第45話 ベルリンとリリー
あの後、ルイスがイザベルに愛を囁き過ぎてイザベルが鼻血を出したり、ルイスの策略でリリアンヌとローゼンが二人きりになったりとハプニングはあったものの、お茶会は和やかに終わった。
そして、週が明けた月曜日。
「ベルリン、おっはよーーー!!」
「まぁ、リリー。おはようございます。
今日も元気ね」
オカメ姿に戻ったイザベルの後ろから抱きついたリリアンヌに対し、一斉に注目が集まった。
「抱きつくな、尻軽」
リリアンヌは襟首を掴まれ、ルイスに強引に引き剥がされてしまう。だが、その顔はどこか勝ち誇っていた。
「あら、殿下もいらっしゃいましたの?
ふふんっ。私はイザベル様に抱きついても良いのです。羨ましいですか? 羨ましいですよね。
私ばかりくっつけて、ごめんなさいね。でも、まさか女性にまで嫉妬しませんよね? そんなに器量が狭くありませんものね?
ねぇ、イザベル様」
「そうね。ルイス様はそのようなことを気にされるお方ではないわ。でもね、そのような言い方はダメよ。失礼でしょう?」
「はーい」
「それとね、リリー。イザベル様なんて他人行儀はやめて。リリーだけの愛称で呼んでちょうだい? 寂しいわ」
「ベルリンっ!! 愛してる!!」
「うふふ。私もリリーのことが好きよ」
再びリリアンヌが抱きつき、愛を確かめ合う。だが、ルイスはリリアンヌに器量だの何だの言われたことも気にせず、すぐにリリアンヌをイザベルから剥がした。
「イザベル。俺の方がイザベルのことを愛している。フォーカス嬢ばかりではなく、俺のことも見てくれないか?」
オカメから見える耳と首が赤く染まり、イザベルは下を向いた。
「あ……その……、婚約解消をして欲しいのですが」
「いくらイザベルの頼みでもそれだけはできないって、いつも言ってるだろう?」
聞き分けのない子供に話しかけるように頭を撫でられ、愛する者に語りかけるような甘い雰囲気にイザベルはオカメの下で今にも鼻血が出そうだ。
「いつも言ってるだろう? じゃないですよ。
フラれてるんだから、さっさと婚約解消してあげたらどうですか?」
「黙れ、尻軽」
周囲に聞こえないようにぼそりと呟いたルイスの言葉にリリアンヌは噛みついた。
「何ですって! そんなこと言ったら、殿下はストーカー男じゃないですか。いつもベルリンを追いかけ回して」
「リリーっっ!!」
慌てて顔色を悪くしたイザベルが止めに入る。お茶会にルイスが乱入してから、リリアンヌは遠慮なしに物を言うようになった。それをルイスが受け流すかやり返すか……。
イザベルとしては気が気でないのだが、当の本人たちは全く気にした様子はない。
「何だ、やきもちか。俺が愛しているのはイザベルだけだぞ」
「────っっ!!」
「冗談だ。でも、愛しているのは本当だからな」
ルイスの言葉で再び赤くなったイザベルは、赤くなったり青くなったりと忙しい。
そんな3人の様子を見ていた取り巻きーズはと言うと、揃いも揃って首を捻っていた。
「どういうことだ?」
「さっぱり分かりません」
「ホントにね。だけど、女の子が仲良い姿ってかわいいよねぇ」
「そうか? オカメなんて不気味だろ」
「同感です。どうせ、イザベル嬢が無理矢理させているのでしょう」
「違うと思うけどなー。だって、リリちゃん、ルイスにめっちゃ言い返してるよ。楽しそうだねぇ。本来のリリちゃんって感じで可愛いなー」
カミンだけは好意的に捉えたものの、メイスとヒューラックはイザベルに脅されてやっているのだと今の現状をしっかりと見ずに片付ける。
それは、この光景を見ていたほとんどの者が同じであった。オカメイザベルになってから一月、まだ以前のイザベルの印象の方が強い。
「面をずっと外さないところから全くの別人であると推測が正しい気がしてきました……」
そう話すヒューラックと同じ考えを持つ者も少なくない。
「別にどっちでも良くない? ベルベルだろうが別人だろうが。穏やかでルイスとも仲良くて、后妃になるための教養もある。
他に何を求めるって言うのさー」
「いやいや、怪しいだろ!!」
「そうですよ。素性も分からない者をルイスの側に置くわけにはいきません」
「えー。固いなぁ」
取り巻きーズの意見は学園全体の意見をまとめたようなものである。
今、学園では大きく分けて3つの派閥が存在していた。
イザベル派、リリアンヌ派にオカメイザベル派。
そして、新しい声が生まれ始めている。
「ねぇ、フォーカス嬢って媚びてばかりよね。目上の方ばかりに話しかけていてよ」
「それに、いつも殿方ばかりを引き連れていらっしゃるわよ」
「きっとルイス殿下に近付くためにイザベル様に近づいたに違いないわ」
「親しみやすいって思ってたが、あれじゃ品が無さすぎる」
「確かに、礼儀もないよな」
上手く誘導できたと最初にリリアンヌを批判する言葉を発するよう指示した令嬢は笑みを浮かべた。
「フフッ。たかが子爵令嬢のくせに生意気だったのよ。良い気味……」
真っ赤な髪をなびかせて一人の令嬢は立ち去った。学園内に新たな不穏の種を蒔いて──。
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