早速新たなスキルを習得していく

「なあなあ、今日はどこまで潜る?」

「そうだなぁ。今日は限界まで潜っちゃうかぁ!」

「今日は昨日よりも奥に行きたいわね!」

「そうねぇ。頑張りましょう!!」


 周りはみんなダンジョンのことばかりだなと、俺は教室の置物になりながら見つめていた。

 俺たちが通う学校は探索者として生きることを目指す連中が集まる高校で、もっと強く、もっと上の存在へと成長したい、そんな野心を持った連中の集まりだ。

 もちろん探索科だけでなく、所謂普通科も存在しているので、将来は探索者を目指すつもりがない人たちも通っている。


(だというのに……一部の連中は過激だからなぁ)


 今や日本で……いや、全世界で探索者ブームが巻き起こっており、素質を持った者はみんな探索者として開花するのだが、そうでない普通の人たちを特別な力を持たない弱者として差別、或いは下に見る連中が本当に多い。


「そういやよ。今日普通科の連中のところに行ったらみんな怖がってやんの。気分が良いもんだぜ。やっぱり弱者は強者に縋る生き物だよなぁ!」

「へへっ、その通りだぜ龍ちゃん!」

「龍ちゃん最強!!」


 クソほどどうでも良く、そしてクソほど下らないことで盛り上がる一団が目に付いたが……まあああいうのが多いのである。

 その中心でデカい態度をしているのは大柄おおがら龍騎りゅうき、このクラスのガキ大将みたいなやつだ。


(弱者は強者に……か。Cランクとそれ以下の中でしかイキれないのはどうなんだって思うけど、普通の人間より力があるのは確かだからな)


 逆にあいつもCランクより上の連中が集まる傍では大人しくしているし、まああいつも身の程はしっかりと弁えているというわけだ。


(探索者ランクが上がれば学校での地位も上がっていく。みんなが目指すのは当然Sランクだけど、一つ上に上がるだけでも大変みたいだからな)


 うちの高校は都心ということもあって探索科に力を入れており、全国から指折りの実力者が集まるのはもちろんのこと、卒業してからも活躍し続ける人材を輩出し続けており、言ってしまえばこの高校の探索科は入学出来ただけでそれなりの名誉を与えられる。


「……ってまた事件か」


 なんてことを考えながらスマホで時事ニュースを見ていると、高ランク探索者による犯罪事件が目に入った。

 人知を超えた力を操れるということで、それを悪事に使う存在も当然居る。

 国が抱える高ランク探索者のおかげで大きな事件の近頃起きていないが、それでもこういったニュースは本当に良く目にしてしまう。


「こういうこともあって普通科の人には恐れられるんだろうなぁ……」


 仕方ないこととはいえ、中々に根深い問題だった。


「おっす瀬奈!」

「この間はありがとな!」


 クラスの連中が段々と増えてきた時、こうして声を掛けられることも増えた。

 彼らとは以前に一緒にダンジョンに潜ったことがあり、今の俺と同じCランクの同級生だ。

 決して無理はせず、自分たちの限界が感じたらすぐに戻るという理性的な面もあって、俺も弓でどこまでの戦いとアシストが出来るのかを確かめたかった時にパーティに誘われたのである。


「力になれたんなら幸いだ。パーティの空気も美味いしな」

「へへっ、そう言ってもらえるなら嬉しいぜ!」

「だな。瀬奈の弓の援護は本当に助かったし、それに前に出ても強いんだからよ」

「あんまし褒めんじゃないよ」

「こいつめ、照れてやがるぜ」

「ほれほれ照れてるのかぁ?」

「……うぜぇ」


 まあでも、これだけ親しみある対応をしてくれる級友というのは大切だよな。

 それから彼らと何気ない話に興じていると、とんでもない輝きを放つ一団がやってくるのだった。


「お、お姫様だぜ」

「……かぁ、良いよなぁあれ」


 入って来たのは昨日帰りに見たSランク探索者の皇とその取り巻き……皇は面倒そうというか、勝手にあいつらが引っ付いているだけみたいだが。

 Sランクの皇に付いて回る金魚の糞……は言い過ぎか、まあそれでも彼らもAランクではあるので実力はある方だ。


「いつか……俺たちもあんな所に行きたいな」

「だな」

「女の尻を追い回すのだけはやめろよ~?」


 そう忠告のように伝えると二人は一瞬目を丸くしたが、それは当然だろと苦笑していたので、本当に彼らは純粋に高みを目指そうとしているので好感が持てるのだ。


「ならさ、早速今日のダンジョン一緒に行かねえか?」

「何か用事とかあるのか?」

「……いや、今日はちょっと遠慮しとくわ。すまんな」


 実は今日も少し一人でダンジョンに潜りたい気分だった。

 申し訳ない気持ちでそう言うと、二人は嫌な顔をせずに頷いてくれて、また一緒に行こうと言ってくれた。


「……ったく、本当に良い友人が出来たもんだ」


 彼ら二人だけでなく、他のクラスに居る固定のパーティメンバーもみんな良い人たちで、間違いなくこの学校の中では清涼剤のような人たちだ。

 そんな人たちが全員なら争いなんて生まれずにみんな幸せになれそうなのに、そうもいかないのがこの世界……う~ん中々大変だなぁ。


「……しっかし、皇の奴マジで無表情だな」


 他所のクラスの連中までもが皇の傍に集まり、共にダンジョンに潜らないかと提案しているのだが、その全てに皇は断りを入れている。

 Sランクの探索者が居るだけでダンジョンの攻略はかなり楽になると言われるほどだし、国家戦力に数えられてもおかしくないほどとされているので、やはりみんなSランクの恩恵にはあやかりたいんだろう。


「皇の実家もかなりデカい家みたいだし、あわよくばと狙ってる奴も居そうだ」


 あんな風に多くの生徒に慕われ、切望され、そして多大なる信頼と憧れを一身に受ける彼女は何を思うのか……少なくとも、俺だったら年単位で胃潰瘍に悩まされそうなのは確かである。

 その後、学校での時間を適当に過ごし放課後がやってきた。

 俺はすぐに学校を出てダンジョンに向かい、昨日と同じところまで潜った。


「いきなり来やがったか」


 昨日と同じ、狼の魔物が俺を出迎えた。

 俺が今訪れている階層はBランク相当の冒険者が狩りをする場所なのだが、それでもソロが非推奨だとされるくらいにはレベルが高い。


「だが、俺の相手じゃないってな!!」


 魔力を矢の形に変換し、一気に放つ。

 一匹の狼が脳天を矢で貫かれた瞬間、他の狼が一斉に襲い掛かってくる。


【サーチ】発動


 辺り一帯の全てを探知することが出来るスキルを発動させ、目の前に居る狼以外の存在が居ないことを確認した。

 その間も狼は徒党を組んで襲い掛かってくるものの、俺はそれを身軽に回避していく。


「元々の武装は刀だからな。いくら弓が今の武装とはいえ、攻撃を近距離で回避することは慣れてんだ」


 刀での戦いがこういうところでも発揮されていた。

 基本的にパーティを組んだ時は後方からの援護、もちろん援護だけでなく敵を仕留める攻撃もするのだが、ソロの時は俺しか居ないためこうして攻撃を回避する術があるのも重要だ。

 弓などといった後方武装の探索者はソロでダンジョンに潜ることはないため、それもまた俺がある種特殊だと言える。


「ふぅ、いっちょ上がり」


 くるくると弓を回転させ決めポーズ……よし、決まったぜ。


「?」


 狼の群れを始末した時、俺のスマホがピコンと音を発した。

 戦いが終わった後に時々こうして音がなるのだが、これは自分の中に新しいスキルが生まれたことを教えてくれる合図だ。


「スキル……どれどれ」


 探索者として生きる中で、こうして新しい力が発現した瞬間のドキドキは何にも代えがたい瞬間だ。

 スマホを操作し、俺はすぐにスキルを確認した。


【魔弓】


「魔弓……また随分と中二心を震わせるものが出たな!」


 この時点でテンションマックスだった。

 内容を確認すると、一発の矢を放った後に五回まで自分の意志でその軌道を変化させることが出来るというものだ。

 しかもレベルの概念がないということはレアスキルであり、無双の一刀や剣聖と同じようなものだろうか。


「つまり……こういうことか。ちょうど獲物が来たし」


 視線の先に再び狼が五匹現れた。

 その狼がこちらに駆けだそうとした瞬間、まず俺は一匹の狼を矢を放って仕留めた後、こうかなと念じるように矢に命令を下す。

 すると、真っ直ぐに飛んでいた矢がカクンと角度を変えて別の狼を貫いた。


「なるほど……強くね?」


 その流れのまま、全ての狼が矢に貫かれて骸へと姿を変えた。


「……綺麗だな矢の軌道が」


 俺の矢は魔力にとって生み出されたものでその色は青色だ。

 青色に輝く矢が縦横無尽に動き回るということはつまり、その軌道もまた僅かに残光として残ることになる……本当に綺麗だった。


「良い収穫だったな。よし、帰るか」


 それから狼の素材を簡単に纏め、俺は出口に繋がる転移陣を潜るのだった。

 しかし……その帰りに嫌なモノを見てしまった。


「おいおいお前ら、Cランクの分際で良いモノ持ってんじゃねえか。寄こせよ」

「だ、ダメだこれは! これはさっきやっと買った剣なんだ!」

「あ? 口答えすんのかよゴミが」

「ぐふっ!?」

「真一!!」


 ダンジョンの入り口のすぐ近くで、探索者同士にいざこざがあったのだ。

 しかも、絡まれているCランクの探索者は以前に俺が加わったパーティで……今朝俺に声を掛けてくれた彼らが所属するパーティだった。

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