番外編2 逃げ出そうにも、軟禁でした

 

 イザベルとルイスの結婚から2年という年月が過ぎ、夏になる頃には二人の間に新しい命が生まれる。

 そんなイザベル皇太子妃のもとにリリアンヌは遊びに来ていた。

 

「お腹、大きくなってきたね。調子はどう?」

「お陰さまで順調よ。たまにお腹の中を力強く蹴るものだから、驚かされるわ」

「そっかぁ! 落ち着いたみたいで安心したよ。つわり酷かったもんね」

「ふふ、ありがとう。ルイス様ったら安定期なのにすごく心配してくれてね、お仕事を休もうとするのよ。私にはミーアがいてくれるのにね」

 

 そう言いながらクスクス笑うイザベルは本当に幸せそうで、リリアンヌも笑みを深めた。

 

「リリーも結婚式は来週でしょ? 私は来てくれると嬉しいけれど、準備は大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。仕事も落ち着いたし。ゼンも式の前日から一週間の休みをもらえるんだって! 二人でゆっくり過ごすの楽しみなんだ!!」

 

 ピースサインをしながらご機嫌に言ったリリアンヌ。だが、すぐに真面目な表情になりイザベルに顔を寄せた。

 

 

「ねぇ、初夜ってどうだったの?」

 

 その質問にイザベルは頬を染め、後ろに控えていたミーアは遠い目をした。

 

 

 イザベルの初夜はある意味でミーアにも忘れられないものとなっていた。

 

 (まさか、花嫁イザベル様が逃亡しようとして、それを予測した花婿殿下が軟禁をして未然に防いだなんて誰も思わないでしょうね)

 

 

 なぜ、イザベルが逃亡しようとしたのか……、というと平安のお姫様から転生したイザベルは初夜というものをきちんと理解していなかったことにある。

 

 前世での小夜がイメージしていた初夜は、夜を共に過ごすとコウノトリさんが赤ちゃんを運んできてくれる、というもの。

 転生後のイザベル自身も、ルイスのめいにより閨事ねやごとの教育を受けさせてもらえなかった。だから、小夜の頃からずっとイザベルはコウノトリさんを信じていたのである。

 

 そんなイザベルだが、お風呂で入念にピカピカにされて露出の多い寝間着に着替えさせられたことにより、何かがおかしいと気が付いた。そして、ミーアに一言。

 

「ねぇ、子作りって同じベッドで寝るだけよね?」

「そう……ですね。同じベッドで寝ますね。ですが、かと言われますと……」

 

 言葉につまったミーアにイザベルは首を捻る。何かがおかしい、と。

 

「寝るのに、こんなに肌が見えていたら風邪を引いてしまうわ。いつもの寝間着を出してくれる?」

「……それでは脱ぎにくいかと」

 

「脱ぐの?」

「はい。十中八九、脱ぎますね」

 

「冗談ってことは……」

「ないですね」 

 

 ミーアが答えた瞬間、イザベルはショールを羽織ると駆け出した。目指すは部屋のドアである。しかし、そのドアを引けば、ガシャンッ! と少しの隙間が開くのみ。

 

「えっ?」

 

 何度イザベルが引こうとも、それ以上は開かない。ドアは外側から鎖が幾重にもかけられ、南京錠で止められていた。 

 

「どう……して……」 

「イザベルは、やはり俺から逃げようとするんだな」

 

 イザベルが振り向けば、そこには困った表情を浮かべながらも、仄暗ほのぐらさを瞳に宿したルイスが立っていた。

 

「ルイス様……」

「初夜に逃げようだなんて、悪い子だね?」

 

 そう言いながらルイスはイザベルを抱き上げる。それを後ろで見ていたミーアは、そこでルイスから辞するよう合図を送られ、静かに部屋を出た。

 

 

 (逃げようとするイザベル様もどうかと思うけれど、殿下も相当ヤバい人よね。まぁ、軟禁されてたことに気が付いたにも関わらず、イザベル様は赤面されているのだから、お似合いなのかもしれないけれど)

 

 

 イザベルとリリアンヌがキャッキャと楽しそうに話しているのを眺めながら、ミーアは心のなかで苦笑する。

 そして、そろそろルイスが来る頃合いだろうと、もう一人分のお茶の用意を始めたのであった。

 

 

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る