全てを断ち切る刀
「卓也!!」
「……佐奈?」
トラップの部屋の中央で呆然と真田が座り込んでいた。
「ボーっとするな。早くこっちに来い!」
「っ……分かった!」
無理やりにトラップ部屋を外から切り開くというやり方だが、これはダンジョンからすればイレギュラーに等しい行為である。
つまり、切り裂いた扉と壁はすぐに修復を開始している。
真田は俺の声を聞いてすぐに走り出し、修復が完全に終わる前に部屋から脱出することが出来た。
「卓也……卓也ぁ!!」
「佐奈……佐奈!!」
目の前で抱き合う二人に俺はホッとした。
さっきも言ったが一度トラップが発動すると中で行われる試練をクリアして解除するしかないのだが、俺の無双の一刀はこういった反則紛いのことも出来る。
【無双の一刀】
それは剣術を極めた時に現れたスキルだ。
内容としては至って単純で、スキルによって生まれた刀を召喚し、それを持って戦うことがこのスキルの本質だ。
まあ戦うのはあくまでおまけで、本命はこの刀そのものだろう。
(斬れるのは物質だけでなく、概念すらも断ち切ることが出来る無双の太刀……概念とか難しいことは分からないけど、取り敢えず斬れないものはないらしい)
後は単純に身体能力の強化であったり細かい能力もあるのだが、今はただ目の前で犠牲者を出さなかったことを喜ぶことにしよう。
刀を手から離すと、淡い光を放つそれは虚空へと消えた。
(それにしても……まさか本当にやりやがるとはな)
去年は……いや、つい最近まではここまで酷いことはなかった。
しかしどうも探索者という職業の人気が高まることで、同時に地位も上がったということであのようなことも増えてきたというわけか。
「取り敢えずどこか怪我してないか? 投げ飛ばされた時に」
「あ……でも大丈夫だ。軽い打撲だし」
「見せてみろ」
裾を捲ると打撲なんてものではなく、しっかりと切り傷が出来て血が出てしまっていた。
ダンジョンに潜る探索者からすればこの程度の傷は痛くも痒くもないものの、普通の人からすればそれなりに痛みは伴うはずだ。
「大丈夫なんて言うんじゃない。それ、風呂に入る時辛いぞ?」
「確かに辛いかも……」
「大丈夫? 本当にそれだけ?」
俺は懐から軟膏を取り出した。
この軟膏は結構特別製のもので、浅い階層で手に入れたものだがこの程度の傷はすぐに治る。
真田と新庄は首を傾げていたが、傷跡に塗られた瞬間、一瞬で傷は無くなり綺麗な元の肌が戻った。
「おぉ……」
「凄い……」
「ま、ダンジョンの戦利品ってな。今日一緒にダンジョンに潜ったってことでそれはやるよ。これから使ってもらっても良いし、何なら組合で売っても良い」
俺が原因ではないにしても、あんな思いをさせてしまったことに対する一つの気遣いみたいなものだ。
真田は渋ったが、どうにかもらってくれと伝えると渋々頷いた。
それから俺は二人を連れて転移陣まで向かうのだが、二人とも俺の戦いに目を輝かせていた。
「すっげぇ……これが探索者かぁ」
「かっこいい……その矢はどうなってるの?」
「スキルだよ。ほれこんな風に……」
魔弓のスキルを敵が居ないのに披露する。
綺麗な青色の軌道を描いて動く矢に、二人はまるでサーカスを見ているかのように喜んでくれた。
今回のことは最悪な出来事だったろうけど、それでも少しは良い思い出を作ってもらいたかった。
「その……探索者の中にも時岡君みたいな人が居るんだね?」
「まあな。つってもあんな風に馬鹿をやるのは一部だけど」
「あいつら、クソ野郎だよマジで。私に力があったらぶっ殺してやりたい!」
「良いねぇ。そういう啖呵を切れる奴は嫌いじゃない」
それに、こういうタイプは力を持っても暴走はしないタイプだろう。
まあ、もうこの二人が力に目覚めたりする未来はないのだが……あんな連中よりもこういった人たちが力に目覚めればなと良く思う。
「二人とも、転移陣を出たらすぐに普通科の先生の元に向かえ」
「……あ、そうか」
「分かったよ」
どうして生きているんだと、少し面倒なことになりそうだからなぁ。
とはいえ、あの連中は先に上に戻ってどんなことを先生に報告したのやら……そしてそれに対し、先生はどんな風に面白がっているのか想像もしたくない。
それから俺たちは転移陣を使って地上に戻ったのだが、やはりというべきか千葉たちは俺たちを待っていた。
「……は?」
そして俺たちを見て呆気に取られていた。
その顔はあまりにも間抜けで指を向けて笑ってやろうとも思ったが、流石に沸点低そうなのでやめておく。
「それじゃ、時岡君ありがと!」
「本当にありがとう時岡!」
「おうよ。じゃあな」
真田と新庄はすぐに担任の先生の元へと向かうのだった。
さてと、俺はどうしようか……なんて、現実逃避は止めるとするかね。
「おい、どうして奴が生きている?」
「本当だぜ。だってあいつはトラップで閉じ込められたはずだ!」
「そうだそうだ。俺たちは見たんだぞ!」
俺は鼻をほじり、鼻くそとピコンと飛ばしながらこう言った。
「俺も良く分かんねえわ。なんか扉が突然開いて助けることが出来たんだ」
「……ちっ!」
そうだよな? たとえ疑問に思ったところで何も聞けないはずだ。
トラップの部屋は外からはでは解除できない、その制約が常識であるからこそ俺が何をしたと彼らはその考えに至れない。
色々と言いたいことはあるが、この出来事はこれで終わり……とはならなかった。
「何澄ました顔してんだてめえはああああああ!!」
千葉は歩き出したかと思いきや、すぐに振り返って手に持つ斧を振り上げた。
なんでこんな奴がAランクなんだよと思いつつ、同時に迫りくる斧を遅いなぁなんて思いながら、俺は避けることをしなかった。
「……え?」
気の抜けた千葉の声が響いた。
どうして避けなかったのか、それはその必要がなかったから。
「あなた、一体何のつもりで武器を級友に向けたのかしら?」
千葉の斧を軽々と剣で受け止めたのは皇だった。
こちらから皇の顔は見えないが、どうも千葉の様子を見るにかなりビビっているらしくすぐに目を泳がせた。
「ざまぁ」
「っ! てめえ――」
「だからやめなさい」
はい、黙っておきます。
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