平和すぎて平和が怖い

「こ、これで終わり!」

「お疲れ様だ夢」


 真一や頼仁とコンビでダンジョンに潜ることもあれば、沙希や夢といった女性陣とコンビで潜ることもある。

 頻度はそこまで多くはないものの、誘われて用がなければ基本的に俺は付き合うことにしている――そして今日は夢と二人でダンジョンに潜っていた。


「凄く戦いやすい……流石瀬奈君」

「何言ってんだよ。夢も魔法が良い感じに上達してるな」


 お互いに後衛ということもあって戦いにくさは若干あるのだが、そこは俺の魔弓のスキルが全てをカバーしている。

 階層もCランクなので大した脅威はないし、二人きりということもあって基本的に何かあっても対処できるよういつも以上に気は張っていたが。


「……うん?」


 ある程度の狩りを終えた後、夢とのんびりしていた時だった。

 会話を交わしている俺たちの近くを四人ほどのパーティが近づいてきたのだが、俺たちは彼らを先に行かせるために端の方へ移動する……しかし、俺たちを目に留めた彼らは声を掛けてきた。


「君たちはずっと狩りをしていたのか?」

「あぁ」

「……うん」


 あまり見た顔ではないし同じクラスではないか。

 俺の直感から分かったのは彼らは全員Cランクの探索者ということで、四人も居ればこの辺りだと特に苦戦はしないくらいには実力はありそうだ。


「二人でか……良かったら今から僕たちと一緒に奥に行かないか?」


 俺ではなく夢へとリーダー格の男が声を掛けた。

 夢は突然声を掛けられたことでコミュ障をこれでもかと発揮してしまい、上手く言葉を返せそうにないがそれを放っておく俺ではない。


「悪いがもう終わったんだよ。俺たちはもう帰る予定でな」

「瀬奈君……」


 トントンと、夢の肩に手を置いて俺はそのまま歩き出した。

 面白くなさそうに舌打ちはされたものの、背後から一撃を加えてくるようなことはなかったので、俺と夢は特に何事もなく外に出るのだった。


「……ビックリした……凄く」

「夢が一人だったら押し切られて付いて行ってたか。ま、一人でダンジョンに来ることはないと思うけど」

「ない……ね。絶対にない」

「だな」

「……というか、私はそこまで意志が弱くないよ」


 ぷくっと頬を膨らませてそう言われたので俺はそうだなと苦笑した。

 いつも傍に沙希というコミュお化けが居るから差があり過ぎるが、確かに暗さの目立つ夢もしっかりと意志は強い女の子だったか。

 それにCランクの探索者として実力も確かなもので、真一たちも彼女のことを心から信頼している……もちろん俺だって。


「さてと、そろそろ戻ろうぜ。素材は大量だし、換金も時間が掛かりそうだ」

「……ねえ瀬奈君」

「なんだ?」

「報酬の件だけど、ほとんど瀬奈君が倒したよね? だから私はそんなに要らないからね?」

「何言ってんだよ。二人で戦ったんだから半分ずつで良いってば」

「でも……」


 そして一番夢の良くないところは遠慮がちな部分だ。

 二人でダンジョンに潜ったからこそ、二人で戦った結果なんだから当然報酬は半分ずつで良いだろう。

 夢を何とか納得させ、組合に戻って彼女と別れた時だった。


「なんだ?」


 ダンジョンの方角から数人の探索者が走ってきた。

 どうやら数人のパーティらしく、気を失っているのか男が一人担がれていた。


「……あれって」


 その気を失っている男……というより、周りを歩いている面子にも見覚えがある。

 あれは以前に俺がダンジョンで助けたパーティの面々であり、隠された力云々を自信持って行っていた奴らだ。


「……………」


 担がれている男こそが自信満々に豪語していた探索者で……まあなんだ、近いうちに痛い目を見るとは思っていたけど思いの外早かったな。

 ただ手痛い怪我はしたようだが命に別状はないようなので、自分には隠された力なんてものがないんだと自覚し、調子に乗ってダンジョンの奥に突っ込むことがないようにしてくれると良いんだが。


「おい、大丈夫か?」

「だから言ったのよ。調子に乗って奥に進むから!」


 ……うん、災難だったなと俺はそう思うしかない。

 どんなに自分に関係のないことでも、一度気にしたらしばらく気になって仕方なくなるのが俺の悪い癖だ。

 まあそれが他者を思う優しさと言えば聞こえは良いけど……どうなんだろうな。

 なんて、そんな風に考え事をしていたからか俺は目の前を歩いていた男子に肩をぶつけた。


「おい、てめえ何ボーっとしてやがる」

「すまん。ちょっと考え事してたわ」


 とはいえ、向こうもスマホを操作していたみたいだしお相子だ。

 そのまま歩いて行こうとしたのだが、明らかに喧嘩っ早いのか彼は俺の肩に手を置いてきたものの、俺はその場から一気に駆け出した。

 あの男子からしたら目にも留まらぬ速さだっただろうけど、これもまた刀を極めたことで手に入れた体術の一つだ。


「さてと、帰るとするか」


 それからすぐに寮に帰り、俺のその日は終わるのだった。

 そしてベッドの中で眠りに就く前に、俺は最近の出来事を思い返した。

 思えば刹那と出会ってから色んな事が起こり始めたようにも思えるし、それは決して悪いことばかりではなく嬉しかったり楽しかったことも同じくらいにあった。


「刹那の件から何も起こってないし……平和だねぇ」


 少し前は生徒間のいざこざが多かったものの、色々と引き締められたおかげで事件に発展するようなことは起きておらず、探索者のほとんどが純粋に更なる高みを目指して日々頑張っている。

 間違いなく良い方向に世の中が進んでいるはずなんだが、この辺で何か事件が起きるのではないかと考える辺り俺もアニメや漫画の見すぎかもしれない。





「ね、ねえ瀬奈君?」

「なんだ?」

「ちょっと私と……結婚してみない?」

「何を言ってるの?」


 翌日、そんなやり取りを俺は刹那としていた。

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