番外編

番外編1 カオスだよ。オカメお茶会


■第二章と第三章の間くらいのお話■




「ルイス様、受け取って欲しいものがありますの」


 マッカート公爵家に遊びに来ていたルイスはイザベルの言葉に目を瞬かせた後、嬉しそうに笑った。


「イザベルが俺に? 嬉しいよ」


 その二人の姿は微笑ましいものである。だが、中身が何かを知っているミーアはそっと視線を反らした。


「開けても?」

「はい。気に入って頂けると嬉しいのですが……」


 例の物が入った箱を開けた瞬間、ルイスの表情が一瞬だけ固まったのをミーアは見逃さなかった。


 (ルイス皇太子殿下、申し訳ありません。私には止められませんでした)


 心の中で謝罪したミーア。実は、ルイスが来る少し前に同じものをプレゼントして貰っていたのだ。



「これは、イザベルの大切なものじゃなかったか?」

「はい。素敵なものは分かち合いたくて……。ご迷惑でしたか?」

「いや、嬉しい。ありがとう」


 愛しいイザベルからのプレゼントなら何でも嬉しいルイス。だが、試練はここからだった。


「気に入っていただけて嬉しいですわ!!この美しさに加えて、オカメは厄除けの役割もありますの」

「そうか。部屋に飾るよ」


「えっ? 着けてくださらないのですか?」

「……えっ?」


「いっ、イザベル様? それは少々ご無理があるかと……」


 思わず口出しをしてしまったミーアは、これが選択ミスであったことにまだ気が付いていない。


「そう言えば、ミーアも着けてくれてないわね」

「申し訳ありません。着けますと視界が悪くなりますので、業務中は控えさせて頂きたく……」

「そうだったのね。ならば、今ならつけられるのではないかしら?」


 イザベルから向けられる視線にミーアは心が折れそうだった。何故なら、純粋な好意のみであったから。

 これが、少しでも悪意やからかいがあれば突っぱねることもできた。だが、本当に良かれと思ってイザベルはやっているのだ。


 そして、ルイスからの視線も痛い。



 (あぁぁ。着けたくない! いくらイザベル様をお慕いしていてもこれはイヤ!

 だけど、逃げ道がないわ)


 (何で俺じゃなくてミーアに先に渡しているんだ。気に入らない。

 これを先に着けられるか、愛の試練というやつだろうか。フンッ、俺にとっては造作ぞうさないことだな)



 ルイスはスッとそれを着けた。その手に迷いはない。


「イザベル、どうだ?」

「────っっ!! 素敵ですわ!! ルイス様!!」


 感嘆の声にルイスは満更ではなかった。だが、絵面的には非常に残念極まりない。


「では、私も」


 そう言ってイザベルも着ければ、部屋のなかにはオカメが二人。


「さぁ、ミーアも遠慮しないで」


 ミーアに拒否権などなかった。断腸の思いでそっと着ければ、オカメが三人。


 オカメお茶会の開幕であった。



 このあと、すっかりこれに気を良くしたイザベルが、クラスメイト全員分のオカメを作ろうと職人と会うことになるのであった。




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