第8話殺意の達人④達人の敗北

『さて、スタートのゴングが鳴りました。坂上達人早くもメークインを蒸しています。挑戦者の小林ヤス代はまだ、材料の品定めをしています。時間的に間に合うのでしょうか?』


調理時間1時間内で4人前の、料理を作らなければならない。

黒井川はじっと、2人の対戦者の動きを見つめている。東京のスタジオにいながら、名古屋での爆発事故の捜査の進展を川崎巡査からLINEで鑑識の結果、坂上達人の自宅にある革靴のかかとのキズと、村上のガレージのかかとのキズ痕と一致していることが判明した。十分な証拠だ。


「えー、坂上達人は村上を爆発事故に見せ掛けて殺害しました。理由は3連敗だけはしたくない短絡的な理由です。『かまどの達人』の番組で評判になり、人気料理店に仕上げた坂上達人は番組を降板するわけにはいけなかった。今回の事件のポイントはナゼ彼は犯行に使用した革靴を処分しなかったのか?理由はCMの後で」


挑戦者小林ヤス代は5品プロの家庭料理を作り上げ、審査員の評価が高かった。


一方、達人坂上のじゃがいも料理を4品作り上げ、審査員のコメントも良かった。

坂上達人は、勝った!と思った。


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「今回のじゃがいも料理対決は見事にプロの技を見せ付けた達人と、負けじとプロの家庭料理で対抗した挑戦者。それでは発表します」


『勝利する者は最も家庭で愛されている野菜じゃがいもを、得意のフレンチソースでアレンジした天才達人か究極の家庭料理の神様か~』


「挑戦者・小林ヤス代」


『おぉっと、スタジオが揺れました。勝ったのは家庭料理の神様、小林ヤス代です。坂上達人3連敗。今、ニコリと笑顔で小林と握手しております』


坂上達人控え室。

「坂上さん、残念でしたね」

「これも、私の実力でしょう」

「もう1つ、残念な事が」

「何でしょうか」

「本日の挑戦者だったはずの、村上さんを爆弾で殺害したのはあなたですね」

「……」

「実は今日、名古屋の方で村上さんのガレージの靴の引き摺り痕と、あなたの自宅にあった革靴の成分が一致した訳で」

「私の靴を履いた何者かの犯行でしょう」

「いいえ、科警研にも回しましたがあなたしか履いていませんでした」

「……」

「なぜ、犯行後、あの革靴を処分しなかったのですか?」

「……認めましょう。あの革靴は私の店がミシュランで一ツ星をもらった時に、村上が僕にプレゼントしてくれた靴で。捨てるに捨てれなくて」

「その、村上さんを殺害してまで、勝とうとした試合に負けて。皮肉なものです」

「あいつの店はミシュラン三ツ星店で、勝てる自信がなかった。あいつも人生がかかってると言ったのだが、今のままで十分なはずだ」

「坂上さん。あなたは、知らない情報が1つ」

「何でしょうか?」

「村上さん、舌がんを患っていたそうです。段々、味覚がなくなりつつあるなかで、あなたとの試合を申し込み、店名をテレビで流せばどうにかなると、思ったのでしょう」

「……黒井川さん。泣いていいかな?」

「わたしは、ロビーで待ってます」

「……あ、ありがとう」


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警部・黒井川の事件ファイル 羽弦トリス @September-0919

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