第34話 オカメな元悪役令嬢



 リリアンヌの言葉を聞いて、イザベルも気になっていたので一縷いちるの望みを持ってルイスへと声をかけた。


「ルイス様。私も側近候補から外すのはもう一度考え直して頂きたいと思っておりますの」

「分かった。外すのはやめよう」

「えっ!? いいのですか?」


「もちろんだ。イザベルは戻した方がいいと思ったんだろ?」

「そう……ですけど」


 困惑気味のイザベルの頭をルイスは優しく撫で、3人へと視線のみを向けた。


「というわけだから、候補に戻す。だが、俺はイザベルを侮辱したお前らを許してないことを忘れるな」


 鋭い視線を取り巻きーズへと残し、ルイスはイザベルの手をとる。


「そろそろ行こう。教員への挨拶もするんだろ?」


 その言葉に思い出したようにオカメの下で目を瞬かせた後、小さく頷いたイザベルにルイスは目を細める。


 (面を着けてきてくれて良かった。そうでなければ、皆が心を奪われていたはずだ)


 イザベルにとってオカメは醜い自身を隠してくれるものだ。だが、図らずしもルイスにとっては邪魔物を排除する素晴らしい物へとなっていた。



「イザベル、私の前以外では面を外さないでくれ」

「……はい。元よりそのつもりですわ」



 (ずっとは無理だが、少しでも長く他の奴にイザベルを見せたくない。俺だけに見せてくれ)


 (やはり、われが醜いせいでルイス様は恥じておるのじゃな。ならば、さっさと婚約解消を受け入れてくれれば良いものを……)


 ルイスは満足げに笑い、イザベルはオカメの下で浮かない表情かおをした。




 足を踏み出したイザベルだが、ふと、リリアンヌに自身が話しかけられていたことを思い出し振り向く。

 するとこちらを憎しみが籠った瞳で睨むリリアンヌと視線がかち合った。



 (やはり、リリアンヌとは相容あいいれぬか)



 仲良くできる可能性が万に一つでもあるのではないかと、思ってしまったイザベルは自身の甘さに苦笑をもらす。



 (相容れなくとも、嫌いではないがな)



 平安姫だった頃、直接対決を挑むような者などいなかった。呪うか暗殺者を送り込むか……やり方はとにかく陰湿なものだけだったのだ。

 だからだろうか、リリアンヌをイザベルは嫌いではなかったし、どちらかと言えば好きだと感じた。



 (さて。折角挑んできよったのじゃ、その心意気は返さねばな)



 イザベルは息を大きく吸った。


 平安姫だった頃は大きな声を出すなどはしたないとされていた。今だって、いい顔を

されないのは分かっている。

 それでも、この関係を周知したいとイザベルは願う。例え、自身が不利になろうとも。



「リリアンヌさん、貴女が私を呼び捨てすることはやっぱり難しいですわ。ごめんなさい。

 それは貴女が嫌いだからとかではなく、まだ学生と云えど私達には立場がありますもの。何より、親しくもありませんし……。ご理解くださいね」


 社交をきちんと学ばないといけませんよ。という言葉を飲み込み、イザベルはリリアンヌの反応を見ずに前を向く。



 そんなイザベルへの反応は様々なものだった。



 イザベルが休んでいる間にリリアンヌを皇太子妃にと求める生徒も多くなっていたのもあってか、リリアンヌに同情的な視線を向ける者、イザベルへと敵意を見せる者が多かった。

 しかし、公爵家と子爵家の身分差からイザベルの反応は適切だと考えるものも少なくない。


 そして、やはりオカメを被った令嬢はイザベルではないのでは……と考える者もいた。



 ただ、そこにいるのは皆が知った悪役令嬢ではなかった。


 悪役令嬢ではなく、オカメな悪役令嬢だった。





 その後、イザベルは学園長からオカメをつけて学園を生活する許可を(ルイスが圧力をかけて)一つの条件付きではあるがとることができた。

 オカメをすることで、今までと違う意味で学園中の噂の的になったのは言うまでもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る