光明
「ヒカリ!お疲れ様!」
「うぅ……今日も疲れたわぁ……」
ヒカリはアマルティア城内に、「神の部屋」と題して、それはそれは豪華な部屋が与えられていた。
「「神」が住まうなど、なんたる光栄か!」
と、フォス王の計らいであることは、言うまでもない。
ミライは「神」をサポートするという名目で、ヒカリと共に、その部屋で暮らしていた。
「ヒカリ様。お疲れでしたら、マッサージでも致しましょうか?」
「別にいいよ……一晩寝れば回復するし」
「そう遠慮なさらずに……ホラホラ!」
「フフフッ!やだミライ!くすぐったいってば!」
コンコン!
「失礼致します」
「どうぞー」
「ヒカリ様、ミライ様、お食事の方はいかがなさいますか?」
「もう……リタったら、堅苦しいってば!」
「しかし……」
「……まぁそうよね……あれからもう5年経ったもんね……」
「リタ君、15歳!声変わりもして、益々男に磨きがかかりました!」
「み、ミライ様、お戯れが過ぎます!」
「あんな悪ガキが、今じゃ兵士長……。リタ、ホント大人になったわね。その甲冑姿も似合ってるし、手に負えない生物達を、見事な剣捌きでバタバタと倒してるんでしょ?凄いじゃない!」
「ハッ!有り難きお言葉!……そ、それに……ヒカリ様は……か、かか変わらず……お美しいままで……ござりら……まする!」
「……うん?ありがと!」
「アレ?アレアレ?アタシのセンサーが反応しました!」
「な、何を……」
「おやおや?リタ君、顔が真っ赤ではないか……熱でもあるのかい?」
「べ、別に何でもありません!大丈夫であります!そんな事よりも、ヒカリ様は自らの使命と並行して、ご自身の両親や出自関係などの謎を解明すべく、情報を集めていると伺ったのですが、進捗の程は……?」
「……ダメ。まるでわからないのよね……。「神」として、これだけ有名になったんだから、何か少しくらい手がかりがあってもいいと思うんだけど……」
「……そうでありましたか……。自分も微力ながら、お手伝いさせていただきます!」
「それは助かるわ!頼りにしてるわよ、リタ!」
「……おやぁ?またしてもリタ君、顔が真っ赤になりましたなぁ」
「……そ、そんなことは!で、では、自分はこれで……し、失礼致しました!」
リタは逃げる様に、バタン!!と扉を閉めた。
「なに?リタどうしちゃったの?」
「……ヒカリ、本気で言ってる?」
「何がよ?」
「……はぁ、アタシのセンサー、萎えちゃった」
「えっ?何よ?教えなさいよ!」
「きゃははは!くすぐったーい!」
……そして、夜が更けた。
コンコン!
「どーぞ!」
「失礼致します……」
「キャー!ヘク!なんだか久しぶりな気がするぅ!」
ヒカリはヘクに飛びついて、ギューっと抱きしめた。
「ヒカリ様……苦しいですぅ」
「あっ、ゴメンゴメン!だって……私のワガママで、わざわざこんな時間に来てくれたんだもん!嬉しくもなっちゃうわ!」
ヘクも随分と大人になった。
女性らしい身体つきになり、髪の毛は尊敬するヒカリを意識したのか、ロングヘアーへと変わっていた。
「あっ、ヘク!前も言ったでしょ?この部屋の中では、いつも通りに……って」
「あわわ、ごめんなさい!」
「そういうところは、相変わらずね」
「ヒカリお姉さんこそ、全然変わらない……羨ましい」
「確かに……アタシなんか、この5年で5キロよ!5キロも太っちゃって……あぁ……」
「シーア先生も、ずっと見た目が若かったし、きっと魔力量と関係があるのかもね」
「その理屈なら、ヘクちゃんも今後変わらないことになるわね」
「うん。戦争は無くなったとはいえ、自我を失ってしまった悪魔や、農作物を荒らす巨大生物とか……まだまだ油断ならない状況で、ヘクは引く手あまただものね!」
「たまたま私みたいに、純粋な回復役がいないから……だと思いますけど」
「いやいや、アタシのセンサーによれば、戦場の兵士達はこう考えているわ……。「誰がいち早くヘクの心を射止めるのか!?」……ってね」
「そ、そんな……私なんて……」
「出た!懐かしいなぁ。ヘクのネガティブ状態!」
「ヘクちゃんはもっと「女」として自信を持っていいわよ!超カワイイんだから!」
「私は……ヒカリお姉さんみたいな、カッコイイ女性になりたいんだけどなぁ……」
「……ヘクちゃん?コレはカッコイイと言わないの。エゴイストって言うのよ」
「えっ?裁いていい?裁いていい?」
「フフフッ!ホントに2人は仲良しですね!」
「……悪口言い合ってただけなんだけど……」
「それよりも!女子トークよ女子トーク!ヘクちゃんは、気になる人、いるの?」
「えっ?いや、その……」
「ヘクはねぇ……調理場にいる、見習いの……」
「だ、ダメです!ヒカリお姉さん!」
「ははーん、なるほど……」
「ちょっと……気になるなぁ……って思ってるだけですから!それだけですから!!」
「ムキになっちゃって、カワイイー!」
「うぅ……」
「ねぇねぇ、ミライ、ヘク」
「ん?どうした?」
「2人は……悪魔のこと……」
「あっ!思い出しました!!」
「えっ?ホント!?」
「あ、いえ……さっきここに来る前に、調理場を覗いて来たんですけど……」
「あらー?やっぱり……」
「ち、違います!たまたま通りかかって、お腹も空いてたし、ヒカリお姉さんとミライさんと一緒に何か食べれる物が無いか探してたんです!」
「……まぁそういう事にしておきますか!」
「うぅ……ホントのことなのに……」
「それで?思い出したっていうのは?」
「調理場の隣の隣のお部屋って、空き部屋じゃないですか?」
「うん。窓も無いし、ずっと暗いし、掃除もあまりされてないから、なんか不気味に感じる部屋だよね」
「そ、そうなんです……私、あのお部屋の前を通る時、早足で駆け抜ける事にしてるんです……」
「怖がりヘクちゃんもカワイイー!」
「はいはい、ミライは黙ってて!……それで?」
「はい……さっきも話したように、調理場を覗いてからここに来たので、そのお部屋の前を通って来たんですけど……なぜかドアが開いてて……」
「なになに?これが「怪談話」ってやつ?」
「あー!もう静かにしててよ!」
「……はい、すみません」
「私……怖かったんですけど……どうしても気になって、中を覗いたんです……そしたら……」
「……そしたら?」
「……そしたら?」
「……そしたら……中に……デーオスさんが居たんです!!」
「……何か、期待して損した気分だわ」
「……私も、流石にミライの意見に同感だわ」
「す、すみません!……でも……デーオスさん、何だか思い詰めた様な顔で、ボソボソと独り言を呟いてました……」
「あ、ある意味、恐ろしい光景ね……」
「……私が厳しくし過ぎたせいかなぁ……」
「そ、そんなこと!……あるかも……ですね」
「……私、行ってくる!2人はそのままゆっくりしてていいからね!」
「ヒカリー!ついでに何かお菓子持って来てー」
バタン!
ミライの言葉を無視するかのように、ヒカリは扉を閉めた。
「……デーオス?」
「あっ、姉御!」
「こんな所で、何ボーッとしてんのよ?」
「……あっしは、やっぱり姉御の足でまといッスね。姉御がせっかく、あっしにくれた任務も、ほとんど上手くいかなかったッス」
「……でも、いくつかの村や町の人達は、デーオスに感謝してるわよ。相変わらず、このアマルティアでは「英雄」だし」
「こんなあっしでも……兄貴みたいになれるんじゃないか?姉御を手助け出来るんじゃないか?……って、調子にのってたッス。欲張りだったッスね」
「……どういう事?」
「姉御。「残留思念」って知ってるッスか?」
「し、知らないけど……」
「悪魔族は死の間際、悪魔にしか聞こえない遺言みたいなモノを残すことが出来るッス」
「……ねぇ、デーオス?さっきから何の話をしているの?」
「そしてあの日、兄貴は
「ちょっと待ってってば!何が言いたいの?」
「……兄貴はあっしに「ヒカリの事を頼む」って言ってやした。でも、あっしじゃ力不足ッス。……だから、兄貴からもらった言葉……今あっしがするべき事をするッス!」
そう言うと、デーオスは魔力を解放した。
薄暗い部屋はデーオスを包む魔力によって、少し明るくなった。
そしてデーオスは右手を伸ばし、ヒカリの左肩の上に置いた。
「姉御……この5年間、罵声を浴びせられたり、殴る蹴るの暴行を受けた事もあったッスけど……あっしは楽しかったッス!」
「……何よ急に……やめてよ……まるで別れの言葉みたいじゃない……」
「……姉御、あっしの最期のお願いッス。あっしに……魔力を分けてください!!」
ヒカリは自分の左肩に乗せられたデーオスの手が、震えていることを感じ取っていた。
「頼むッス!……何も言わず……魔力を……!!」
デーオスは号泣しながらヒカリに懇願した。
「……わかったわ。こうすればいいのね?」
ヒカリの魔力が、デーオスの手を伝って、分け与えられていく。
「……感謝するッス!」
涙を拭い、笑って見せたデーオス。
そして人間口調で、デーオスは語りだす。
「姉御。実は悪魔族の間では「悪魔語」が存在するんです。悪魔達が魔法を使う時、悪魔語で詠唱してるんですよ」
「……そうなんだ」
「兄貴の名前……ゴルロラヴィン。これを人間の言葉に訳すと……「光」なんです」
「……えっ?」
そう言うと、「この世に未練など無い」とでも言いたげで、全てやりきったような表情をしたデーオス。
その身体は虹色に発光し、違う何かへと変貌を遂げ、激しく明滅した。
あまりの眩しさにヒカリは目を閉じたが、少し間に合わず、しばらく視力を失った。
「ふわぁ……よく寝たなぁ……」
ヒカリは戻らない視力と、デーオスとは違う声が聞こえた事に戸惑い、尻込みした。
「デーオスの野郎、余計な世話を焼きやがって……」
ようやく視力が戻り始めたヒカリは、冷静さも取り戻し、聞き覚えのある声だという事に気づいた。
「おい、なんだ?そのへっぴり腰は?」
完全に視力が回復したヒカリは、目の前の人物に飛びつき、抱きついた。
「……ゴルロラヴィン!!」
「離せよ、ヒカリにベタつかれるのは、何か……気持ち悪ぃ」
「うるさい!!……しばらく……このままにさせて……」
「……じゃあ、あと10秒だけな」
そう言うと、ゴルロラヴィンはヒカリの頭を優しく撫でた。
その行為に、ヒカリは思わず咽び泣いた。
自分でも驚く程、涙は延々と流れ続け、そして、ゴルロラヴィンをギュッと力一杯に抱きしめ続けた。
10秒など、とっくに過ぎていたが、ゴルロラヴィンは何も言わず、ヒカリを受け入れていた。
「……ねぇゴルロラヴィン?」
「なんだ?」
「どうして生きてるの?」
「オレは一度も死ぬなんて言わなかったけどな」
「言われてみれば……そうだったような……」
「
「それじゃあ……」
「おう。オレのほとんどは、お前の中で生きていた」
「それならもっと早く出て来てよ!……私……あなたとの約束、守ってたんだよ?……「証人になる」って……だけど……時が経つにつれて……みんなあなたの事を忘れていってる様な気がして……私……怖かった……怖かったんだから!!」
「……それは悪かったな。だが、出たくても出れない事情があったんだ」
「……事情?」
「簡単に言うと、オレはヒカリの中に8いたとして、残りの2はデーオスの中にいたんだ。そしてオレは
「……だからさっき、デーオスは意味ありげな事を言ってたのね……」
「まぁ安心しろ。デーオスはオレの中にちゃんといる。要は入れ替わったみたいなもんだ」
「そうだったんだ……。デーオス……今までの仕打ち、本当にゴメンね。そして……本当にありがとう」
ヒカリはデーオスに最大級の感謝を込めた。
もう二度と会えないと思っていた、ヒカリにとっての特別な存在、ゴルロラヴィンと再会させてくれたのだから……。
「……ところでヒカリ」
「何?」
「改めて聞くんだが……その、なんだ……オレは善行……出来ていたのか?」
「……少なくとも私の立場からすれば、最高の善行をしている真っ最中よ」
「それならば、オレは成し遂げたんだな?」
「私だけ満足させたってダメよ。世界中の人々にちゃんと善行しなきゃ……」
「だったら話は早い」
「えっ?」
自分を愛おしい程に抱きしめていたヒカリを突き放すと、ゴルロラヴィンはニヤニヤとした表情で語り出した。
「オレはこの数年間、お前の中で生きていたわけだが、それはつまり、お前がしてきた善行をオレもしていた事になるよな?」
「……は?」
「いやぁ、善行ってのは楽でいいな。なんなら、オレはもう善行を極めているな!フハハハハ!!」
ゴルロラヴィンの言葉によって、さっきまでとは打って変わり、怒りで顔を真っ赤にしたヒカリは……
「…………そんな事」
【あるわけないでしょうが!この悪魔ぁぁぁ!!】
「おう、オレは悪魔。オレに成し遂げられぬ事などない」
ヒカリのヒカリ てふてふまる @tefutefumaru
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