末裔勇者達は引き摺り出したい

商会にて、アキトは苦笑していた。手紙の送り主は、4代目勇者の末裔。実は、勇者が異世界に帰れる様になったのは9代目から。8代目までは、この世界でお亡くなりなっている。


思わず、視線を机でぐったりしているライズに向けてしまう。最近、神の命で深夜帰りなのだ。


そんな相棒を、引き連れて行くのは酷か?っと苦笑して、今回の選ばれし勇者からの招待状を見つめる。ライズは、視線に気づいたのかキョトンとして首を傾げる。少し、心配そうだ。


「この世界に、まさかピアノとヴァイオリンがあるとはな。かなり、驚きなんだが。」


すると、体を起こしてから頬杖をつくと言う。


「4代目勇者は、ヴァイオリン。聖女様は、ピアノを得意としてて。2人の奏でる音は、当時の魔王さえも改心させた。確か、録音が残ってたはずだけど。数千年前に、紛失したとか。」


詳しいな。やっぱり、初代勇者の一族だからかその辺りの情報に詳しいんだよなぁ。まあ、初代勇者は堕天勇者…。世界の半分を壊滅させ、人々を恐怖に陥れた冷徹なる戦慄の勇者だ。


「なに?」


キョトンとして、お茶を飲みながら言う。


「お前は、何処まで知ってるのやら。」


すると、悲しそうな瞳になる。


「いや、忘れてくれ。それより、ヴァイオリンか。俺、ピアノは少しだけなら出来るけど。」


話を変えようと、別の話題を出す。


「僕もだよ。ヴァイオリンとピアノは、多少は出来るよ。前世の学生時代、吹奏楽部だったから。まあ、それ以外は無理なんだけどね。」


書類を手に取りながら、微笑んで言うライズ。アキトも、笑いながら頷く。


「取り敢えず、2日後に商人の国…貿易国家ロイクス王国に行こうと思うんだ。4代目勇者の末裔だな。それで、ライズはいけないか?」


ライズは、少し考える雰囲気である。


「うーん…。本音だけど、勇者関連は関わりたくないのだけど。その反応から、僕も名指しで呼ばれてるよね。本当に、手口が汚い。」


少しだけ、不機嫌なライズ。アキトは、手口が汚い?っと不思議そうな雰囲気で見つめる。


「1年に1度、勇者達の末裔が集まる集会というか…そういうのがあるんだよね。ウィルが出てるけど、僕は参加しないから……。」


嫌そうな雰囲気、心底から疲労感の感じる歯切れの悪いライズ。周りも、無言で聴いている。


アキトは、察してから真剣な雰囲気で呟く。


「なるほど、お前を引き摺り出したいのか。」


ライズは、無言で苦笑して頷く。


「商談なら、引きずり出せると踏んでる。まあね、勇者の商談を断れば致命的なダメージとなるし、間違ってはいないけど不愉快だよね。」


深いため息を吐き、機嫌が悪そうに水を飲む。


「うーん…、やっぱり辞めとくか。」


「いや、多分…僕が居ないと商談に進まないと思う。勘違いでしたと、門前払いされるか僕を引き摺り出す為に交渉されるよ。なら、最初から諦めて出て行く方が良い。相手は、商人として伝統と歴史を持つかなりの猛者が多いし。」


おそらく、他の末裔も待ち受けてるんだろうなぁ…。と呟いて、嫌そうな雰囲気のライズ。


「そもそも、何でそんな嫌なんだ?」


すると、真剣な雰囲気でアキトを見て言う。


「僕が、本当の末裔だから。」


その場が、沈黙を支配する。


「えっと、弟じゃないのか?」


「そもそも、勇者の末裔って勇者の力を受け継いだ子供の事を言うんだよ。まあ、僕は使えない様に神様に枷を着けられてるけどね。まあ、世界を半分も破壊した力だもの…当然だよ。」


あー…、行きたくない。と呟くライズ。


「でも、ウィルも黒髪だろ?」


「……それは。」


ライズは、一瞬だけ泣きそうな表情をした。アキトは、口を開きかけたライズを止めて謝る。


「ストップ。それは、聞かない事にする。お詫びに、スイーツ好きなだけ奢るから行くぞ?」


「……うん。よし、いっぱい食べちゃおう。」


後半は、明るい口調だったが無理してるのは、周りも理解していた。だから、周りは俺たちにも奢ってくれとわいわいふざける。ライズは、思わずといった雰囲気で笑うのだった。


「よーし、今回だけだぞ!」


こうして、お茶の時間を楽しむのだった。




勇者の末裔達は、今年も集まっていた。ウィルは、居心地が悪く無言である。神聖国家オラクルの3代目勇者末裔、レギン・アイニスは小さくため息を吐いた。また、空っぽの方かと。


「双子の兄は、どうやったら参加してくれるのやら。余り、強引な手は使いたくないしな。」


ティゴネ帝国2代目勇者末裔、グリフ・レントは苦笑する。2つの国は、ロイナ家が仕えるオルタニア王国と盟友国である。なのに、会わせて貰えないのだ。理由は簡単、オルタニアの貴族達がウィルが末裔に違いないと信じて疑わないから。それ故に、いくら言っても通らない。


オルタニアの貴族にしても、もしライズが末裔ならば酷い事をして来た自覚があるだけに心がもたない。だから、否定し続けているのだ。


「私は、提案したのですが…。」


ウィルは、申し訳ない雰囲気である。


「それなのですが、少しだけ強引な手段を取りまして。ロイクス王国の、とある商会を利用して引き摺り出す事に成功しました。」


聞いてくださいと、明るく笑っていうロイクス王国4代目勇者末裔、シアン・メイベス。


次の瞬間、ガタガタと震え出すのだが。


「君のやり方は、悪手過ぎる…。」


レギンは、頭を抱えてから低い声音で言う。


「やってくれたな…。」


グリフも、呻きながら呟く。他の末裔達も、同じ様な反応である。ウィルは、素早く立ち上がり離席して良いか聞く。すると、察する2人。


「私達は、気にしなくて良い。ここで、話したまえ。正直、不安だから直接聞きたい。」


ウィルは、少し躊躇ってからマジックアイテムを起動させた。暫くして、出るライズ。


『あれ、集会中じゃないの?』


「ライズ、今時間ある?」


思わず、切羽詰まった雰囲気で言う。


『あるけど、周り人が多くない?』


「気にしないで。それより、ロイクスの勇者末裔から、脅迫じみた手紙を受け取ってない?」


ウィルの言葉に、察するライズ。


『来たよ。あの、不愉快な手紙な事でしょ?』


そう言うと、手紙をウィルに送る。


『一応だけど、手紙の内容はメモしてるから安心して。それが、送られて来た手紙だよ。』


「ライズは、行くの?」


思わず、緊張した声音で言う。


『行かないと、勇者の依頼を断ったとしてうちの商会がダメージを受ける。相手は、伝統と歴史を積み重ねた商会だから。最悪、商売が出来なくなってしまうんだ。でも、商会を建てたからには僕達にも守るべき者があるからね。』


「ライズ、怒ってる?」


すると、暫くの沈黙の後に低い声音で言う。


『心の底から、地獄に堕ちろと思ってる。』


「えっと、落ち着いてライズ。そ、そうだ。お土産、何が良いかな?やっぱり、スイーツ?」


無理矢理、話題を変えようとするウィル。


『要らない。さっき、やけ食いしたばかり。』


「ライズ、体に悪いからダメだよ。」


思わず、心配そうに言うウィル。


『おかげで、冷静になれたんだけど。』


ダメだった?なら、今度からは…と聞こえる。


「もっと食べよう!」


『盛大な掌返しだね。』


元気良く言うウィルに、冷静に突っ込むライズ


「えへへ、わかった。忙しいのにごめん。」


『いや、気をつけて帰って来てね。また。』


マジックアイテムを切り、沈黙するウィル。


「とても、優しいお兄さんだね。」


「声が、とても優しかった。」


ウィルは、少しだけ俯く。


「僕がバケモノのせいで、堕天しかけてからですね。それまで、何を考えてるか分からない人でした。無表情だし、感情を全く表に出さないし。でも、いつの間にかそばに居て守ってくれていて。気づいた時には、近寄れなくて。」


困った様な雰囲気だが、勇者の末裔達には泣いてる様な気がした。現在、優しくて近づける雰囲気なのに近寄れないのが更に辛いのだろう。


「さあ、集会を終わりにしよう。」


「待て、シアンの件どうする。」


グリフの待ったに、全員が沈黙する。


「勿論、全員で会いに行くよ。こうなった以上は、穏やかな解決は不可能だろうからね。」


全員が深刻そうに頷き、ウィルは心配そうだ。


「申し訳ないが、ウィル君も来てくれ。卑怯かもしれないが、おそらく君が居れば激怒もおさえてくれるだろうからね。嫌われるならまだしも、敵対までは絶対にしたくないんだ。」


そう言うと、解散するのだった。

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神の御使様は今日も忙しいようです @Kurohyougau

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