頂点の称号 2
エレイナにも会い無事を伝えると、泣きそうな顔になりながらロックの身を案じた。
次の日からは授業に復帰したが、少しの間定期的にヘルナ―ディアのもとで体のチェックをしてらもらうことになる。ベルナードも決闘をする原因はロックの評価点の低さだったとはいえ、これほど体を崩すと思っていなかったことから、ロックに謝罪した。
決闘の結果はロックの勝利で終わったことになっているが、どのようにして終わったのかロックは覚えていなかった。昼食を食べながらステラに問いかけた。
「やっぱ覚えてないのね。ブライトが戦意を失ったのにあんたはそれでも最後の魔法を放とうとした。見かねたドム先生が止めに入ったけど、すでに魔法が放たれて、その結果フィールドは炎に包まれた」
「ブライトは無事なのか?」
「ドム先生が割って入ったからね。魔断石で作られた大剣のおかげでドム先生やブライトには一切傷はないけど、先生も驚いていたわ。魔断石の大剣であそこまで魔法に押されたのは久しぶりだって」
「やりすぎた自覚はある。記憶が抜けてるのだって最後は気絶してたからだろうし」
「でも、やるべきことは見えたじゃない」
「どういうことだ?」
「ロックに必要なのは最大火力を如何にして調整するか。下は調整できるんだから次は上をどうにかしなさい」
「下だって道作って接続してないと上手くやれないぞ」
「条件付きでも調整できるだけましよ」
今まで凡人以下と思われていたロックは決闘の影響で知名度が上がった。学園内を歩いていても時折声をかけられ、この前の決闘のことについて聞かれたり、ブライトを倒したことに感激した生徒も現れたが、それと同時に怒らせるとやばいやつというレッテルも張られていた。
部屋に戻りベッドで横になっていると、マックスとの日々を思い出した。
天井の明かりに手をかざす。あの時、空にかざした手よりも大きくなったが、いまだ自分で力を制御することができないことが悔しかった。
「そっちは今、何をしてたんだ……」
バーナード騎士団は現在海を越えて東の国へと向かった。大きな戦いで一時的に国としての機能が壊れ、他国から侵略を仕掛けようとするものが増えたために、援軍として知らない国で戦っている。
だが、そんなことはロックは知らない。孤児院に預けられてから学園に入る九年の間、ロックは騎士団の情報を追おうとはしなかった。
外も暗くなり早めに寝ようとした時、窓の外からトントンと音が聞こえた。起き上がり窓へと向かいカーテンを開けると、小柄な女子生徒が箒に立って飛んでいた。
名はマーネン・リオナル。小柄かつ薄紫のツインテールに幼げな見た目だが、見た目に反して口が悪く、ガサツなところも目立ち減点をよくされているという噂もある。それでも魔法の腕は一年の中でも優秀で、特に道具を使ったやり方を好む。
「どうしたんだこんな時間にって……誰だっけ?」
「あたしマーネン。合同授業の時に一度会ってる。んで、学園長が呼んでるから声かけに来たわけ」
「学園長が? なんで俺を」
「知らねぇよ。それにあんただけじゃない。あたしも、それにステラも、それ以外に何人か呼ばれてるってよ」
「ステラも?」
学園の中央の最上階にある執務室へと向かうと、すでに一年から三年まで学園長に呼ばれた面々が揃っていた。
「ロック連れてきたよ」
「ご苦労。全員そこに並んでくれたまえ」
執務室の窓際にある机の前に全員が並んだ。
学園長はワインレッドのスーツを身に纏うひげが似合うダンディな男性だ。学園長にしては若い方である。
「夜に呼び出してすまないね。そこまで時間は取らせない。単刀直入に言うと、君たちは私が選んだ一年から三年までの精鋭……というと大げさで嘘が混じるな。期待の魔法使いたちとでも言うのが正解だろう」
ここに集まった生徒たちは事実優秀な生徒もいるが、それだけではない。。
ステラやマーネンは一年でも優秀であるが、家柄で言えばブライトのほうが上であり、魔法の実力もリラのほうが上。決して一番というわけではない。ロックも炎だけならかなり力を発揮したが、コントロールができないのはすでに知られている。
二年、三年の生徒たちもどこかで見たか名前を聞いたことある程度で、学年のトップというわけでは決してない。
「君たちには学年ごとにスリーマンセルとして時折私からの依頼をこなしてもらいたい」
集められた生徒は全員「はぁ?」と言いかけそうになりながらもそれをなんとか押し殺し、学園長の話に耳を傾ける。
「近年、マジックアカデミアが幅を利かせ実習で国の人たちへの貢献も行っているという。我々もその勢いにあやかろうというわけだ。ブームに乗っておくことは大事なことだ」
すると、ステラが手をあげた。
「私たちは通常の授業しながらそれをするわけですよね。休日の返上もしないといけないのですか?」
「そういうこともあるだろう。授業に関しては評価点次第で免除、もしくは自習できるようにこちらで対応する」
ステラは集められた生徒たちを見渡しさらに言った。
「ここにいる面々はどうやら数回減点を受けているようですが。それには何か意図があってのことで?」
「よく知っているね。まぁ、意図はあるよ。減点を受けている中でも自らの意思が強い生徒たちを集めた」
「それはどういうことですか」
「時期にわかることだ」
ここに集められた生徒たちを、国家支援協力学園部隊とし、これから学園や魔法使いの状況改善のために活動することはすでに決定事項だった。
大した説明もなく、決定事項を唐突に伝えられただけで今回の話は終わった。それぞれが部屋へと戻ろうとした時、三年の髪をオールバックにまとめたいかつい大柄な男子生徒ががロックを呼び止めた。見た目からはほかの生徒よりも歳をとっているようにも見える。
「お前、あのいけ好かねぇハーメルン家の坊主とやりあったんだろ」
「やりましたけど」
「俺は野暮用で見られなかったが噂じゃあかなり派手にやったみたいだな。いつか俺と手合わせしてもらおうか」
「はは……。お手柔らかに……」
ロックの背中をバンッと一度叩き笑いながら男子生徒は去っていった。
「んで、まさかあんたらと一緒とはね~。ま、別クラスだからあんま喋ったことないし一応自己紹介しとこうや。あたしはマーネン」
「ステラよ」
「ロックだ。……って二人は何で減点受けたんだ?」
「あたしは寮の部屋をぶっ壊しちまったから。あと細かいのもろもろ」
「無断外出による遠出と襲ってきた奴らを痛めつけすぎたから。同じく細かい減点」
「二人とも案外アグレッシブだな……」
「あんたほどじゃないって。ま、これからよろしくな」
そういうとマーネンは窓から飛び出し箒に乗って部屋へと戻っていった。
二人は途中まで共に戻ることにした。
男子寮と女子寮で分かれる直前、ステラが言う。
「ロック、決闘のことどう考えてる?」
「どうって言われても。俺が未熟だった結果としか言えない」
「それはそうね。でも、あんたにとってはいい機会じゃない?」
「どういうことだ」
「マジックアカデミアの地域貢献は魔法を使えない人たちへのアプローチでもある。魔法使いという存在が貴族だけではなく、より身近に感じてもらうためのね。でも、その中には時折戦いもあるらしいわ」
「誰と戦うってんだよ」
「モンスターとかね」
本来、モンスターの相手はハンターギルドが行う。ハンターはライセンスを取得することで狩猟行為に報酬をもらうことのできる者たち。しかし、モンスターの大量発生時期や手薄になった時には魔法使いに声がかかることも少なくはない。
その際には学生なら学校側が臨時ライセンスの発行を行い、ハンターと同等の活動が行える。
「たまに学生に護衛なんかを頼む人もいるらしいわ。ハンターと違って格安だし」
「いいように使われてるだけじゃねぇか」
「それでも、今のあんたには必要でしょ。圧倒的な経験不足を補うチャンスなんだから」
「それはそうだけど」
「あんた、あの時言ってたでしょ。一番になるって。評価点も上げられれば学園で優位に立てるし、外での知名度も自然とあがる。やれるだけやってみたらいいわ」
「確かにそうだな。ちょっとナイーブになってたけど、やる気出てきた。ありがとなステラ。おやすみ」
ロックは大きく手を振り、走って寮へと戻っていった。
ステラは軽く手をあげ二度振り返した。
「さて、これからどうなるかしらね」
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