第2話 とある土曜日
土曜日。僕は自宅で過ごしていた。この日は予定がなかった。何をしようか考えていると、インターホンが鳴った。
「あら、ユキちゃん。ケイスケなら二階にいるよ」
母のその声で僕は部屋から出た。階段を降りるとユキの声が聞こえた。
「ケイスケくん!」
ユキは笑顔で手を振った。右手には袋を持っていた。手作りのお菓子を持ってきてくれた。
「ユキちゃん、ありがとう!」
「結構自信があるんだ。気に入ってもらえるといいな」
しばらくユキと談笑した。この日は車でここまで来たそうだ。そして、ユキがこう続けた。
「今日って予定ある?」
「今日は何も予定がなくて暇なんだ」
「じゃあさ、これから遊びに行かない?」
「いいよ!じゃあ、準備してくるね!」
僕は部屋で出掛ける準備をした。同時に少し緊張していた。
(二人で出掛けるなんて初めてだから空回りしちゃうかも…)
そんな心配をしているうちに準備が終わった。部屋を出て、玄関で靴を履いた。
ドアを開けるとユキが実家を見ていた。どうやら両親の姿が見えたようだ。手を振り、両親の元へ歩み寄り、言葉を交わしていた。
僕が玄関先に立った姿を見てユキは手を振って両親と別れた。
「ごめんね!話し込んじゃった」
「何話してたの?」
「結婚について…。かな」
「何て言ってたの?」
「ふふ…。秘密…」
ユキは笑みを浮かべてそう話した。ユキの両親は僕との交際をどう思うだろうか。まだ先のことだがそんなことを考えていた。
ユキの車の助手席に乗り、シートベルトを締めた。それに続くようにユキが運転席に乗った。
「土日はお休みだからね。こうしてケイスケくんと遊びに行けるんだ。週末のために仕事頑張ってるもんだよ」
「今日は遊びに誘うために来てくれたの?」
「まあ、一番の理由はお菓子を渡すためかな。食べてほしかったし。お邪魔したらケイスケくんがいたから遊びに誘ったってところかな」
「家にいてよかった」
そう言うと、ユキは微笑んだ。
シートベルトを締め、エンジンをかけた。後方確認などをし、車が発車した。
車内には僕の好きな音楽が流れた。
「ケイスケくん、あいちゃんの曲好きだもんね」
「覚えててくれたんだ」
「もちろん!」
僕は嬉しくなった。僕の好きなものを覚えててくれたのだから。
僕達は車内で会話をした。
「こうして二人で出掛けることができる日が来るなんて思わなかったな」
「夢みたいだよ。ユキちゃんと二人で遊びに行けるなんて」
「ほんと!」
夢みたいな現実を噛み締めながら、ユキとの会話を楽しんだ。
車はバイパスを走る。交通量が多く、少し渋滞していた。しかしそれは一時的で、すぐに解消され、スムーズに車が動いた。どこへ向かうのだろうか。
「どこまで行くの?」
「特に決めずにドライブしない?途中でご飯食べたりして」
「そういうのもいいね!」
「そうでしょ?」
僕は窓の外を眺めていた。夫婦が乗車している乗用車、配送トラック、乗客を乗せた観光バス。多くの車が行き交っていた。ユキは流れる音楽を口ずさみながら楽しそうに運転している。すると、ユキは何かを思い出したように口を開いた。
「そういえばケイスケくんは今年から就職活動か」
「もう来ちゃったか…」
「職種は決めてるの?」
「バスケのクラブチームを運営している会社があるんだよ。その会社に入りたくて」
「指導者になるんだ」
「うん!」
小学生からバスケットボールをしており、将来はバスケットボールに携わる仕事に就きたいと考えていた。部活動で後輩を指導する中で指導者を志すようになった。
「そうか…。バスケしてるんだよね。私も応援に行ったなあ…。懐かしいな、ケイスケくんのお父さん、お母さんと一緒に応援して…」
「応援のおかげでベストエイトに入れたよ。ほんとにありがとう!」
「ケイスケくん達の練習の成果だよ」
ユキは微笑みながらそう話した。
お昼になり、僕達はステーキショップに入った。食事を終え、ユキが呟いた。
「就職活動始まったらしばらく会えなくなっちゃうな…」
寂しそうな表情で少し俯いた。
「就職決まったら会いに行くから待っててよ」
「絶対来てよ?」
就職活動終了後に会う約束をした。
再び車に乗り、ドライブをした。買い物などをし、楽しい時間を過ごした。
夜七時前。僕の自宅に到着した。僕とユキは車から降り、石団の前に立った。
「今日はありがとう、ユキちゃん。ドライブに連れてってくれて。楽しかったよ!」
「こちらこそ、ありがとう!私の突然の誘いに付き合ってくれて」
これから本格的に就職活動が始まり、しばらくユキとは会えなくなる。僕はその寂しさもあってか、なかなか家に入らなかった。
「じゃあ、就職活動頑張るんだよ?決まったら教えてね。そして…、ちゃんと迎えに来てね…」
少し照れた様子でユキが話した。だが、どこか寂しそうでもあった。僕はなおさら家に入れなかった。
だが、いつまでもこうしているわけにはいかない。僕は寂しい気持ちを抑え、ユキを見送ることを決めた。
「うん」と返すと、ユキは車に乗った。そして、エンジンをかけ助手席の窓を開けた。
「約束だよ!」
そう言い、アクセルを踏んだ。
ユキの運転する車が見えなくなるまで見送り、家に入った。
(約束するよ!)
ユキとはしばらくお別れだが、また会える。その日を楽しみに就職活動を頑張ることを決意した。
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