第4話 時空への旅は続く 〜異次元の交差〜

いくつかの時空を行き来して、旅を続ける。そう、私は今ここにいるが、時間の経過によっては、突然見知らぬ街にいて、呆然としている。しかし、必ず元の、いや、どこが元なのか分からないのだが、今いるこの世界に帰ってくる。もしかしたら、違う次元で生きる私は、やはりその世界に戻ると思っているのかもしれない。


 それはごく普通の何でもない夜のことだった。

 いつものように、自分の家の居間でテレビを観たり、お茶を飲んだり、母とたわいもないお喋りをしていた。いつものことだが、母と話をしている時間はとても楽しくて、時の経つのも忘れてしまう。この日も同じだった。

 やがて、夜も更けてきた。

「さて、もう寝なくちゃ、その前にやることがあるのだわ・・・。」

私は母にそう言って、重たい腰を上げた。

母は眠そうな目を私に向けながら、おやすみなさい、早く寝なさいねと言った。

私は自分の部屋に行こうと階段を降りた。


 現実の家、居間、階段。

 しかしいきなり異次元の時空に彷徨った。


 自分の部屋に入ると、やけに薄暗い。

あれ、おかしいわね。

 すぐに奇妙な気配の原因がわかった。天井から沢山の洋服がゆらゆらと揺れてぶら下がっているではないか。

その洋服は、どれも見覚えのない古着ばかりで私のものではない。


 電気のスイッチも見つけられず、私はどうしてこんなことになっているのか不思議に思いながら、それでも仕方なしに暗がりの中を進んで行った。

 誰かの悪戯にしては、あまりにも悪質極まりない。私を怖がらせようとしているのかしら・・・。


 それでも私は仕事で着たいと思ってる赤いワンピースを探さなくてはいけないと思っていた。異空間に入り込むと、少々不思議な現象も、受け入れてしまう。

 天井からの大量な服に邪魔されながらも、洋服をかき分け赤いワンピースを探していった。もちろんその赤いワンピースは友人からいただいたもので、現実に着ていたものだ。


 なかなか見つからずかなり苦労しながらワンピースを探した。

 しばらくすると、部屋の奥に赤い色がチラリと見えた。

ああ、ここにあったのかとそこに近づいていった。

天井からぶら下がった服のせいで、手探りで引っ張り出すしかなかった。


 私はその服の袖の部分をつかんだ。しかし、私のつかんだものは洋服の袖ではなかった。人の腕のような柔らかさと温もりも感じられた。

 どうして、私の部屋に誰かがいるの?

それも古着に隠れて、おまけに私のワンピースを勝手に着ているのかしら。いや、まさか、そんなことがあるはずないわね。洋服に何か挟まっているのでしょう。

 私はもう一度その赤いワンピースの袖を引っ張った。そして驚愕の出来事が!

 

 

 掴んだ腕は、私自身の生身の腕であったのだ。


 私とは全く違う人格の私自身は赤いワンピースを着て椅子に座り、とても怖ろしい不気味な顔で私を見上げ、私を嘲るように、真っ赤な口紅をつけた唇でにやりと笑ったのだ。

 私は掴んでいた腕を慌てて放した。腕はダランと垂れ下がった。


 私はあまりの恐ろしさに悲鳴をあげ、気を失った。私は意識を取り戻した後でも、恐ろしさで体ががたがたと震えていた。

 このことは誰にも話したことがない。

 

 全く違う人格の私自身との遭遇。一体何が起こっていたのか。

精神が分裂したのか、それとも、違う時空から彷徨った亡霊が、全てお見通しだよと私を嘲笑いに来たのか。

 何か意味があるのかもしれない。別人格の私が何かを伝えにきたのかと必死で考えた。


 その頃の私は、あれこれと悩んでいた。

あまりに優柔不断、二重人格のような生活をしていたのだ。

両親や友人への顔と自分自身の本当の姿。私は本当の自分の姿をわかっていた。

夢を追って生きていきたかったのだが、その当時はそんなことは出来ないことだと思っていたのだ。夢を追うことが怖かったのかもしれない。

 

 あの体験の後、もう一度しっかりと自分を見つめた。

 今は自分の夢を追って生きている。散々苦労はしているが、後悔したことは一度もない。この体験が私を変えたほどのものではないとは思う。でも、時々自分を見失いそうになると、あの時の真っ赤な口紅で笑っていた自分の顔を想い出す。

 

 あれほどの怖ろしい体験は今だかってない。

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