またね

「……そういや」

「どうしたの?」

「お好み焼きって随分久しぶり……最後に食べたのいつかなって考えてた」

「そんなに?」


 俺は頷いた。

 夜になって刹那と合流し、彼女が美味しいと評判のお好み焼き屋を紹介してくれたので、そこで今夕飯を摂っている最中なのだが……言葉にした通りだ。


「だってお好み焼きってそうそう食べるもんじゃないだろ? 真一たちと良く飯に行くけど、その時はみんなで囲む鍋物だったりするし、他だと無難にラーメンとかうどんとかだぜ?」


 そう、お好み焼きなんて本当に久しく食べていなかった。

 最後に食べたのは中学校の頃、コンビニで適当に飯を買った時に食ったのが最後くらいのレベルで、それくらいにお好み焼きは久しぶりなのだ。


「地域によってはメジャーだけど、確かに他に食べたいものを押し退けて食べるかと言われたらそうかもね」

「だろ? でも美味しいのは分かってる……うん、最高に美味い」


 肉と野菜たっぷりの生地の上にふんだんに被せられたソースとかつおぶしが本当に良い味を出しており、逆に多すぎじゃないかと言いそうになるこれが良いんだ。


「それにしても本当に刹那は色んな店を知ってるな?」

「まあね。私がというより、友達の中にグルメ通が居て良く誘ってくれるから」

「へぇ」

「ほら、隣のクラスにちょっとぽっちゃりの子居るじゃない?」

「……あ~」


 そう言われたら何となくあの子かなと思い浮かんだ。


「あの子、自分のぽっちゃり体型は大好きなものをたくさん食べることの出来る証であり勲章だって常々言っててね。中学の頃は体型のことでイジられたりしたことはあるみたいだけど、一度もショックとかはなかったんだって」

「……強いなぁ。でも、確かその子……たぶんだけど島津しまずさんだろ?」

「えぇ。その子で間違いないわ」

「彼氏いたよな? ま、話を聞く限り明るい性格みたいだし良い子なんだろうなぁ」


 そう、隣のクラスのぽっちゃり女子ってなると島津さんだが当たっていたようだ。

 特に他人の恋愛事情に興味はないが、島津さんが時折同級生と腕を組んで歩く瞬間を見たことはあった。

 その時も周りを明るくさせる笑顔だったし、ああいう底抜けに明るい子はやっぱり異性を惹きつけるんだろう。


「すっごく良い子よ? あの子もネタにしてるから私も言えるんだけど、あの子はあれでAランクの探索者なの。しかも俊敏性が売りの暗殺者スタイルね」

「……マジかよ」


 それはギャップが凄まじいな、でもそういうのは結構好きかもしれない設定的に。


「それで……」

「なによ?」


 俺は彼女の目の前に置かれている二枚の皿を見て笑った。


「大丈夫か? そんなに食って」

「っ……美味しいものを前にしたら手が止まらないの。それに二枚くらい余裕よ全然体重に影響はしないわ」

「さよですか」

「そうよそうだと言ってちょうだい」

「はいはい。そこまで言わなくてもいいって」


 俺も一枚食べ終えたところで、もう少し行けるかなと思い追加を頼んだ。

 納豆お好み焼き、キムチお好み焼き……あまり見ないタイプだけど今日はキムチの方をいただくとしよう。

 それから運ばれてきたものも食べ終えた後、個室ということで俺は刹那とのんびり雑談に花を咲かせていた。


「……っ!?」

「ど、どうした?」


 その途中で鏡花さんからメッセージが来たらしく、それを見た刹那が何故か顔を真っ赤にして俺を見てきた。

 どうしたんだと聞くと彼女は何でもないと首を振り、スマホをポケットに仕舞ってコホンと咳払いをした。


「……ちょっと暑くなったわね。アイス頼むわ」

「じゃあ俺も頼むか」


 互いに二枚もお好み焼きを食べた後ではあるが、俺は彼女の漢気に付き合うことにしてカロリーたっぷりのアイスを頼むのだった。

 それから若干の後悔を表情に滲ませる刹那と一緒に店を出た。


「……なあ刹那、こういう時に伝える言葉としてはダメなのかもしれないけど」

「なに?」

「本当にそんな気にするほどじゃないと思うぞ? 少なくとも、俺の感覚だと全然良いと思うし……というか、気にせずにああやって美味しそうに食べる刹那を見ているのは楽しかったから」

「……そう?」

「あぁ。もちろん食べ過ぎはダメだし、太るのが嫌だって気にするのも悪いことじゃないけど、あまり考え過ぎないで良いと思う」

「……………」


 でも……マジで太ることを忌避する人は極端な人も多いからな。

 俺の身近ではそういう人は全然居ないけど、テレビのニュースや特集番組なんかで極端なダイエットをして病気になったり、それこそ体の痩せ方が異常になってしまう人なんかも居て……そういうのを見ると無理だけはしてほしくないもんな。


「……手、貸して」

「え?」


 刹那は俺の手を取り、そのまま手の平がお腹に触れるように引っ張った。

 突然のことに驚いたものの、手の平に伝わるのは彼女の制服の感触とその先にある肌の感触……さわさわと動かされる手から感じるのはやっぱり、特に出っ張ってもない感触だ。


「どう?」

「……全然普通だろ。気にすんな」

「分かったわ」


 ……いきなりお腹を触ることになったのはマジで驚いたぞ。

 顔に動揺が出ていなかったかと不安になったが、俺の言葉一つとはいえ安心したように笑顔になった刹那を見ると大丈夫だったようだ。


「今日はありがとう瀬奈君。楽しい時間だったわ」

「俺もだよ。ダンジョンに行って寮に帰るだけの日々が多いし、やっぱりこうして誰かと夕飯を一緒にするのは悪くない」

「それなら……これからもどう?」

「良いのか? むしろ望むところって感じだ」

「決まりね! ……決まりね♪」


 ということで、また日を改めて彼女とご飯を食べる約束をして別れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る