第65話 アザレア劇場
「イザベル様は、レインボーローズを見たことがありますのね。流石、ルイス様の婚約者ですわ」
「そうですわね。ですが、それは本当に貴女への贈り物なのかしら?」
「確かに、別の方への贈り物かもしれませんわね」
クスクスと嫌な笑い方をしながら、3人の令嬢はイザベルを見る。
「ローレルさん、アイリーンさん、レバンテさん、折角いらしてくださったのに、そのようなことを言ってはいけませんわよ」
アザレアは困ったような表情を作ってはいるものの、それは表情だけ。まるで、見る価値もない
(一応、止める
たかだか侯爵家で、何を思い上がったか。家格の違いも理解できず、礼儀も知らぬ、たわけ者が)
「ふふっ。一体、どういう意味でおっしゃられたのか興味がありますわ。是非とも、詳しく聞かせて頂きたいですわね」
サッと扇を出してイザベルは顔の半分を隠す。そう、ここからがイザベルの一番の正念場だ。例え、自身が辛い思いをしようとも目的は果たす。
決意をしてきたはずなのに小さく手が震える。だが、気付かせては有利な立場には立てない。
(恐れることはない。今更じゃ。アザレア、今日でそなたの天下は終わりじゃ。反リリアンヌ派は必ず解体させる。二度と
心配そうにこちらを見ているメイルードとジュリアの視線にイザベルは励まされる。
「ねぇ、アザレアさん? 貴女は礼儀作法と教養が足りてないようですわね。もう少し、お勉強をなさいませんと。
あぁ、だからBクラスでしたのね。良い家庭教師をお教えしますわ。きっと、貴女でもきちんと分かるように教えてくださいますわよ」
小首を傾げて言えば、アザレアは顔を引きつらせた。それを見て、心に少し余裕ができたイザベルは、言葉を重ねる。
「それに、主催者がゲストを貶めることに加わるだなんて、驚くほど良い性格をなさっていますのね」
「私はイザベル様を貶めてなどおりませんわ。勘違いなさるのは、止めてくださいませ」
「……私のことだとは言ってなくてよ」
顔色を変えたアザレアを、イザベルはオカメの下で冷めた瞳で見た。その瞳の中には
(いとも簡単に引っかかったのう。権力にものを言わせておったということか。そのようなことをしても
イザベルは瞬き一つで憐れむ心に
「アザレアさんが、私のことを、スコルピウス公爵家を、軽んじていらっしゃることはよく分かりましたわ」
「そういう貴女こそ、
負けじと言い返してくるアザレアに噂とは何かを聞くべきだろう。だが、イザベルはその前にどうしても言わなければ気が済まなかった。
「奇妙な面……とは、何のことをおっしゃっているのかしら?」
「その貴女がオカメと呼んでいるものよ! そんな気味の悪いものをつけて、よく人前に出られますわね」
「気味の悪い? 貴女、頭がおかしいのではなくて? この素晴らしさを理解できないだなんて、信じられませんわ」
鼻で笑いながら言ったイザベルに対し、アザレアは気持ちにゆとりができたように侮蔑の視線を向ける。
「そんなものを素晴らしい? 笑わせないでくださる? イザベル様は美に
でも、誰もがもしもを連想して言えなかったわ。だから、今日、私が皆さんの代わりに言いますわ!!」
演説するかのように立ち上がったアザレアに、彼女の取り巻き達は拍手をし、「流石、アザレア様!!」「なんて、勇気がおありなのかしら!!」と次々と口にした。
それに気を良くしたアザレアは、口元に笑みを描く。瞳には自信が
「貴女、偽者でしょう? あまりにも悪事を働きすぎたからと、別人を学園に送り込むなんて、マッカート公爵家も落ちたものですわね!!」
ビシッとイザベルを指差して、アザレアは高らかに言い放った。
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