【完結】溺愛？執着？転生悪役令嬢は皇太子殿下から逃げ出したい～悪役令嬢は、絶世の美女にも関わらずオカメを被るが、独占しやすくなって皇太子にとって好都合でしかない～

第7話 イザベル、休養が必要と診断される

　ミーアが部屋から出ていくと、両親とマッカート公爵家お抱（かか）えの医師が来た。

　両親はイザベルが目を覚ましたことを泣いて喜び、その姿を見たイザベルは亡き前世の母を思い出してちょっぴり泣いた。

「外傷は手の傷だけのようですが、どこか痛むところや違和感のあるところはありますか？」

「痛いところはないわ。ただ、少し頭がぼんやりするだけよ」

　いつもならここで「医者なんだから今すぐに治しなさいよ！　できないですって？　無能なのではなくて？」と暴言が飛び出るところ。

　それがないことを医師は具合が悪いのだと判断した。

　何より、口の中を見せる時以外に扇で顔の半分を隠し続けることがおかしいと。

　イザベルは自身の顔が強力な武器になることを知っていたので、隠したことは一度もない。

「お嬢様、本当はとても具合が悪いのですね。暫くは療養されてください」

「体は絶好調よ！　ただちょっとぼんやりするだけで……」

　医師に横になるようにと強く勧められ、イザベルは仕方なしにベッドへと体を沈めた。

「いいですか、絶対安静ですからね」

「そうよ、ベルちゃんは倒れたばかりだもの休養が必要よ」

「しばらくは学園を休んでゆっくりしなさい。分かったね」

　医師と両親に押しきられ、イザベルはしぶしぶ頷いた。その様子を三人は重症だと捉えているとは知らずに。

　イザベルは唯我独尊、傍若無人を素でいく人物だ。両親の言うことは聞かず、耳を傾ける相手は婚約者のルイスのみ。

　具合がとてつもなく悪いと捉えられても仕方のないことだろう。

　そんな具合の悪いイザベルに少しでも元気が出るようにと、母は娘が喜ぶであろうとっておきの話をすることにした。

「ベルちゃん、入学祝賀パーティーに最後までいられなかったでしょう？　ベルちゃんが、すっごく楽しみにしていたことをルイス殿下もご存知だったから、何かベルちゃんにしてあげたいって相談したのよ。

　そうしたら、ベルちゃんの体調が回復したら、以前から行きたいって言ってたカフェに殿下が連れていってくださるそうよ。良かったわね。

　それに、ベルちゃんの意識が戻ったってお城に知らせを出したから、殿下もきっとすぐに来てくださるわ」

「えっ!?」

（えっ？　えぇっ!?

　な、何てことをしてくれたのじゃ！　まだ、面もできておらぬのじゃぞ？　家族以外に顔が見えてしまうではないか。

　面妖な女（おなご）作戦にも面は必要不可欠なのじゃよ。どうしたらいいんじゃ!!）

　と、内心大パニックのイザベルだが、感情を表には出さず、少し目を細めて微笑みの表情を作る。

　何せ、イザベルの美の基準は平安時代。表情が乏しいミステリアスな女性こそが美しいと信じているからだ。

「そうなのですね。ですが、殿下もお忙しいですから、あまりご無理を言うわけにも参りませんわ」

「大丈夫よ。殿下はベルちゃんといるのが幸せな方だもの。殿下にとってのご褒美になるわよ。愛ねぇ」

「あ……ぃ……は、ともかくとして、殿下に暫くは来なくて大丈夫だとお伝えください。これ以上ご迷惑をおかけするわけには……」

　イザベルの言葉に両親は涙を溢して、抱き合った。

「大人になったのね……」

「良かった。本当に良かった」

（一体、何なのじゃ？　父上と母上は、我が儘に振る舞うことを容認し、肯定しておったはず。ならば、殿下が来られるのは当然！　くらい言っても良さそうなはずじゃが……）

　何故か医師までハンカチで涙を拭いている状況にイザベルは困惑した。けれど、今はすぐにでもやらなくてはならないことがある。

「殿下に手紙を書くわ。いらっしゃる前に届けば良いのだけど」

　早速、取りかかろうとした時、部屋の扉が叩かれた。