第63話 繋いだ手
俯いたイザベルの耳が先程までよりも朱に染まったことに目ざとく気が付いたルイスは確信した。
今こそ、攻め時だ、と。
「イザベル、隣に座ってもいいか?」
そう聞くや否や、返事も待たずにルイスは隣へと移動する。
「手を繋ぐのは不快だったか?」
「……ぃえ、そんなことは」
今にも消え入りそうなイザベルの声に、ルイスは口元に笑みを浮かべながら、ゆっくりと手に触れた。
肩をビクリとさせたものの、イザベルが逃げないことを確認すると、優しく握る。
「もし、この手が俺のではなく、ゼンの手でも繋ぐのか?」
赤く染まりながらも、その問いにイザベルは本当に意味が分からないという表情をしながら、首を傾げた。
「ローゼン様はリリーの婚約者でしてよ。なぜ、そのようなお考えになるのですか?」
「ならば、婚約者のいないヒューラックやシュナイならどうだ?」
ルイスの言葉にイザベルは想像した。
(シュナイ様は、特に嫌悪感もないのぅ。
ヒューラック様は……)
そう考えた瞬間、寒気がしてイザベルは体を震わせた。鳥肌が立ち、思わず身をすくめる。
「……繋げるか?」
「そう……ですわね。シュナイ様は安心してエスコートをお願いできますわ。ヒューラック様は……」
そこで言葉を区切り、上手い言葉をイザベルは探したが、思い付かない。困ってしまったイザベルをルイスは見詰めた。
「なら、俺と手を繋ぐのはどう感じる?」
その言葉に、視線を繋がれた手に向けたイザベルの鼓動は速くなり、息が苦しくなる。
「緊張……しますわ」
「そうか、俺もだ」
そう言ったルイスの耳が赤いことに、イザベルはやっと気が付いた。
(緊張するのは、われだけではない?)
「イザベルに嫌がられてしまったら……、といつも不安になる。あと、俺の心臓の音がイザベルに聞こえていないかも心配だな」
「心臓の音……ですの?」
ルイスはイザベルの手を自身の胸へと当てた。
ドッドッドッドッドッドッドッ──。
一定のリズムだが、自分と同じくらいか、それ以上に速い鼓動にイザベルは目を瞬かせた。
(
「俺はイザベルが好きだ。愛している。だから、ドキドキするし、一緒にいたいと思ってる」
「私は……」
(婚約解消をしたいと言わねば。もう、権力争いに巻き込まれるのも、呪われるのも、刺客を送られるのも嫌じゃ。それなのに、何故言えぬ……)
言葉に詰まってしまったイザベルと繋いだ手にルイスは少しだけ力を込める。
「焦らせたな。悪かった。……また、こうやって手を繋いでもいいか?」
その問いにイザベルは小さく頷いた。
(われは、どうしてしもうたのじゃ。婚約解消を願っていたはずじゃのに、共にいたいと思ってしもうた。
これは、情がわいたということじゃろうか……)
早鐘を打つかのような鼓動が治まらないまま、馬車はミルミッド侯爵家へと進んでいく。
イザベルとルイスの手は到着するまで離れることはなかった。
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