奥村剛男の憂患
彼女の身に一体、何があったと言うのだ?
何故彼女はあの日、会談場所に。新大久保に姿を現さなかったのだろう。
信用できなかったから――確かに、そうかもしれない。
気分が変わったから――まさか。
いやしかし、その線もないとは言い切れない。
そもそも私は彼女のことをよく知らない。否、知っているつもりでいた――ただネット上で会話を交わし合う程度の仲に過ぎないというのに、私は何か彼女のことを理解できているかのように、そう思い込んでいた。思い込もうとしていた。しかし相手は一人の人間なのだ。
彼女は確かに宮川春子のファナティックな信者かもしれない。彼女が持つ宮川春子に対する一方的な、強烈な愛慕には異常な部分があり、そこだけを取れば彼女を見る目には色眼鏡がついてしまう。だが一方で、彼女はたんなる一個人でしかない。宮川春子が狂信的に好きというだけで、彼女自身はたんなる一個人、一女性に過ぎない。私は彼女をたんに宮川春子のファナティックな信者として考えていて、彼女自身それそのものを考えないままで居たのではないか。
不思議なことに――私は彼女に、白石良美に裏切られてあの新大久保駅前の寒々とした人混みの中で待ちぼうけを食らわされたというのに、私はただ純粋に彼女のことが心配でしようがなかった。
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