無双の一刀
急遽、来週に普通科の生徒たちとダンジョンに潜ることが決定した。
そのことに異を唱える探索科の生徒は居なかったのだが、逆に普通科の生徒からはかなり反対の意見が出たらしい。
しかし、その意見に耳が傾けられることはなく……やはりここにも傲慢な考えが及んでいるんだなと俺はため息を吐く。
「普通科の奴らが何か役に立つのかよ。邪魔なだけじゃね?」
「魔物の餌にしてやろうぜ?」
そんなことをゲラゲラと笑いながら話しているのも普通らしい。
言っていることは吐き気を催すほどに邪悪だが、これを口にしているのは探索者ランクに限らないというのもまた闇である。
「……?」
そんな中、皇は特に思うことはないのか取り巻きすら連れずに教室を出て行った。
あいつとは特に話したことはないけれど、Sランクという肩書に驕るような性格で
ないことは知っているし、何より彼女が誰かを見下したりした瞬間も見たことはなかった。
(流石は皇グループのご令嬢ってか。まあでも、だからこそ探索科にも普通科にも人気なんだろうけど)
皇グループの令嬢であるのもそうだが、何よりその美貌に何人の男子がこの学校で惚れていることやら。
噂では家族が用意した婚約者を全て相手することなく、自分より弱い者に嫁ぐつもりはないとか宣言したなんて噂もあるけど……ま、俺には関係ねえか。
「……俺、彼女とか出来んのかなぁ」
母さんや妹のこともあって、自分で言うのもなんだが他者を思い遣る優しさは持っているつもりだし、ダンジョンでの稼ぎもあってお金には困らない……まあでも、漫画のキャラに憧れてダンジョン馬鹿になった俺を好いてくれる女の子が居るなんて正直想像も出来ない。
「はぁ……つら」
悲しいことを考えてしまったせいかため息が零れた。
それから学校での時間を過ごした後、偶々普通科の生徒とすれ違うことがあったのだがその時に彼らはこんなことを話していた。
「なあ、俺たち大丈夫なのかな?」
「魔物の餌にされたり……しねえよな?」
「まさかそんなことがあるわけ……」
なんていう心配事の話だ。
何の偶然か、さっきクラスで探索科の連中が話していた内容と同じ……良識を兼ね備えた探索者も多いので滅多なことはないと思いたいが、こればかりは暴走がないことを祈る他ない。
「ふぅ、ダンジョン行くか」
こういう時は身体を動かすのが一番だ。
ちなみに、今日はダンジョンに行く途中で真一たちとのパーティと鉢合わせし、流れに逆らえず俺は彼らとまた一日だけパーティを組むことになるのだった。
やはり彼らは堅実的な探索を心掛けており、無理はしないとのことで俺も特にスキルを使うことはなかった。
▽▼
そして、早くも時間は流れて交流イベントの日がやってきた。
グループはそれぞれ探索科から四人、普通科から二人が集まり計六人でダンジョンに潜ることになった。
(……よりにもよってこいつらか)
俺の他に選ばれた三人の探索者はあの日、クラスで普通科の人間を餌にしてやろうぜと言っていた連中だった。
「おい、普通科のゴミ共。精々足を引っ張んじゃねえぞ?」
「くくっ、さもないと魔物の餌にしてやるぜ?」
「分かったかぁ?」
「……うん」
「……はい」
俺、こんな奴らと一緒くたにされるのは心からごめんなんだが……。
一緒に行動することになった普通科の生徒は男女の二人で、さっきまで手を繋いでいたのを俺は見ていたため、もしかしたら二人は恋人同士ではないかと予想した。
「大丈夫だから」
「うん……」
男子が励ますように女子に声を掛けており、その声に勇気をもらえたかのように女子は笑顔を浮かべたのでどうやら俺の予想は当たったようだ。
本来ならこういった行動をする時は自己紹介から入るはずなのに、普通科の二人を置いて彼らは先に歩いて行ってしまった。
「ったく……あぁなんだ。俺は時岡瀬奈、よろしく頼む」
「あ……うん。
「……
「お、俺と名前が一文字違いか。奇遇だな!」
「……………」
うん、やっぱり俺に対する印象も最悪のようだ。
「えっと、ごめんね時岡君。というか僕も少しびっくりしてる……君も彼らと同じじゃないかって思ってたから」
「まあ気持ちは分かる。取り敢えずはとっとと済ませちまおうぜ。そうすりゃ安心出来るだろうからな」
「うん」
俺たちは遅れる形で歩いて行くのだが、改めて三人組の先頭に立つ男を見た。
奴は
「おい普通科! お前らちょっと前に行ってみろよ。それで魔物が居るかどうかを俺たちに知らせるんだ」
「え? でも……」
「大丈夫だ。俺が付いていく」
千葉たちから無茶な要求が真田と新庄に向けられる中、俺は弓を構えてとにかく彼らの傍に居た。
今居る場所はCランク相当のダンジョンなので、別にどんな魔物が出て来ようが対応は可能だ……ただ、こうして俺が彼らの安全を全面的に確保しているのが気に入らないのか千葉たちはずっと睨んできてるけど。
「……アンタ、優しいんだね」
「やっと口を利いたな。優しいとかそういうんじゃない、これが人として普通だろ」
新庄がやっと口を利いてくれたが、初めての会話にしては悲しいものだった。
今回のダンジョンの探索について彼らも感想などをレポートに纏めるはずだが、こんなの俺が彼らの立場だったら絶対に文句ばっかり書いて提出してやるぞ。
「あ、あれは……?」
順調に奥に進んでいく中、真田がある物に気付いた。
俺もそれに気付いたので、絶対にあれには触れるんじゃないと言おうとしたその時だった――あの馬鹿が、千葉がやらかしやがったのだ。
「泣き喚きもしねえ生意気なカスがよ。ほら、行ってこいやああああああ!!」
「な、何を……うわあああああああああっ!?」
千葉が真田を力任せに投げ飛ばしたのだ。
彼が飛ばされた先にあるのはダンジョンのトラップ部屋で、彼の体が入った瞬間に扉は閉まってしまった。
「おい、何やってやがる!?」
「うるせえよCランクの雑魚が。おら、帰るぞお前ら」
「う~い」
「あいよ~」
流石に俺も怒鳴ったが、千葉たちは意に介することなく歩いて行く。
新庄はずっと呆然としているが、そんな彼女に千葉はこう伝えた。
「諦めろよ。トラップはどの階層にも限らず、内側からしか解除できねえ。つまり、あの扉が開く時は奴が死んだ時だ……くくっ!」
「……え?」
「上に出てチクったって意味はねえぜ? 証拠はねえし、何より俺の親父は元Aランク探索者だ。逆にこっちが罪状を叩きつけてやるぜ?」
そう言い残して千葉たちは姿を消した。
「嘘……卓也……卓也!!」
ドンドンと力強く扉を叩くが、当然扉はビクともせず開くことはない。
先ほど千葉が言ったようにダンジョンのトラップは内側からしか解除は出来ず、中に閉じ込められた場合力なき者は死が約束されたようなものだ。
俺は扉に縋りついた新庄の元に近づき言葉を掛けた。
「大丈夫だ。まだ真田は生きている」
「え?」
「このトラップは中に入り込むと一分ほどの猶予があってな。所謂、覚悟を決める時間ってやつだ。俺も何度か自分で突っ込んで確認したから間違いない」
「……え?」
そう、俺は自分の研鑽の為に何度か自らトラップを踏んだこともあったので、このトラップはこういうものだという確信があった。
そしてもう一つ、内側からしか解除できないのも本当で、外からどんな力を加えようと中に入ることも出来ない……普通なら。
「新庄、お前や真田にとって探索者の持つスキルとかは馴染みがないだろうけど今から見ることは黙っといてくれや」
俺は扉の前に立ち、スキルを発動させた。
【無双の一刀】発動
俺の目の前に魔法陣が現れ、その中から一本の刀が姿を現す。
その刀は淡い光を纏いながらも、全てを断ち切るという意志を持っているかのように底冷えする威圧感も兼ね備えている。
「なにそれ……っ」
「刀なのに怖いだろ? まあそれが普通だ。これはこういうものだからな」
この刀の名前はないが、無双の一刀のスキルを発現した時にこいつは俺の元に現れた。
俺は刀を手に居合の構えを取り、そして一気に薙ぐ。
その瞬間、まるで次元すらも切断するかの如く閃光が走った。
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