第3話 ゴールイン

 時は過ぎ、四年生の十二月。僕は無事就職先が決まった。希望していたバスケットボールのクラブチームを運営する会社だ。僕はユキに連絡した。


 「就職決まったよ!」


 「おめでとう!お祝いしなきゃね」


 「えっ!そんな。いいよ、何か恥ずかしいから」


 「いいじゃん!お祝いさせてよ!」


 僕はその週の土曜日に会う約束をした。


 そして土曜日。僕はユキの住む隣町へ向かった。ユキとは駅で待ち合わせ。僕は駅でユキを待った。


 待っていると一人の女性が手を振って僕の元へ駆け寄った。


 「ケイスケくん!」


 ユキだ。その表情には笑顔が見えた。就職活動でなかなか会えなかったため、この日が久しぶりの再会となった。僕は少し緊張した。


 「おめでとう!就職」


 「ありがとう!ユキちゃんのアドバイスもあって内定貰えたよ」


 「そんな!ケイスケくんの思いが伝わったからだよ」


 「ユキちゃんが後押ししてくれたんだよ!ユキちゃんほんとにありがとう!」


 しばらく言葉を交わし、歩き始めた。


 僕達は寿司屋へ入った。この日はユキが僕の就職を祝ってご馳走してくれた。


 「好きなだけ食べなよ?」


 「いただきます!」


 僕は回っている皿をどんどん取った。気付くと十五皿を超えていた。


 「こんなに食べちゃった…。いつの間に…」


 「まだまだ食べられるんじゃない?」


 「食べられるけど。このくらいにしておくよ!」


 ユキは「フフッ」と笑みを見せた。お茶を飲み、ユキが話した。


 「就職決まったからあとは卒業だね。単位は足りてるんだもんね」


 「あとは卒論とかを取れば卒業できるよ」


 「ちゃんと取るんだよ?」


 「大丈夫だよ!」


 「卒論のテーマは決めたの?」


 「うーん…。スポーツと…」


 「スポーツと?」


 「後で考える!」


 僕は笑顔でそう返した。お茶を飲む僕の横顔をユキはやさしい表情で見つめていた。


 寿司屋を出て二人で道を歩いた。


 「ユキちゃん、ご馳走様!食べ過ぎて出費増やしちゃったけど…」


 「いいよ!ケイスケくんが喜んでくれるなら!」


 「就職したら今度は俺が何がご馳走するね!」


 「あはは!ほんとに?じゃあ、楽しみに待ってるね!」


二人で笑いを交え会話をした。


 「四月から一人暮らしするの?」


 「うん。会社の近くのマンションでね。今から楽しみと不安でいっぱいだよ」


 「すぐ慣れるよ!」


 「まずは、仕事を覚えないと…」


 「頑張るんだよ?」


 「うん!」


 卒業したら社会人。そして…。


 「ちゃんと迎えに行くからね…」


 僕は小さい声で呟いた。ユキは聞こえていたようだがあえて聞こえないふりをしていた。微笑みながら前を向いて歩いた。


 (まずは卒業しないとな…。よし!)


 雪がちらつく街中を二人で歩いた。


 四月。僕は社会人としてのスタートを切った。僕は会社が運営するスポーツスクールのコーチ部門に配属された。研修を受け、本格的に業務を開始した。最初は覚えることが多いが、慣れてくればスムーズにこなせるだろう。会社、クラブチーム、スクールの子ども達、僕自身のために。そして…。


 「ユキちゃん!迎えに来たよ」


 「待ってたよ」


 ユキのために。


 「ユキちゃん!ごめんね、遅れちゃった!」


 「いいよ!今来たばかりだから」


 「じゃ、行こう!」


 「うん!今日はどこへ連れてってくれるのかな?」


 「今日はね…」


 ユキとの交際が始まり、楽しい時間を過ごしている。


 「仕事はいい感じ?」


 「うん。大変だけどね。でも、やりがいはすごくあるよ。俺の指導でスクールの子達がどんどん上達していく姿を見てると、この仕事に就いてよかったって思う!」


 満面の笑みでそう話す僕の姿を笑顔で見つめていた。


 「そういえば、下部組織ってあるんだよね?」


 「うん」


 「じゃあ、もしかしたらいずれは下部組織のコーチをするかもね。ライセンス取って」


 「難しいんだよ?ライセンス取るの…」


 「経験積んで挑戦してもいいんじゃない?ダメで元々の気持ちで。もしかしたら取れるかもしれないし」


 「うーん…。機会があれば挑戦してみようかな…」


 「その意気!」


 将来のもう一つの目標が見つかった。


 一つ目の目標はいつ達成できるだろうか。


 僕はユキの両親に認めてもらえるほどの男になれただろうか。


 交際を重ね、いつの間にかユキに頼られる男になることができた。そして…。


 「ユキちゃん、俺がこれからも幸せにするから!俺と死ぬまで一緒にいて!」


 「はい…。よろしくお願いします」


 僕の不器用なプロポーズを嬉しそうに涙を流し、受け入れてくれた。


 プロポーズから数年後。


 僕はユキの実家へ挨拶に訪れた。


 「幸せにしてやってくれよ。ケイスケくん!」


 僕はユキと入籍した。


 守るべきものができ、気が引き締まった。


 (絶対幸せにするからね、ユキ!)



 結婚してからしばらく経ったある日。


 「はい、お父さん」


 「ありがとう。行ってくるね」


 「行ってらしゃい!」


 ユキが作ってくれたお弁当を片手にドアを開け、外に出た。そして、僕は表札を見た。


 (夢じゃないんだよな…)


 表札に手を置き、幸せを噛み締めていた。


 (今日も頑張るぞ!)


 そう意気込み、職場の体育館へ向かう僕の後姿をユキが笑顔で見つめていた。

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