隣に住んでいた年上のお姉さん

Wildvogel

第1話 告白後

 「ちゃんと迎えに来てよ?」


 「約束する」


 僕は大学を卒業したらユキを迎えに行くことを決めた。居間に戻ると両親が座りながら僕達を待っていた。すると、母が僕に尋ねた。


 「何お話ししてたの?」


 「昔の思い出を話してた」


 ユキに告白したなんて言えるはずがない。


 その後、四人で談笑した。時折、僕はユキの横顔を見た。その横顔はきれいだった。


 七時前になり、ユキは帰宅の準備をした。僕はユキに尋ねた。


 「ユキちゃんって今、一人暮らししてるの?」


 「うん。隣町でね。電車で数分だからいつでも会えるよ」


 「家の隣にいないの寂しいな…」


 寂しそうな僕の表情を見て、ユキが微笑みながら話した。


 「数年後、私の隣にいてくれるんでしょ?恋人として…」


 僕は少し間を置いて「うん」と返した。


 ユキは僕の頭に手を置いた。


 「待ってるね!」


 ユキは両親に挨拶をし、ドアを開けた。ユキは振り返り、笑顔で僕を見つめた。


 「絶対、迎えに来てね…」


 そう言い残し、ドアを閉めた。


 (待っててね…。絶対迎えに行くから…)


 ユキを見送り、自分の部屋に入った。椅子に座った瞬間、ほっとした気持ちになった。


 (好意、伝えることができてよかった。ずっと言いたかったけど受け入れてもらえないと思って言えなかったから。でも、こうして受け入れてもらえて…)


 胸に手を当てると、鼓動が早くなっているのが分かった。緊張したのだろうか。


 「はあ…」


 何かから解放されたような気持になった。


 (ユキちゃん、きれいだったな…。あんなにきれいな人と…。絶対幸せにするからね)


 「ご飯だよ」


 母の声で居間に行き、夕食を食べた。すると、母が僕の様子を見て尋ねた。


 「顔赤いよ?熱でもあるの?」


 「えっ…、ほんと?」


 僕は額に手をつけた。だが、熱はないようだ。


 「まあ、熱がないならいいんだけどね。それにしてもユキちゃん、相変わらずきれいだったね、お父さん」


 「ああ。将来結婚する旦那が羨ましいよ。泣かせたら俺が許さん!」


 「もう!お父さんったら」


 (泣かせたらお父さんに怒られる…。絶対幸せにしないと!)


 そう心に決めた。


 食べ終えると、母がユキ手作りのケーキをテーブルに置いてくれた。本当に美味しそうだ。


 「料理上手だし、優しいし、面倒見いいし。男性がほっとくわけないわよね」


 「そうだな。誰なんだろうな。幸せになる男は」


 両親の会話を耳に挟みながらショートケーキを食べた。


 (美味しい…!)


 食事後、僕は外へ出た。そして、隣のユキの実家を見た。僕は自然と寂しい表情になっていた。


 (ユキちゃんが隣の家にいないのほんとに寂しいんだよ…?)


 また会えるのは分かっているが、会えない期間は寂しいもの。


 僕は少し俯きながら中に入り、自分の部屋へ向かった。


 机に置いてある携帯電話を手にし、連絡帳を開いた。そこにはユキの連絡先が保存されている。帰り際、ユキに連絡先を聞いていた。


 (連絡できるから寂しさは多少解消されるけど…。でも、会えないとなると…)


 しばらく画面を見つめ「ふっ」とため息をつき、携帯電話を机に置いた。


 (次はいつ会えるかな…)


 近いうちの再会を願った。


 この晩、深夜一時過ぎまで眠れなかった。


 翌朝。まだ眠気が残る中、目をこすりながら起きた。カーテンを開けると、青空が広がっていた。僕はしばらく空を眺めていた。


 (何かいいこと起きそう…。頑張ろ!)


 着替え、居間で朝食を済ませた。


 この日は朝から大学の講義がある。鞄を片手に、大学へ向かった。


 駅に着き、電車を待った。通勤ラッシュの時間帯。多くの人が駅で並んでいた。


 二分後に電車が到着し、乗り込んだ。すでに満員状態だった。


 電車に揺られること八分。三つ後の駅に到着した。すると、ホームに見覚えのある女性が立っていた。


 (あれ…。もしかして…)


 ドアが開き、多くの乗客が車両に乗り込んだ。その中にその女性もいた。


 だが、目が合うことはなく、再び電車は動き出した。


 それからおよそ三〇分後。終点に到着した。満員の車内から一気に乗客が降りた。僕は降りるまでに少し時間がかかった。すると、誰かが僕のことを見ている気配がした。誰だろうか。僕は車内を見渡しながら電車を降りた。


 すると、僕に続けて一人の女性が降りた。そして、僕に声を掛けた。


 「ケイスケくん?」


 後ろから声が聞こえた。聞き覚えのある声。振り向くと女性が少し心配そうな表情で見つめていた。


 だが、僕と目が合うと、自然と笑顔になった。


 「やっぱり、ケイスケくんだ!」


 ユキだった。ベージュのワンピースを着ていた。とても大人の雰囲気だった。


 「ユキちゃん。電車で通勤してるんだ」「うん。会社に駐車場がなくてね。いつもあの時間に乗ってるんだ。ケイスケくんはこれから講義なの?」「うん。夕方まで」


 改札口に向かいながらユキと話した。


 ユキはスポーツ用品メーカーのOLとして働いている。オフィスは駅の近くにあるという。僕が通う大学は駅から少し歩いた場所にある。


 「ユキちゃんってあの会社で働いてたんだ」


 「うん。スポーツに携わる仕事がしたくてね。インストラクターになることも考えたけど、ケイスケくんの傷の手当てをした時にケガから守るスポーツ器具を作る仕事がしたいと思って」


 現在、ユキは商品開発に携わる部署に配属されているそうだ。


 しばらく話し、それぞれ職場、大学へ向かおうとした。だが、なかなか離れることができなかった。寂しくなるから。


 しばらく見つめ合い、ユキが口を開いた。


 「連絡…。ちょうだいね。待ってるから…」


 「うん…。連絡するよ」

 

 「じゃあ、勉強頑張るんだよ?」


 「うん。お仕事頑張って!」


 そう言ってお互い職場、大学へ向かった。


 お互いの表情には笑みがこぼれた。

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