第4話 ライブ当日(後編)



●余談(読みとばしても支障ありません)

こんにちは、筆者です。

まずはここまで目を通していただき、ありがとうございます。


さて、物語の舞台は2021年の東京ということで、作中で話題の流行病についても書きました。察した方もいらっしゃるかもしれませんが、そうですコ○ナのことです。

それでふと思ったのです。みんなマスクしてるんじゃね、と。登場人物がマスクをしている作品など見たことがありません笑。


そこで舞台背景としては、物語上の2021年下においては、みんなマスクを外している環境であるということにしたいと思います笑。

どうでもいいかもですが、個人的に気になったので書かせていただきました。


長文失礼しました。



権兵衛


○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○


(ここから本編です)


みのりんの歌声が会場全体に響き渡る。

咲は突然の大音量に驚きつつ、それが美しい声であったため、変な葛藤をしていた。


(いい声、音なんだけど、耳が痛い……今度から耳栓もってこよ)


曲が進むにつれ、耳が慣れてきたのか、あまり耳障りは気にならなくなった。


会場は曲に乗せて各々がペンライトを振りかざす。それはまるで幻想的だった。青色の時は澄みわたる海のように、赤色の時は懐かしい夕焼け空のように。

咲も見よう見まねで、周りに合わせるように、ペンライトの色を切り替えていく。


そしてみのりんは登場から5曲続けて、ノンストップで歌い上げる。曲と曲の間を繋げるようにして、まるで一種の物語のように。


そして5曲完走しきると、会場の照明が一旦落ちる。咲はここまで圧倒され続けていたので、ここで肩の力が抜け、思い出したかのように呼吸をする。


(んはぁーーー)


「皆さん、改めましてこんばんは!七瀬みのりです!」


会場全体で拍手が巻き起こる。(声出しNGのため)


「本日は七瀬みのりライブツアー2021にお越しいただき、ありがとうございます!昨年は残念ながら開催出来なかったということもあり、1年越しにこうして皆さんに会えて、とても嬉しいです!」


(私もだよーーー!みのりんーーー!)


咲は心の中で叫ぶ。そして隣からも何か聞こえた。


「お……も……!」


(立花君、心の中の声漏れてるって!笑)


駿也の溢れた微かな声に気づく。そして咲が駿也の顔を見ると、その目には少し輝くものがあった。


(泣いてる!?)


すると駿也がこちらを向き、タイミング的にも目が合ってしまった。

咲はすかさず目をそらす。


(大丈夫だよー。見てないよー)

(うわっ。泣きそうなのバレたかな……)


ステージ上のみのりんは挨拶に続けて、ここまで歌い上げた5曲について紹介をしていく。


「まず1曲目は……」


一つ一つの楽曲に対する熱い思い。歌う上での心がけ。みのりんの人生上での楽曲の立ち位置、存在意義など。裏話を赤裸々に語る。


『さあ、ライブはまだまだこれからです!続いての曲はこの曲!』


合図とともに、印象的なギターイントロが流れる。


『回してっ!!』


みのりんのコールとともに観客が続々とタオルを回し始める。


(これはライブブルーレイで見た景色!!この空間に私もいる!!)


咲も勢いよくタオルを回し、飛び跳ねる。

そして咲は駿也の方をもう一度見る。


(これが……)


駿也の表情は生き生きとしており、今までに見たことのないものだった。


(これがライブの、そして推し活の醍醐味。人の目を気にせずに、思いのままに自分をさらけ出せる)


咲は推し活というものを再認識する。


(普段、何かに抑圧されているのかもしれないこの気持ち)

(あまり意識はしてこなかったけれど、好きなものを好きと表現すること。そんなの人の勝手で、自分が幸せならそれでいい。人の目など、どうでもいい)

(そしてライブは自分自身が主人公なのかも。推しを応援している自分が。そして自分がどれだけ推しているのかを表現する)


何かまた咲の中での推し活の意義が少し、ほんの少しだけ変わって見えた。


ライブは気づけば2時間半が経過し、終盤に入っていた。


「なんと次が本当に、本当に最後の曲となります」


既にアンコールを2回していたため、実質3度目の"最後の曲"宣言となる。

ずっとこの時間が続いて欲しいと思う咲は、一生、最後の曲です詐欺が続かないかなと思う。


『〜〜〜♪〜〜〜♪』


そしてついに最後の曲が終わってしまった。

本当に体感は秒であった。大学の講義2コマ分もあったとは到底思えない。


「終わっちゃったねー」

「う、うん」


駿也の表情は心なしか硬かった。


「どうかした?」

「この後の……緊張して」

「この後の?あっ!写真撮影当たったんだった!!」

「まさか!?忘れてたの!?」

「うん笑」


咲はライブの世界に入り込んでいて、写真撮影のことなど忘れていた。一方の駿也は1回目のアンコールあたりからソワソワしていたのだった。


○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○


「あっ!夢ガチャ当選者の方々ですか?」

「あ、はい!」


咲と駿也はスタッフに連れられて、いよいよ写真撮影をする部屋へと案内された。

一つ前の組の人が部屋に入る。少しだけ会話音は聞こえるが、内容はわからない。


「どうしよう……小田さん」

「どうしようって、写真撮ってもらって少し喋るだけでしょ」

「あー緊張する」

「面接じゃないんだからさ笑」


「次の方、部屋にお入りください」


スタッフの人の声がかかる。

駿也は言動からも表情からも分かるように、ど緊張している。一方の咲はあまり緊張していないように見えたが。


「「失礼します!」」


咲の顔面は完全にキマっていた。ガンギマリである。信じられないくらい緊張していた。ただし言動からはよくわからないものだった。


「あっ!こんばんは!七瀬みのりです」

「こっこんばんは〜。小田咲です」

「立花駿也です」

「咲ちゃんと駿也くんだね。今日は来てくれてありがとう!」

「…………はい」

「2人とも緊張してる?」


2人とも首を縦に振る。


「全然しなくていいよ。リラックスリラックス」

「じゃあ写真はどんなポーズで撮ろうか?」

「えーっと、っすー」


咲と駿也は互いに目を合わせる。


「ところで2人はどういう関係なのかな?もしかして恋人?」

「友達です!!」


やや食い気味で咲が答える。


「友達かぁー。うーん。じゃあ私を挟んで手を繋いで、バンザイなんてどうかな?」


2人は共に頷く。

そして2人とも高速で手汗をズボンで拭く。


「ふっ、なんか面白いね。2人とも」


「じゃあ撮りますよー。ハイ、チーズ!」

「ばんざーい!!」

「はい、OKです」


「2人ともありがとう!!これからもよろしくね!!また絶対に会おうねー!!」


2人とも高速で頷く。


「ははは!」


みのりんは笑いながら手を振り、2人を見送った。


こうして咲の人生初ライブは心に深く刻まれ、かけがえのない思い出の1ページとなるのだった。


○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○


「やっぱり小田さん緊張してましたね」

「違うよ!あの時マジで急にお腹痛くなって」

「またまた。隠さなくていいんすよ」

「隠してないわ!大体、あの時に『あー緊張する』なんて男から女に言うかね?情けないわー」

「別にいいでしょ。男だって弱音くらい吐いて」

「女々しいわー」


そして2人の中もこの1日でだいぶ深まった。



○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

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推しは負けヒロイン 権兵衛 @gombe

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