番外編3 新作宣伝 新作ヒロインとイザベル


 リリアンヌにどうしてもあって欲しい人がいる、と言われてカフェへとやってきたイザベルは目の前の幼い少女に目を瞬かせた。


「あなたがイザベルさんですか? はじめまして、アリア・スコルピウスと申します」


 見本のような美しいカーテシーにイザベルは心のなかで拍手を送る。


「はじめまして。イザベル・マッカートですわ。えっと、あなたは……」

「新作のヒロインです!」

「はい!?」

「宣伝に来ました!!」


 あまりにも堂々と言い切るアリアにイザベルはまたもや目を瞬かせることになった。


「宣伝、ですの?」

「そうです!! やっぱり一人でも多くの読者様に出会うためには宣伝は必須ですからね」


 (このわらわ、ずいぶんと大人びとるのぅ)


「アリアちゃんは、偉いわね」


 そっと頭を撫でればにこにこと可愛らしい笑顔をアリアは浮かべながらイザベルを見る。だが、次の一言にイザベルは固まることとなる。


「あっ。私は転生者なので、見た目は6歳なんですけど、中身は16歳なんですよ」

「はい!?」


「ほしきみ☆っていう乙女ゲームの悪役令嬢に転生しちゃって、弟のために全力で悪役回避してるんです。イザベルさんも悪役令嬢転生ですものね!! 私もイザベルさんみたいに、立派に悪役令嬢を回避してみせますね。

 まぁ、私の場合は王族には絶対になりませんけど」


「ちょっ、ちょっと待ってくださる? 私、悪役に生まれ変わってたんですの?」

「あれ? 気付いてなかったんですか?」


 (嘘じゃろ。われは悪役になっておったのか。じゃが、記憶が戻る前のわれは傍若無人を絵に描いたような性格じゃったし……)


 全てが終わった後で知る真実。アリアが『キミコイ』をプレイしていないため、細かい真実を知ることはないものの、十分すぎるほどイザベルには衝撃的であった。



 そんな二人のところに当たり前のように、ストーカー疑惑を常にリリアンヌにかけられていたルイスがやってきた。イザベルの様子がおかしいことに気が付くと、幼い子供であろうと容赦なく睨み付ける。


「おまえ、イザベルに何を言った? 場合によっては、殺すぞ」

「はい!? ただ私は宣伝に来ただけですよ。リリアンヌさんにお願いして、イザベルさんに会わせてもらったんです」


 ものすごく不穏な空気だが、残念ながらイザベルは自身が悪役だった、という衝撃からまだこちらへと戻ってきていない。


「宣伝なんかしてないで、自力でどうにかしろ。命が惜しかったら、さっさと帰れ」

「そんなぁ……」


 せっかく来たアリアだが、今にもルイスによってカフェから追い出されそうになった。その時──。


「アリアちゃんをいじめるな! スウィフトウィンド!!」


 可愛らしい声とともに激しい風がルイスとアリアの間を吹き抜けた。


「ノア!?」


 弟の魔術に慌てたのはアリアだ。


「ダメだよ。いきなり魔術を使っちゃ……」

「でも、あいつがアリアちゃんをいじめてた!!」


 ルイスを睨み付けたままノアは叫ぶ。そして、睨み付けられたルイスもまた鋭い眼光でノアを見た。4歳の幼児と18歳の皇太子との睨み合いである。


 ノアの大声で現実へと気持ちが帰ってきたイザベルは慌てた。そして、アリアも。


 ((これは、まずい(のぅ)))


 イザベルとアリアは素早くアイコンタクトを取ると、二人の間に体を滑り込ませた。


「イザベルさん、失礼をしてしまってごめんなさい。私たち、帰りますね」

「こちらこそ、宣伝をきちんとさせてあげられなくて申し訳なかったわ。頑張ってね、応援しているわ」


 ガシッと握手をしたイザベルとアリア。そして、アリアはノアを連れて素早くカフェを後にした。


 (あーぁ。全然、宣伝できなかった……。でも、ノアが私のために怒ってくれるなんて!! 膨らんだほっぺが最強に可愛い! 本当に天使!!)


 仲良く繋いだ手の先のノアにアリアは笑いかける。


「私のために怒ってくれて、ありがとう」


 

 このあと、アリアとノアは無事に自分達の物語へと帰り、リリアンヌはルイスに嫌みを言われるはめになるのであった。



新作

『悪役になったら、弟 破滅!? 全力回避で弟の幸せは私が守ってみせます!!』

はこちらになります。よろしくお願いいたします↓↓↓

https://kakuyomu.jp/works/16817330653192371872




 溺愛オカメは引き続き、時々番外編のアップを行います。よろしければ、これからもよろしくお願いいたします!




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