妹との語らい、そして普通科との交流
探索科の生徒たちは基本的に放課後はダンジョンに赴き、今よりももっと上に行きたいと研鑽を積むのだがそれは俺も同じではある。
しかし、だからといって毎日毎日ダンジョンに向かうわけではなかった。
「……?」
ダンジョンに向かわず、ボーっと寮で過ごしているとスマホが震えた。
手に取って着信相手の名前を見るとそこには“雪”と名前が出ており、俺はやれやれと笑って電話に出た。
「もしもし?」
『もしもし、兄さん?』
電話の相手は時岡
探索科でも有名なこの高校に通うにあたり、地元から出てきたせいもあって雪と会うこともあまりなく、それを寂しいと思ってくれているのかよくこうして電話をくれるのだ。
『無理していない? あぁでも、声で大丈夫って分かるかな』
「無理なんかしてないって。お前と母さんを悲しませるようなことはしないさ」
『そんなことを言って……でも、ごめんね兄さん。あのことについて言おうとしちゃった』
「構わないさ。確かに頑張り過ぎたから」
「……ふふ」
「はは」
そうだ、そうやって笑ってくれればいい。
それから俺たちは時間を忘れるようにして、普段会えない兄妹としての時間を取り戻していく。
そうはいっても長期休暇……夏休みだけだが数日なら会えるんだけどな。
「母さんは元気にしてるか?」
『うん。今日はまだお仕事から帰ってないけど、兄さんの仕送りもあって私も母さんも本当に楽をさせてもらってるよ……正直、申し訳ないくらいに』
それは……まあ気持ちは分かる。
ダンジョンでの素材を換金するとかなり良いお金になってくれるので、それは父親の居ないうちにとっても良い収入源だ。
それこそ母さんが働く必要がないほどにお金は送っているのだが、流石に働かなくなったら人生の終わりだとか言って農家の仕事をしている。
「申し訳ないとか思うんじゃねえよ。ずっと動けなかった分、元気になった体で今を思う存分楽しめ。お前が元気で居てくれるのが兄貴として一番のご褒美だからな」
『兄さん……うん、ありがとう』
その後、簡単に互いの近況を話した後に通話は終わった。
「……ほんと、元気になったもんだよな」
俺は机に置かれた家族写真を見つめながら呟く。
元々、雪は身体が弱く長く生きられないとされていたが、今となっては病気も完全に治って丈夫な体になった。
これもそれもスキルがここまで強くなってくれたからこそ、Sランク相当のダンジョンの更に奥まで行ける強さを手に入れることが出来たからこそだ。
「万能の霊薬……ほんと、ダンジョンって何でもありなんだから凄いよな」
万能の霊薬、それはSランクの探索者が潜れる下層で取れるアイテムだ。
その名の通りどんな傷も、どんな病気も治すことが出来る究極の薬で、国に申請して使うことも出来るが……その万能性ゆえに金額はアホみたいに掛かる。
しかもそれは俺が今まで稼いだ金でも届かないほどなので、そうなると自分で取りに行かないとなってなるわけだ。
「剣術はともかくとして、剣聖と無双の一刀のスキルには本当に助けられた。マジで俺の元に発現してくれてありがたい限りだよ」
ま、色々あったけどそのおかげで妹の病気は治ってめでたしめでたし、それが俺の家族に関するエピソードってやつだ。
「さてと、今日は適当に飯作って寝るとするか」
しっかし、こうして寮で生活しているとつくづく思うことがある。
実家に置いてきた据え置きのゲーム機とか、いくつか持ってくれば良かったなと。
▼▽
故意に本来の実力を隠し、自分でもビックリするほどに弓の扱いが上手になっていく今日この頃……それは突然だった。
「明日、普通科の生徒との交流を目的とし共にダンジョンに入ることになった。良いか、力なき者を守るのが諸君らの務めだ。くれぐれもそのつもりで居るのだぞ」
数ヶ月に一度あるかないかの普通科に在籍する生徒との交流イベントだ。
探索科と普通科の生徒で確執が少なからずあり、一緒にしても必ず何か事件が起こるのは分かり切っているというのに……それでもこんなアホみたいなイベントが計画されるのには理由がある。
「なあなあ、これって絶対あの先生の発案だよなぁ?」
今日は偶然傍に座っていた真一がそう言ってきたので俺は頷いた。
あの教師……名前は
この学校には皇を始めとしてSランクが三人居るのでそこまでの影響力はないのだが、コネなどが色々あってかなり融通が利くようだ。
「選民思想が強いからなあの先生は」
「だな……ったく、俺たちはそうでもないけど普通科の生徒からしたらたまったもんじゃねえな」
先ほど、尤もらしいことを言っていたがその根底にあるのは何も力を持たない普通科生徒に対する見せつけ行為に他ならない。
探索科のほとんどの生徒が傲慢な性格であることを分かっており、その親分が自分とでも思っているのだろうあの毒島って教師は。
「ま、なるようにしかならんよな」
生徒である以上は教師の決定には従わざるを得ない……それも、Aランクのあの先生が見下すCランクの俺たちはな。
とはいえ、そうそう何度も問題が起こるわけではないのでそこまで深く考えることはなかったのだが……まさか、探索科の中でも一際他者を見下すカスがメンバーになるとは予想できなかったんだよこれが。
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