頂点の称号 3
ベルナーディアに体を見せにやってきたロックだったが、扉をノックしても返事がなかった。ドアノブに手をかけると鍵が開いているのがわかる。そのまま部屋の中へと入り進み、医務室のベッドで寝転がって待っていると、まるで自身のような大きな衝撃が床から突き上げてきた。
「な、なんだ!?」
扉からは煙が立ち込め穏やかではない雰囲気が漂う。
廊下に出て奥の部屋行くと、床の下から煙が発生していた。直後、床が開きそこから人影が現れた。何が何だかわからずいつでも魔法を放てるように手を向けると、聞こえてきたのは聞いたことのある声だった。
「待ちたまえ、君がここで魔法を使ったら建物が燃えてしまうだろう」
「ベルナーディア先生、そんなとこ何やってんだよ」
「何って研究さ」
「研究?」
「そういえば言ってなかったね。私がこの学園にいる主な理由は研究を自由にしていいからなのさ。ほかのとこだと何かと安全管理の問題でやらせてくれなくてね。ま、委員会の圧力には勝てないというわけさ」
手を窓へと向け魔法で開き、風を吹かせ煙を外へと排出すると、その場に汚れた白衣を脱ぎすて新しいものを羽織った。
ロックのバイタルチェックが終わると、ベルナーディアは部屋へ来るよう手招きした。ベルナーディアの部屋は学生寮よりも案外質素なもので、ベッドは医務室のものと同じで机なども特別高級なものではない。木製のテーブルの横にはシンプルな木製の椅子。クッション性は皆無だ。
柄のない真っ白なティーカップに紅茶を注ぎロックの前へ、ベルナーディアはマグカップにコーヒーを注いだ。
「紅茶をごちそうしてくれるってだけじゃないでしょ」
「まあね、君のことが気になったから調べようと思ったけど、どうせなら本人に聞けばいいのだと思いついたんだ」
「聞くことなんてあるのか? 俺に特別なことなんてないだろうに」
「まあね。ただ、気になるとすれば君の生まれだ。それほどの魔力量を有していながら魔力を流す道である魔力回路が貧弱すぎる」
「生まれつっても俺はマックスに拾われて育てられたから、そんな特別な家系にうまれたわけじゃないし」
「マックスにどこで拾われたんだ」
「魔族の館。付近の町の人たちがさらわれてて、その中の一人の女性が俺の親じゃないかって」
「ということは親はこれといって特別な才能をもっているわけではないと」
本来、魔力コアから外へと放出される魔力を支える魔力回路は、コアの成長に応じて回路も強化される。しかし、一週間の間にベルナーディアが調べた結果、ロックの魔力コアはとても多くの魔力を内包し、生成スピードも速いことが分かったが、魔力回路のほうは魔法を使い始めた子どものようにまだ未熟であることが判明した。
「君が力の調整ができないのにはこの魔力回路の未熟さが影響している」
「じゃあ、本当はもっと魔力をコントロールできるわけだ。魔力回路って成長させられないの」
「いろいろやってみたが今は無理だ」
「今は?」
「どうやらね、誰かが意図的にリミッターをかけているようだ。それもかなり高度な魔法でね。魔法をかけた本人か余程魔法解析が上手い人でもない限り難しだろう。気になっているのはそれを誰にかけられたかなのだけど、身に覚えはないかい?」
「まったく。バーナード騎士団のほとんどは戦闘用の魔法しか使ってなかったし」
「それは困ったねぇ。君に聞けば多少は解明できると思ったが、そううまくはいかないものだ」
次はロックからベルナーディアへ質問した。なぜこんな場所で研究をしているのかと。答えはほぼさっき言っていたようなものだが、研究するだけなら別に学園に入る必要もない。
研究機関に入ればそれなりに自由に研究はできるはずで、結果を出している研究者なら自分で研究所を持つことも少なくない。優秀な研究者には王国から支援金も出る上、場所さえ確保できれば自由にできる。
「研究者ってのはね。あまりにも現実を見なさすぎるんだよ。箱の中に閉じこもっていたらその世界しか見えなくなる。一つの研究に固執しては想像力も発想力もなくなり、自らの答えがどんどん頑固になるのがわからないのさ。でも、ここなら多くの生徒たち、教師たち、魔法使いがいる。時代にあわせ変化していくカリキュラムと、それにあわせ成長していく生徒たちこそ、もっとも新鮮な観察対象なのだよ」
「純粋なような不純なような……。でも、先生の研究への熱意はなんとなくわかった気がする」
「まぁ、それでもこんなとこに追いやられた日陰者だが、むしろ好都合さ」
「日向にいるやつばかりが世界を変えるとは限らない。マックスだって、元はたった一人のハンターだった。誰の目にも止まらないような平凡な存在。なのに、今やこの大陸で随一の騎士団。先生だってきっとそうなると思う」
「嬉しいことを言ってくれるね。だけど、君自身はどうだい?」
「俺自身?」
「小耳に挟んだよ。君はこの学園のトップを目指しているそうじゃないか。いや、魔法使いとしてのトップ。それは中々に過酷な道だと自覚しているのかい?」
魔法使いには、国から認められた国家魔法使いと学園に通う学生魔法使い。ハンターとして活動するハンター魔法使い。さらには国家資格を持たない一般魔法使いがいる。
さらに、今後検討されている師弟制度による師匠としてのマスター魔法使い。これらのすべてを押しのけトップに君臨するというのは子どもでさえ不可能だと感じてしまうほどのこと。
炎魔法しか使えないロックには常人以上に過酷な道となる。
「正直、あらゆる分野の魔法使いがいてその全ての上に立つなんてのは夢物語だと思う」
「なら、どうするんだい」
「一つだけある。みんながあまり目指さない上に、しっかりと強い奴が上にいて、俺が目指すべき称号。――炎王だ」
国家に認められた属性ごとの最高級魔法使い。それらに属性の名前の後に王とつけられた称号を得ることができる。これは名実ともに属性においては魔法使いとしてトップになったことの何よりの証明となる。
ロックは現状簡単な魔法でさえも使えない代わりに、炎だけなら三年生レベル、三級魔法使い並みの火力が出せることから、ここに狙いを定めたのは現実的な目標だった。
「カテゴリーマスターを目指すわけだ」
「でも、その前にやらなきゃいけないことは山積みすぎる。まずは学園での評価点を上げないと」
「いいじゃないか。道は険しいほど成長を促す。やはり私の目に狂いはなかった。バイタルチェックが終わった後もここに来るといい。評価点を上げる手助けをしてやろう」
「本当か!?」
「タダではないがね。あくまでWINWINと行こうじゃないか」
魔法学園ファンタジカ 田山 凪 @RuNext
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