第27話

これを頭に入れた上で話を進めると、


私が潜り込んだ方の、斜面上側の出入り口は、

上から俯瞰して

辺AB上、左下の直角である角Bのすぐ側にあり、


道路には近い、斜面下側の出入口は、

辺CD上、右上の鈍角である角Dのすぐ側にある。


つまり、斜面上側の出入口から、

斜面下側の出入口に抜けるには

大雑把に考えれば、

対角線BDの上を通れば良い、ということになる。



ただ、現実では図形学の考え通りに行かない。


辺ABの中点Eと

辺CDの中点Fとを結ぶ、

線分EF上についている角度もそうだけれど、


「雑木林」の中を通れる道、

と言うより、通りやすい所というのはある程度決まっていて、


今ば随分下生えの笹で覆われてはいるけれど、

それでも、人の足で踏み固められている部分は残っている。


そして、それは必ずしも真っ直ぐではない。



私が、敢えてその道を避けて、下生えの笹の中を進んでいるのは、


「敵」が、その「通りやすい所」を進んで来た時に、

自分が見つからないため、そして、逃走しやすいため、

何となれば攻撃にも有利だからだ。



(これも旧日本軍の、『特攻隊』や『人間魚雷』を使った、

「討ち死に必至」を覚悟の上での作戦でもない限り、

退路を確保しないで戦に臨むのは阿呆のやるこった、

…とは、例によって師匠の言である。



ちなみに、その時師匠は、


「手前ンとこの兵隊を『使い捨てる』のを、端っから勘定に入れた作戦なンざ、立てた野郎も阿呆だが、

そンな阿呆な作戦に実行の許可を出した野郎はもっと阿呆で、間抜けで、おまけに大馬鹿野郎だ。

そんな戦況になった日にゃ、もう一番上が白旗掲げるよか仕様が無ェだろうに。

『善く敗るる者は滅びず』てぇ言葉を知らねェか、上から下まで揃いも揃っての大馬鹿野郎共め…」

と、熟柿臭い息を吐きつつ、


酒精で赫く染まった顔に、思い切り縦方向に稲妻を走らせた、

金時どころか、「『鍾馗様』の火事見舞い」を絵に描いて色を着けたが如きご面相と、

これ以上は無いであろう、苦々しさの隠せない…どころか、

むしろその苦々しさを敢えて自ら全面に押し出したような声音とを以って、のたもうていたのを思い出す。



その時の私は、「もう、…師匠?……全く、変に怒り上戸なんだから…」

と呆れたものだけれども、今なら判る。


師匠からは、以来この件に就いて何も聞かないので

あくまで私の憶測でしかないけれど、


師匠は、その「大馬鹿野郎共」のせいで、

きっと、大事な誰かを失ったのだ。


…いや、もしかしすると師匠は、

その、自分の大事な誰かにも


「むざむざ命を捨てに行った大馬鹿野郎…!」

と、憤慨していたのかも知れない。



いずれにしろ、私の勝手な個人的憶測に過ぎないのだけれど。


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運び屋、はじめました。 木ノ下 朝陽 @IWAKI_Takeo

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