手すり
手すりに置かれた無造作な右手。なぞるようにして重ねると、格子模様が指の付け根まで伸びていた。網の目が盛り上がった手の甲は冷たくも温かくもない。五本の指だけが元のまま、流れる音楽に合わせて動いている。
メロンのような青臭い匂いを漂わせる右手に、私は息を止めてかじりついた。薄緑色の皮膚に歯を立てると、舌触りがじゅくじゅくしたものに変わる。垂れる滴を舐め取り、橙色の中身を食べ尽くしていく。
舞台の上では踊り子が舞っていた。可愛らしい音楽に紛れる咀嚼音。もう青臭さも気にならない。
場内が明るくなった。演目は全て終わったらしい。万雷の拍手を聞きながら、相手の腕を光にかざす。やっと普通になった。
劇場奇譚 多聞 @tada_13
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