今日も気付いてしまった

「ちょ、ちょっと緊張してるよ私……」

「わ、わわわわわたしもききんちょうしてるるるるるっ!!」


 俺の目の前で沙希と夢が緊張を露にしていた。

 放課後になってすぐ俺は沙希と夢にダンジョンに誘われたんだが、ちょうどその時に俺の隣に居る女の子が耳を傾けていたわけだ。

 チラッとその女の子に目を向けると彼女はクスクスと笑っていた。


「そんなに緊張しないで? あまりガチガチになり過ぎると怪我するわよ?」


 そう、我らがSランクの探索者である刹那だ。

 基本的に彼女がソロでダンジョンに潜るというのは良く見られる光景だけど、こうして仲良くなった友達とは彼女も一緒に探索をしたいらしい。


(……自分で行きたいって言い出すよりも、雰囲気で行きたそうにしてたからな)


 俺が二人に誘われた時に刹那は決して自分も行きたいとは言わなかった。

 しかしモジモジと体を揺らしていたので、俺が一緒に行くかと提案したら彼女は真っ先に頷きこうして同行することになったわけだ。

 そうなると俺たちにとっては非常に心強いわけだけど、沙希と夢からしたらSランクという圧倒的な探索者との狩りは初めてということで緊張しているのである。


「緊張するなって無理だよそんなの!!」

「そそそそうだすよ!! 無理無理!!」

「だすよって何よ……」


 あまりにも慌てている二人を見ていると少し不安になるが、この場には刹那も居るし俺だって居る……だから真一たちにも心配をかけることはないだろう。

 元々真一と芳樹も加わっての四人パーティが主なのだが、残念ながら男子二人は家の手伝いで帰ってしまい今日は不在だ。


「二人とも深呼吸をしろって。息を吸って~」

「すぅ……」

「すぅ!」

「吸って~」

「すぅ……?」

「すぅ……??」

「吸って~」

「吐けないじゃん!」

「こ、殺す気!?」


 よし、良い感じに緊張は解けたみたいだな。


「ふふっ、危険と隣り合わせとは言っても気を楽にしていきましょう。どんな敵が現れてもあなたたちに傷を負わせたりはしないわ。スキルの確認であったり、連携であったり落ち着いてやっていきましょうか」

「……おぉ、なんて心強い」

「め、女神様……っ!」


 ま、向かう先はCランク階層の中盤以降に位置する峡谷地帯だ

 そこそこ面倒な魔物は多いけれど刹那が言ったように気楽に伸び伸びと狩りをしていけば良い。

 刹那の言葉にようやく二人も緊張が解けたらしく、二人とも武器を手に奥へ進み始めた。


「私、こうしてみんなとダンジョンに潜れるのが嬉しいわ。ソロは気が楽だけど、やっぱりダンジョンの醍醐味ってパーティを組んでというのがあるからね」

「そうだなぁ。真一と芳樹も居ればもっと賑やかだったんだろうけど……」

「また……」

「うん?」

「その時は……その、誘ってほしいわ」


 あの二人もそうだが、沙希と夢が断るわけがない。

 刹那も出てくる魔物を片っ端から狩り尽くしてみんなの経験値にならないようなことはしないはずなので、きっと良い刺激にもなってくれるはずだ。


「だ、そうだぜ沙希と夢」

「うん! 刹那ちゃんが良かったら是非!!」

「お、お願いしたい!」


 沙希と夢の笑顔に刹那もまた、嬉しそうに笑みを浮かべるのだった。

 それから俺たちは予定していた峡谷地帯まで向かうのだが……本当にこうして色んな地形のダンジョンの姿を見ていると不思議な気分だ。

 感覚としては地下に潜っていくイメージなのに、まるで無尽蔵とも言える空間が広がっていてその中に多くの生命と景色が混在している……果たしてこのダンジョンの秘密が解明される日は来るのかどうか……まあ俺が気にすることでもないな。


(しっかし、本当に良いパーティっていうか武器の組み合わせがバランス良いよな)


 弓という後衛武器だからか俺は良く彼女たちを後ろから見る立ち位置になる。

 いつもの四人だと剣を持った真一、槍を持った芳樹、短剣と魔法を使う沙希、そして補助魔法で全体をカバーする夢と、本当に組み合わせが良い。


「早速お出ましだな」


 向かった先に出てきたのはワイバーンだ。

 Sランク階層に出没するドラゴンに比べれば体は小さいものの、飛行能力と高熱のブレスには気を付けなければならない相手であり、Cランクの階層だと比較的強い部類の魔物だ。


「援護は瀬奈君と夢さんに任せましょう。さあ沙希さん、前衛の私たちで掻き乱しましょうか」

「りょうか~い!」


 刹那と沙希が飛び出し、俺は夢と頷き合って彼女たちのサポートだ。

 沙希はともかく刹那に関しては全く心配はないため、俺と夢は必然的に沙希を優先してサポートすることになる。

 とはいえ、沙希も直に探索者ランクがBに届きそうということもあってやはり動きもかなり洗練されている。


「はああああっ!!」


 短剣を装備にしているだけあって動きは暗殺者染みている。

 攻撃に関しては派手な技も魔法も使うことはないが、確実に敵の急所を狙い撃つ正確さがあるため、真一と芳樹は良く彼女に助けられていると良く言っていた。

 そして隣に居る夢もまた、やはり補助魔法に特化しているのもあって沙希たちのサポートに長けている。


「また少し腕を上げたんじゃないか?」

「そそそうかな? 私、前衛は出来ないからこんなことしか……」

「こんなこととか言うな。みんなのことを守ってるじゃないか」


 夢は少し自信のない部分が目立つのだが、もう少し胸を張ってほしいところだ。

 俺の弓と夢の魔法でサポートをされながらも、刹那が傍に居ることに安心しているのか少し沙希は気が抜けているのかワイバーンに背後を取られた。


「やばっ……」


 それは間違いなくピンチではあったのだが、二度目になるがここには俺と刹那が居るので心配は要らない。

 魔弓で操る矢がワイバーンの翼を撃ち抜き、自分が担当していた他のワイバーンを片付け終えた刹那が喉元に鋭い一撃を加えたことで、呆気なく沙希を食おうとしたワイバーンは絶命した。


「気を抜いたわね?」

「ごめんなさい……」

「次からは気を付けるのよ? でも初めて一緒になったけど良い動きをするのね。その速さは中々に目を見張るものよ?」

「……そうかなぁ?」

「自信を持って。夢さんも良いサポートだったわ」

「ああああありがと!!」


 うん、空気が美味くて嬉しい限りだ。

 その後も危なげなく四人での狩りを続け、沙希と夢が疲れを見せた段階で外に出ることにした。


「なんというか……瀬奈が居ると安心感はあるんだけど、やっぱり刹那ちゃんが居るとこんなにも違うんだね」

「……安心感、凄すぎる」

「そう言ってもらえると嬉しいわ。二人ともしっかりと自分の役割を熟していたし、本当に普段から良いパーティなんだなって羨ましくなるほどよ」


 刹那の言葉に沙希と夢は照れ臭そうにしながらもずっと笑顔だった。

 組合で換金した取り分を分配した後、俺たちは解散することになったが、俺の隣には刹那が共に歩いている。


「今日は本当に楽しかったわ……って、ダンジョンでこういうのも変かしら」

「良いんじゃないか? 確かに危険はあるけど、ちゃんと現地で気を抜くことはないんだからさ」

「そうね……その通りだわ」


 また機会があったら必ず行きたいと約束をした後、俺は小さくため息を吐いた。

 何故ならまたあの気配、以前に感じた千条院家の関係者を気配察知で見つけたからだ。


(……近いうちに何か動きがありそうなのは俺の考え過ぎか?)


 何となく、そんな予感がしていた。

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