第11話 イザベルとミーア


 身支度の間、イザベルは色々と会えない理由をあげてみたが、その全てをミーアに却下された。

 そして、半ば引きずられるかのように応接間の前までやってきた。


「ねぇ、やっぱり……」

「なりません」


 ピシャリと言われてイザベルは首をすくめる。その光景に、昨日までのイザベルを知る使用人の誰もが目を疑った。


「それは分かったのだけれど、やっぱり露出し過ぎだと思うのよ。それにもう少し地味なものが良いって言うか……」

「イザベル様自身でご確認された通り、それが一番華美ではありません。あとでデザイナーを呼びますので、今は我慢なさってください。とにかく、今は時間がありませんので……」

「……はい」


(はぁ、せめて面があれば少しは違ったものを)


 声には出さないもののイザベルは心の中で呟いた。


「では、私はこれで失礼致します」

「えっ! ミーアは一緒じゃないの?」

「私は皇家の方々の御前には出られません。中には私よりも優秀な先輩方がいますので、ご安心ください」

「そんなぁ……。私にはミーアが一番なのに」


 まさかの評価にミーアは目を瞬かせ、少し困ったように笑う。


「イザベル様がお望みならば、私もメイドとしてもっと学び、いつでもお側にいられるよう努めますよ」


 冗談っぽく言ったミーアの言葉に、イザベルは声を弾ませた。


「絶対に、絶対よ! 約束だからね。ミーアの主人として誇ってもらえるように私も頑張るわ!」


 そんなイザベルに、ミーアのなかの違和感は一層強くなる。


「……あなたは誰ですか?」


 思わず呟いた言葉は、イザベルには届かなかったらしい。そのことにホッとしつつ、ミーアは小さく首を振る。


「ほら、殿下がお待ちですよ」


 そう言いながら、ミーアは応接室の扉を叩く。


「お帰りをお待ちしていますね」


 ミーアがイザベルに微笑む。それは、イザベルの記憶が戻る前を含めて、初めての柔らかい表情だ。


「ミーア、貴女が私の専属メイドで良かったわ」


 イザベルも笑った。平安の姫として失格なほどにくしゃりと。

 表情を変えないことが美しい、そんなことなどどうでも良くなるくらい嬉しかったのだ。



 イザベルは、ミーアの微笑みに後押しされて応接間へと足を踏み出した。


(何のこれしき! われはミーアの立派な主になるのじゃ。そして、罪を償い、新たな人生を生きる!)


 帰りを待っているという言葉はイザベルを奮い立たせてくれた。


(じゃが、顔は基本的には隠しても良い……よな?)


 けれど、どこか弱腰なのもまたイザベルらしかった。



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