グランドフィナーレ
ドン、ドドーン、パンパン。
最後の花火が上がると、パーク内にいたゲストが一斉に出口へと向かいだした。
「楽しかったね。ショウヘイお兄ちゃん、また来よう」
ソラはお土産をいっぱい抱えている。
ポップコーンのバケットに、大きなぬいぐるみ。カティアの両親からもらったお礼のお菓子。前も見えないくらいなのに、どうしても自分で持つと言ってきかない。
「あんまりドラゴンが出てこなかったのが残念だったけどね。チョイ役で豚みたいなのが現れた時は、テーマパークごと焼き尽くしてやろうかと思ったわ」
リーリアがふふんと鼻を鳴らした。
「ショウヘイ、ありがとう。先生に会わせてくれて。こんなことがあるなんて思ってもみなかった」
「それって、シルフィのスキルだろう。俺はただ、願っただけだぜ」
「実現させたのは私のスキルかもしれないが、願ってくれたのはショウヘイだ。それにどうせ、私だけではこのスキルは使えない。ショウヘイの……その、協力が必要だ」
シルフィが俺の手を自分の下腹部に触れさせた。
ドレスだから布地の下は見えない。だが、俺にそのことを想像させるのには十分だった。
「うっ、うわっ。ちょ……ちょっと待ってくれ」
ルルルル、ルルルル。
絶妙のタイミングでスマホが鳴った。
「ショウヘイ様、カティア様から着信です」
「あ、ああ。わかった」
俺はあわててスマホを耳に当てた。
そのうち連絡が来るとは思っていたが、予想よりも早い。
「……また、エッチなことを考えていたんでしょう。動揺してますよ」
「そ、そんなことあるか」
「ふふふ。まあ、そういうことにしておきましょう。私の方は、さっき家に帰ったところです。ショウヘイ殿はまだ、パークの中にいるようですね。入場したゲートに向けて、歩いている最中というところでしょうか」
「えっ、なんだ。なんでわかったんだ」
「音ですよ。スマホが他の客の声を拾っています。勝手に不思議がらないでください」
「あ、ああ。そうか」
「……さてと。子どもはそろそろ寝る時間です。その前に、少しだけラジョアと話がしたくて電話しました。代わってもらってもいいですか?」
「わかった」
俺はラジョアにスマホを渡した。
何気ないふりをして、こっそりと通話に聞き耳を立てる。マナー違反だとは思ったが、好奇心には勝てない。
「先生、ラジョアです」
「そんなに、かしこまらなくてもいいですよ。今の私は王国の主席魔法使いでも、あなたの師匠でもありません。ただの女子小学生です。なんなら私の方が、あなたを『お姉様』とでもお呼びしましょうか?」
「先生、冗談はやめてください」
「あなたからそのような言葉が聞けて、うれしく思います。自分にかけた長い呪縛も、ようやくとけてきたようですね。
ラジョア、姫様を守ってくれて……私のコピーを保存してくれて、本当にありがとう。そのためにどれだけの物を失っていたか。私だけは知っています。常に魔力を使い続けながら、気の遠くなるような長い間、私の人格を保存してくれた。呪いの言葉しか使わなかったのも、わざと他人との距離を作り、集中力を維持するためだったんですよね」
そうだったのか。
俺は今さらながらに理解した。
もともとラジョアは心優しい性格だ。シルフィには献身的だし、ソラの面倒もよくみてくれている。よく考えたら、これほど彼女に似合わない口癖はない。
ラジョアは答える代わりに、ヒックと喉を鳴らした。
スマホの明かりに、大粒の涙が照らされている。
「あなたはもう自由です。心を解放すれば、体の成長もまた、始まることでしょう。これからは自分のために生き、楽しみ、恋をしてください。……ただし、ショウヘイ殿はダメですよ。姫様が悲しみます」
「はい。先生」
「また、ゆっくりとお話ししましょう。おやすみなさい、ラジョア。奇跡の再会に感謝します。……切る前に、もう一度、ショウヘイ殿に代わってもらってもいいですか」
「はい」
俺の手にスマホが戻ってきた。
「……盗み聞きをしていましたね。わかっていますよ」
「え、えっと。ごめんなさい」
バレてた。
俺は素直に謝った。ゴマかそうとしても仕方ない。カティアに言い訳ははムダだ。
「今の話は姫様たちにはしないでください。自分たちのためにラジョアが犠牲なっていたことを知れば、姫様は必ず苦しむはずです。……それと、ラジョアには男性に対する免疫がありません。その点では姫様はポンコツですから。シャーリィか、委員長さんにでも話し相手になってもらうようにしてください。お願いしますよ。ラジョアには、どうしても幸せになってほしいのです」
「わかった。約束する」
「それではショウヘイ殿、おやすみなさい。奇跡の出会いに感謝します。……姫様たちにも『おやすみなさい』を言ってもいいですか?」
スマホがシルフィに、リーリアに、ソラにバトンされた。
みんなに同じ言葉をかけてから、カティアは通話を切った。本当はいくらでも話していたいところだったが、カティアは小学生だ。それに、これから委員長たちとも合流しないといけない。
「先生は異世界でもずっと見守ってくれてたんだな」
「今度は向こうの世界で、カティアちゃんを本物のドラゴンの背中に乗せてあげるわ」
「キセキって、何のこと? ソラも知ってること?」
ソラが真っすぐな目で聞いてきた。思わず、ホッコリとしてしまう。
「めったにない、すごい幸運のことだよ」
俺はふと、ラジョアが気になった。
彼女はまだ泣いていた。だが、もう震えてはいない。
「もちろん奇跡だ。でも、その中でも今日のことは、私にとっては特別だった。
先生がいなくなったあの日から、私はずっと夢に見てきた。心の中にいた先生と対話しながら、ようやく自分を支えてきた。先生が消えた時には、死んでしまおうかと思った。でも、この場所に来てよかった。ここに来なければ、先生には絶対に会えなかった」
「ここって、そんなに特別なところなの?」
ソラの質問に、俺はドヤ顔で答えた。
まあ、いいだろう。このシチュエーションなら、パクリは罪じゃない。
「そりゃあそうさ。ここは夢がかなう魔法の国なんだ」
【完】
偽装スキルで異世界最強?!【ステータス詐欺から始まる異世界無双 〜ハズレだと思っていた偽装スキルは、実はとんでもない壊れスキルでした〜】 千の風 @rekisizuki33
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