それは断罪? そんな過激なモノじゃないさ

 探索者ランクというのは絶対だ。

 それは不正やインチキで高いランクを取れるものではなく、厳正なる審査の元で国から与えられる絶対の称号だ。


(ま、俺の場合は少々特殊だが……)


 【秘匿】スキルを使って俺は誤魔化しているわけだが、おそらく本来のランクよりも下にしているからこそバレないんだろう。

 基本的にランクが示す地位というのは誰にも大事なモノ、だからこそ下に誤魔化す人は居ないのでその点においても俺が異端というわけだ。


「真一……」

「……くそ……くそっ!」


 高手に位置する俺の視線の先で涙を流す友人の姿がある。

 その友人を泣かせたのは別クラスに所属するAランク探索者の二人組……悔しいことだが、これがこの世界の負の側面だと言える。

 弱い者は強い者に従う、それはある程度の悪事さえも塗り潰せるほどに醜悪なものだった。


「ま、分からないでもないがな。力ある者と力なき者、どちらの言葉が重く大切とされる存在なのか分かり切っている」


 俺は弓を構え、向ける先は友人から剣を奪い取った二人の探索者だ。

 ちなみに、ダンジョン外での私闘は特別な理由を除いて禁止されているのだが、バレなければ問題はないの精神だ今に限ってはな。


「さ~てと、さっき以来の新スキルのお披露目だ。何が起きたのか理解も出来ずに恥を掻きなクソッタレ共が」


 ちょうどいい具合にギャラリーもそれなりに多いからな。


「しっ!」


 小さく掛け声を口にすると共に魔力の矢を放つ。

 その数は全部で六発、それぞれ三発ずつを二人に向けて放った。


「? なんだ?」

「っ……何か来る!」


 流石Aランク、自らに対する敵意には敏感か……だが、今気づいた時点で既に遅いってな。


【魔弓】発動


 先ほど習得したばかりのスキルを使い、矢の軌道を縦横無尽に操る。

 さっきは一発の操作、一度に六発の操作は今回がぶっつけ本番だが、俺は空間把握能力に関してもそれなりに出来る方だったらしい。

 こう動けと念じるだけで六本の矢はそれぞれ軌道を変えながら、彼らに対応する間もなくその服を切り刻んでいく。


「はい。いっちょ上がり」


 数秒後、着ていた服がボロボロになってほぼ全裸になった二人が居た。

 彼らはAランクという周りに威張り散らせる立場の人間だが、流石にそれなりにギャラリーが周りに多い中での全裸は恥ずかしかったようだ。


「な、なんだこれええええっ!?」

「うわああああああああっ!?」


 二人組は奪った剣を捨て去るようにして走り去っていた。

 粗末なモノをブンブンと振り回しながらの逃走に、目を背ける者も居れば腹を抱えて大爆笑する者も居て……中には高ランクから嫌がらせを含め、何かをされたことに対してスカッとした様子の人も見受けられた。


「ふっ、良いことをするのは気分が良いねぇ」


 ちゃんと剣を回収した友人たちに満足し、俺はすぐに寮に帰るのだった。


▼▽


 そして翌日のこと、俺の前にはあの友人二人が居た。


「なあ瀬奈……お前だよな? 昨日助けてくれたのって」

「何の話だ?」


 正直ドキッとしたのは確かだが、俺はあくまで初耳だと態度を崩さない。

 俺の前に立つ二人、藤堂とうどう真一しんいち村上むらかみ芳樹よしきは苦笑した。


「その……まさかとは思ったけどさ。それでも一緒に冒険した奴の攻撃を間違えはしないって。あの動きにはビックリしたけど、青い軌道の矢は瀬奈のだからな」

「……………」

「って、実はあてずっぽうだったけど当たってたなその様子だと」


 こいつら……カマを掛けやがったな。

 俺は少し睨んだ後、はぁっとため息を吐いてその通りだと頷いた。


「ちょうど帰りに嫌なモノを見たからな。それに、新しいスキルが役に立って良かったよ」

「そうか。やっぱり瀬奈だったか」

「ありがとう瀬奈」

「良いってことよ。以前にパーティに誘ってくれたお礼だ」


 しかし……矢の軌道でそう考えが行き着いたのは少し意外だった。

 青い矢の軌道が綺麗だってことで気に入っているわけだけど、まさかそれが気付かれる要因になるとはなぁ。


「でも凄いな瀬奈は。相手はAランク探索者二人だぜ?」

「一つ下のBランクですら互角に持ち込むのが難しいって話なのに……」

「まあ不意打ちの攻撃だったからな。それに狙いは奴らの服だったし……くくっ、それにしてもスカッとしたぜ俺は」


 悪役のような笑みと共にそう告げると二人もアレは笑ったとお礼を言ってくれた。

 このことはもちろん他言無用なのは当然だが、どうもあの二人は今日学校に来た段階で不名誉なあだ名が広まっているらしい。


「全裸ブラブラ小僧なんて言われてたぜ?」

「あれだけの人が見てたらなぁ」


 それはちょっと悪いことをしちまったかな、全然罪悪感の欠片もないけど。

 その後、俺は二人に声を掛けてからトイレに行くことに。


「おっと」

「あら、ごめんなさい」


 教室を出る際に皇とぶつかりそうになったが、お互いに戦いの場でなくともこう言った時に察知能力が働くのか互いに避けた。

 彼女の横を抜けて歩いていく途中、何やら視線を感じて振り向いた。


「……え?」


 するとあいつが、皇がジッとこちらを見ていたのだ。

 しばらく見つめ合ったが何も言うことはなかったのか、すぐに皇は視線を逸らして教室に入って行った。


「なんだ?」


 特に目立つことはしていないし、皇とは今まで接したことは一度もない。

 だからこそ今の視線は少し気になったが、俺は急いでトイレに向かうのだった。

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