断罪の一矢、しかして正義ではない
「なあ刹那」
「何かしら瀬奈君」
急遽名前呼びをお互いにすることになったのだが、既に俺たちはそれに慣れたかのように互いの名を呼び合っていた。
最初の内はお互いに……俺はそうでもなかったが、刹那の方はずっと恥ずかしそうにしていたものの現在は御覧の通りだ――そして、俺たちの前には巨大な魔物であるミノタウロスが降臨していた。
「……これ、俺たちが荒らしたからか?」
「かもしれないわね。ダンジョンのことを全て理解しているわけじゃないけど、そのエリアにおける全ての魔物を殲滅すると出てくるボスが居るのも確認されているわ」
「それがあいつか……ま、エリアボスってのは初めてじゃないけど」
ごく稀にと言うほどでもないが、魔物を殲滅し尽くすとそのエリアに新たな魔物が生まれることがある――それが今現れたミノタウロスだ。
牛の頭を持った二足歩行の巨大な化け物で、その手には全てを叩き潰すかのような斧を握りしめており、おそらくだがAランク階層の序盤程度に巣くう魔物くらいの強さはありそうだ。
「抜くか?」
「必要ないわ。瀬奈君は援護をお願い……というよりも、もう少し体を動かしたいのよ。最近ケーキの食べ過ぎで体重が二キロ増えたから」
「……そういうこと言って良いの?」
「構わないわ。別に二キロくらい全然気にしてないもの中学校の頃に回答欄を全部一つずつズラしてしまってゼロ点を取ったことをいまだに忘れられないくらい気にしていないから」
「早口止めろしめっちゃ気にしてんじゃんか」
というか刹那にもそんな可愛いミスをした過去があるんだなぁ……前に肥らないとか言ってた気もするけどそんな女性は居ないんだやっぱり。
なんてことを思っていると、ミノタウロスが耳を塞ぎたくなるほどの咆哮を放って動き出した。
「行くわ」
「了解」
駆け出した刹那を追うように俺は無数の矢を放つ。
「やああああああっ!!」
鋭く突きだした刹那の剣はミノタウロスの胸に向かうが、まるでその場所に攻撃が来ることが分かっていたかのように筋肉が活性化していた。
ボディビルダーのような立派な体を持つ奴だからこそ出来る芸当なのかもしれないが、そんなもので刹那もそうだが俺だって止まることはない。
「中々硬いじゃないの。でも残念、あなたは私たちの相手ではないわ」
私たち……か、本当に些細なことでも嬉しい言葉を伝えてくれるもんだ。
俺はそんな刹那に応えるように魔弓のスキルを全力で発動し、次から次へと矢を放つ手も緩めることはない。
ミノタウロスは目の前を無数の蚊が飛んでいるようにも見えているだろうか。
全ての矢を俺が支配しており、それは的確に奴の体を傷つけ体力を奪っていく。
「コキュートス」
ミノタウロスから少し離れ、刹那が氷属性の大規模な魔法を発動させた。
それはミノタウロスの体を凍り付かせ、満足に動くことさえも出来なくさせ……そして首以外の全てを凍り付かせたところで飛び上がった彼女は思いっきりその首を斬り落とすように鋭い一撃を加えるのだった。
「チェックメイトよ」
大きな音を何一つ立てることなく、まるで滑り落ちるようにミノタウロスの頭が地面に落下し、斬られた首からは噴水のように血が噴き出している。
その鮮血の量は尋常ではなく、汚れたくないのか刹那はすぐに俺の元まで戻ってきた。
「なあ刹那」
「なに?」
「人間でも魔物でも、しつこい奴は嫌われるよなぁ」
「そうねぇ。しつこいのは嫌よねぇ」
俺は刹那とそんなことを良いながら頷き合う。
その直後、ミノタウロスの頭が動き出し大きな口を開けて俺たち二人に襲い掛かって来たのだが、そんな頭の頭上から無数の矢が降り注ぎ地面に縫い付ける。
更に刹那が魔法で炎の巨大な槍を生み出し、身動きの取れない奴の頭を焼き尽くすように包み込んだ。
「分かってたけど、これで正真正銘のチェックメイトね」
「だな」
燃え盛る炎の中でミノタウロスは最後の咆哮を放った後、真っ黒な墨となってボロボロに朽ちてなくなった。
特に疲れることもなかった戦いの終焉だったものの、久しぶりのエリアボスということで良い物を見させてもらった気分だ。
「やっぱり、あのレベルとなると俺の弓じゃ致命傷までは与えられそうにないか」
「少し厳しそうかしら。弓術のレベルを後少し上げれば可能とは思うけど」
「だな。レベル7までの壁は分厚いけど、どうにか越えられるように頑張るさ」
「ふふっ、そもそも後衛武器なのにソロでやろうと考えているのが間違っているんだけどね。そこも刀を手にソロで戦い続けた弊害かしら?」
「……意外とあるかもしれんな」
「みたいね。全然心配はしていないけれど、もしドジを踏んでしまってあなたが怪我をするのも嫌だから……その、機会があればまた一緒にどう?」
それこそ無用の心配なんだがな……俺は分かったと、機会があればまた一緒に潜ろうかと約束した。
嬉しそうに笑顔を浮かべた彼女だったけど、俺は一つ言いたいことがあった。
「なあ刹那」
「何かしら?」
「さっき体重のことを色々言っていたけどさぁ、気にすることなくないか? まあ男の俺目線だから当てにならんかもだけど、十分に整いすぎてると思うぜ? それ以上綺麗になったらどうすんだレベルでさ」
「っ……」
本当に均衡の取れている体だと思うんだ俺は。
まああまり女性に対して体のことを口にするのはセクハラなので、これ以上は黙っておくことにしよう。
「……?」
その時、ピコンとスマホが音を鳴らした。
画面を見てみると、やはりまたスキルが一つ発現していた。
【ロストショット】
「新しいスキル?」
「みたいだな。ま、取り敢えず戻るとしようぜ?」
「えぇ」
その後、一旦組合に戻ってから俺たちは別れた。
初めて刹那とパーティを組んでの戦い……まあ彼女は退屈だった難易度かもしれないが、弓でのサポートも彼女レベルに合わせられることも分かったので良い収穫だった。
「それにしてもロストショットか……」
新しく発現したスキル、それは少しクセのあるものだった。
以前に手に入れた【鷹の瞳】の派生スキルみたいなものらしく、直接その生物が持つ魔力の結節点を見つけ貫くことが可能らしい。
魔力が肉体を貫通し、その結節点を貫くので傷が出来ることはなく……つまり、外傷が全くなく相手の魔力の源を破壊することが出来るわけだ。
「さてと、そろそろ帰る――」
新スキルと連携の確認、多くのことがあって今日はとても気分が良かった。
しかし……そんな俺の気分を最悪なまでに降下させる出来事が発生した。
「ちょ、ちょっと大丈夫なの?」
「分からねえ……ただ探索者が暴れたらしいぞ?」
「Aランクなのよね? 小さな子供も巻き込まれていたけど……」
確かに少し騒がしいと思っていたが、どうやらまた探索者が問題を起こしたようで俺はため息を吐く。
ここまで大きくなった以上気になるのも当然で、俺はその騒ぎの元に駆け足で向かった……すると、救急車に運ばれる一人の男の子の姿が見え、俺はえっと声を漏らした。
「……あの子は確か――」
以前、母親を助けてほしいと依頼を出したあの男の子だった。
男の子に寄り添うように涙を流す母親も一緒に救急車に乗り込み、そのまま救急車は走って行ったが……まだ怪我人は居るようだ。
俺は導かれるがままに騒ぎの元に向かうと……そこに居たのは停学を食らって学校に来ていない千葉たちだった。
「君たち、自分たちが何をしたのか分かっているのか!?」
「るっせえなぁ! あのガキが俺にぶつかったのがわりいんだよ」
「力のない奴は道を空けるのが普通だろうが! 俺たちは悪くねえ!」
……俺はその場から近くの高い建物に飛び移った。
俺は矢を強く引き絞り、そして放った。
【ロストショット】発動
俺は別に正義の味方じゃない……でも、本当に我慢できない時はカッとなるんだなと客観的に自分のことを考えていた。
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