が弱らせて耐性を弱めてくれてるからだな。クリティカルに弱点を貫く鷹の瞳もなかったらここまで上手くは行かない」
ソロなら絶対に無理だし、刹那のような強者が傍に居るからこそだ。
もちろん、Sランクの階層だからこそ何が起きても良いようにすぐ無双の一刀は発動できるようにしてるけど。
「後衛の探索者と合わせる練習にもなるし、仮に何か起きたとしても絶対に大丈夫っていう安心感があるのは心強いわ」
「それはありがたいことで」
「息ピッタリなのも大きいと思うけどね」
「まあな」
お互いに何か指示をしなくてもどう動くかがある程度は分かるので、言葉少なめでも高いレベルの連携が取れるのは俺と刹那の強みだろう。
刹那はともかく、俺としてはメイン武装が刀という時点で剣を持つ刹那の気持ちが分かるのも大きいけどな。
「どうする? 今日はもう終わる?」
「そうだな……もうすぐ六時だし帰るか」
「そうね。そうしましょう」
ちなみに、中々に高価な素材が幾つか出たので換金に少し時間がかかるかもしれないが、ついでに実家の方に送金もしておくとしよう。
刹那と共にダンジョンを出た後に銀行に向かう。
特に見られて困るモノもないので、刹那も隣でジッと見ていた。
「定期的にこういうことはしてるのよね?」
「まあな。母さんも雪も困らないほどにお金は送ってるんだけど、二人とも贅沢はしないから貯まる一方さ」
「そうなのね」
「母さんには程々に贅沢はしてもらいたいし、雪もそうなんだけど……俺がいつ探索者を出来なくなるかもわからないからって、その時の為に残してるんだってさ」
中学生の雪はともかくとして、母さんも体が強いわけじゃないので……本当なら農作業もしなくて良いんだけど、あれはもう母さんの趣味だからなぁ。
それなら逆に俺の方だって母さんが何が起きても安心できるように、とことんまで蓄えは増やしておくさ。
「家族のことを話している瀬奈君は本当に楽しそうだわ」
「そうかぁ? ……ま、そうかもしれん」
そんな話をしながら組合に戻り、頼んでいた換金を終えて解散になった。
「それじゃあ瀬奈君。また――」
「皇さん!!」
っと、その別れの時に刹那に声を掛ける集団が居た。
俺もその集団には心当たりがあり、それはずっと前に刹那がダンジョンから帰って来た時に一緒に居た連中だった。
(確かあの時、ぶつかって雑魚って言われたんだっけか)
あれから色々とあってそんな罵倒も逆に懐かしささえある。
すぐに帰ろうとは思ったが、少しだけ離れて刹那の動向を見守ることに。
「皇さん、また俺たちとパーティを組もうよ」
「ごめんなさい。パーティを組むかどうかは自分で決めることにしてるのよ」
そう刹那が伝えると見るからにその男子は残念そうにした。
何となく離れたのは正解だったようで、これで俺が刹那の傍に居たらそれはそれで色々と言われていたかもしれない。
「でも皇さん……最近、Bランクの生徒と一緒に居るとか聞きました。そんなのより俺たちと潜ったほうが良くないですか?」
「そんなの?」
「っ!?」
ピキッと、何か音が聞こえた気がした。
今のが刹那の逆鱗に触れたことは男子も分かったのか、小さくごめんと呟いて走って行ってしまった。
ビビるくらいなら最初から他人を貶すような言い方をするなよとは思いつつ、またなと伝えて刹那と別れるのだった。
「……こんな風に普通に話せるなら、撮影の時もどうにかなりそうだ」
ソレについては本当に安心した。
そして、数日を過ごしその時がやってきた。
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